コラム

公開 2022.02.01 更新 2023.02.14

早期退職制度とは?会社・従業員のメリット・デメリットと導入時の注意点

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早期退職制度とは、通常の退職よりも上乗せした退職金を支給することなどを条件として退職者を募集することにより、従業員の早期退職を促す制度のことです。
早期退職制度を利用することで、社内の若返りが図れるほか、退職者の第二の人生を支援することにもつながります。

では、早期退職制度にはどのようなメリットがあり、導入するためにはどのような手順をとればよいのでしょうか?
今回は、早期退職制度の導入による企業と従業員それぞれのメリット・デメリット、早期退職制度を新規で導入する際の注意点などについて、弁護士がわかりやすく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。明治大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。健全な企業活動の維持には法的知識を活用したリスクマネジメントが重要であり、それこそが働く人たちの生活を守ることに繋がるとの考えから、特に企業法務に注力。常にスピード感をもって案件に対応することを心がけている。
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早期退職制度とは?

早期退職制度とは、退職金の割り増しなどを見返りに、企業が従業員の早期退職を促す制度です。
はじめに、早期退職制度の概要について解説しましょう。

制度の概要

早期退職制度とは、就業規則や退職金規程に定めを置くことにより、早期の退職者に退職金を割り増しして支払う制度です。
一定以上の年齢の人や勤続年数の人のみを対象とするなど、対象者を絞る形で規程をつくるケースが多く、企業の若返りを目的として導入されることや、業績が低迷したときに人件費を削減することを目的として行われることが多いといえます。

希望退職制度との違い

従業員に早期の退職を促す制度として、他に「希望退職制度」も存在し、両者をまとめて「早期退職制度」と呼ぶこともあります。
あえて早期退職制度と希望退職制度が別で語られる場合には、早期退職制度はその企業の恒常的な仕組みとして導入される制度を指し、希望退職制度は一時的な人員整理などの目的で導入される制度を指すことが一般的です。

早期退職制度の目的

企業は、どのような目的で早期退職制度を導入するのでしょうか?
挙げられる目的は、主に次の2点です。

第二の人生の後押し

早期退職制度は、企業側がある従業員を一方的に解雇したり、定年退職の年齢を引き下げたりする制度ではありません。
たとえ企業が早期退職制度を導入したとしても、早期退職制度に応募するかどうかは、あくまでも従業員の自由となります。
そのため、従業員の人生の選択肢を広げ、第二の人生を後押しする目的が含まれる場合が多いでしょう。

早期に退職することで、定年退職の年齢となってから退職した場合と比べて希望する転職先を見つけたり、独立開業できる可能性が高くなります。

社内の若返り

早期退職制度では、対象者に制限を設けることが一般的です。
「〇歳以上」と年齢で区切る場合のほか、「勤続〇年以上」など勤務期間で区切る場合などが多いでしょう。
そのため、早期退職制度を使って退職する人は、一定以上の年齢の人となります。

このことから、早期退職制度を導入して一定の退職者が生じることで、社内の若返りを図ることが可能となります。

また、早期退職制度で対象とする年齢層の人は、給与が高いことが少なくありません。

そのため、一時的に退職金の支払いを負担したとしても、長期的に見れば人件費を抑える効果も期待できるでしょう。

早期退職制度の主な優遇措置

早期退職制度を導入する際には、早期退職制度への応募者を対処に、何らかの優遇措置を設けることが一般的です。
この優遇措置を設けることこそが、早期退職制度のポイントであるといえるでしょう。

では、早期退職制度の優遇制度には、どのようなものがあるのでしょうか?
主な優遇制度は、次のとおりです。

割り増し退職金

早期退職制度でもっともよく導入される優遇制度は、退職金の割り増しです。
従業員からすれば、退職金が割り増されるからこそ早期退職に応募するのであり、早期退職制度は、割り増し退職金の導入とセットであるといっても過言ではないでしょう。

退職金の割り増し部分である特別加算金の額や定め方は、企業によってさまざまです。
決め方としては、一律いくらと金額で定める場合もあれば、応募者の月収〇か月分などと定める場合もあります。

再就職支援制度

早期退職制度に応募した人を対象に、再就職支援制度を設ける場合もあります。
これは、企業が再就職を支援する人材会社などと提携するなどして、再就職先の紹介などをする制度です。

特に、セカンドキャリアに踏み出したい従業員にとっては、再就職支援制度があることで、早期退職制度に応募しやすくなるでしょう。

特別休暇制度

早期退職制度に応募した人を退職に、勤務の免除や特別休暇制度を設ける場合があります。

特別休暇として付与する日数や決め方などは企業によって異なりますが、あらかじめ定めた一定日数の特別休暇を付与する場合や、早期退職の承認日から退職日までの全日数について勤務免除をする場合などが多いでしょう。

早期退職をする場合には、転職活動をしたりあいさつ回りをしたりすることが多いため、このような対応をしやすくするための配慮です。

早期退職制度を導入する会社・従業員のメリット・デメリット

早期退職制度を導入した場合、会社と従業員にはそれぞれ異なるメリットとデメリットが存在します。
それぞれ、確認していきましょう。

会社のメリット

早期退職制度を導入する会社のメリットは、主に次の2点です。

人件費が削減できる

早期退職制度により、退職した従業員の分の人件費を長期にわたって削減することが可能です。
早期退職制度を導入する際には「〇歳以上」など一定の下限年齢の制限や「勤続〇年以上」など下限の勤続年数の制限を設けることが一般的であり、これらの人は人件費が比較的高いことも多いため、大きな削減効果が期待できます。

また、人員削減のために利用される整理解雇は、認められるための要件がかなり厳しいうえ、労使紛争が発生しやすい制度ですが、早期退職制度や希望退職制度は、あくまで会社と従業員の合意による退職を目指すもので、労使紛争回避にもつながり、しかも、希望退職の募集は、整理解雇が認められるための要件である「回避努力措置」の一つと考えられています。

会社の若返りを図りやすくなる

早期退職制度で下限年齢の制限を設けることにより、一定以上の年齢である従業員の退職が促されることとなります。
これにより、会社の若返り効果が期待できます。

会社のデメリット

早期退職制度を導入することによる会社のデメリットとしては、主に次の2点が挙げられます。

退職金支払いで一時的に支出が増える

早期退職制度を導入することにより、例年よりも多い人数の退職者が発生すれば、退職金の支払いで一時的に支出が増える可能性があります。
退職金は現預金の支出を伴うものであるため、現預金の残高に余裕がない時期に導入をしてしまうと、資金繰りに支障が生じる懸念があります。

有能な人材が退職してしまうおそれがある

早期退職制度の導入により、会社としては退職して欲しくないような有能な人材が早期退職に応募してしまう可能性があります。
退職には会社の承諾を必要とすることが一般的ですが、一度退職の意思を固められてしまえば、翻意させることは容易ではないでしょう。

従業員のメリット

早期退職制度を利用して退職する従業員にとってのメリットは、次のとおりです。
なお、早期退職制度であれば会社都合の退職となることをメリットとして挙げている説明も散見されますが、会社都合となるか自己都合となるかは制度の設計や運用状況などにより異なります。
そのため、「自己都合となるのであれば応募しない」などの事情があれば、あらかじめ弁護士などの専門家へ個別事情をもとに相談するとよいでしょう。

退職金が割増しされる

従業員が早期退職制度に応募する最大のメリットは、早期の退職により退職金が上乗せで支給されることです。
早期退職制度に応募することでどの程度退職金が上乗せされるのか、よく確認してから応募しましょう。

次のキャリアに踏み出しやすくなる

早期に退職をすることで、次のキャリアへと踏み出しやすくなることもメリットの一つです。
ただし、同業他社への転職が禁じられている場合がありますので、次のキャリアを検討する前に会社の就業規則などをよく確認しておくことをおすすめします。

従業員のデメリット

早期退職制度に応募することによる従業員のデメリットとしては、次のものが挙げられます。

必ずしも良い転職先が見つかるとは限らない

早期退職制度により退職した場合、次の勤務先がスムーズに見つかる場合ばかりとは限りません。
そのため、キャリアに空白期間を生じさせたくない場合には、あらかじめ転職先の目途をつけたうえで早期退職に申し込むことをおすすめします。

早期退職制度を設けている会社では、転職先の紹介をしてくれるケースもありますので、相談してみるとよいでしょう。

年金が下がる可能性がある

サラリーマンなど給与所得者の年金は、老齢基礎年金と老齢厚生年金の2種類が支給されます。
このうち、老齢厚生年金は給与の額などに連動して金額が変わるため、早期退職によりキャリアに空白期間が生じたり給与が下がったりすることにより、連動して支給額が低くなる場合があります。

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早期退職制度を設計・実施する際の手順・流れ

企業が早期退職制度を導入したいと考えた場合、制度の導入はどのように進めていけばよいのでしょうか?
早期退職制度を設計し、実施するまでの一般的な手順や流れは次のとおりです。

弁護士に相談する

早期退職制度を導入したい場合には、まず労務問題にくわしい弁護士にご相談ください。
なぜなら、制度設計に問題があれば、労使トラブルの原因となる可能性があるためです。

そのため、早期退職制度を導入する際にはまず弁護士へ相談し、弁護士のサポートを受けつつ制度設計を進めていくとよいでしょう。

制度の目的と概要を定める

次に、早期退職制度を導入する目的を明確化し、制度の概要を決めていきます。

なお、企業側が達成したい目的によっては、早期退職制度導入以外に適切な方法があるかもしれません。
このあたりも弁護士へ相談しつつ、制度の概要や方向性などを定めていくとよいでしょう。

対象者や条件を具体化する

早期退職制度を導入することや、制度の大まかな方向性が決まったら、より詳細な条件を詰めていきます。
たとえば、早期退職制度の対象者や上乗せする退職金の計算方法、特別休暇の有無やその日数などです。

特に早期退職制度の対象者は、慎重に検討を重ねる必要があるでしょう。

ここを誤ると、企業としては社内に残ってほしい人が早期退職制度に応募してしまったり、想定よりも多くの人が早期退職制度に応募したりすることで、事業が立ち行かなくなる危険性があるためです。

その一方で、対象者をあまりにも狭めてしまえば、早期退職制度を設けたとしても、ほとんど応募者が出ない可能性もあるでしょう。

労使間で協議する

経営者側で早期退職優遇制度の概要が決まったら、労使間で協議しましょう。

経営者側で決めた内容を一方的に押し付けるのではなく、労働組合など従業員側の意見を反映させることで、早期退職制度への納得感が得やすくなります。

取締役会で合意する

労使間の協議がまとまったら、取締役会設置会社においては、取締役会で決議をして早期退職制度を導入します。

なお、早期退職制度の導入について取締役会での決議が必要となる理由は、会社法(362条4項)で個々の取締役には委任できないとされる「重要な業務執行の決定」にあたると考えられるためです。

就業規則を改訂する

早期退職制度の導入は、「退職に関する事項」であり、就業規則上の「絶対的必要記載事項」に該当します(労働基準法89条1項3号)。

そのため、早期退職制度を新たに導入するにあたっては、原則として就業規則の変更が必要です。

就業規則を変更するには、労働者の過半数を代表する者の意見書などを作成したうえで、労働基準監督署へ届け出なければなりません。

従業員に説明・周知する

早期退職制度を導入したら、改めて従業員に制度内容を説明し、周知しましょう。
せっかく制度を導入しても、従業員が制度の存在を知らなかったり理解していなかったりすれば、利用されない可能性が高くなってしまうためです。

また、会社側の説明が不足していれば、いわゆるリストラであると誤解され、会社の業績が危ないのではないかと思われてしまうかもしれません。
従業員側にこのような懸念が広がれば、優秀な従業員が退職するなど、思わぬ人材の流出につながるリスクがあります。

そのため、特に人員削減目的ではないことなどを、従業員に対して丁寧に説明する必要があるでしょう。

早期退職制度を導入する際の注意点

企業が新たに早期退職制度を導入する際には、次の点に注意しましょう。

従業員に導入の意図が誤解されないよう十分説明する

従業員から見た場合、早期退職制度の導入がリストラ計画の一つだと捉えられてしまうことがあります。
場合によっては、企業の業績が悪化しているのではないかとの懸念が広がってしまうケースもあるでしょう。
このような誤解が生じると、早期退職制度の対象者以外にも人材が流出してしまったり、従業員の士気が低下してしまったりするおそれがあります。
こうした事態を避けるため、制度を導入する際にはあらかじめ従業員に制度内容と制度導入の意図をよく説明することが重要です。

制度を十分作りこむ

早期退職制度を導入するには、就業規則に記載をしたり退職金規程を作成したりすることが必要です。
就業規則や退職金規程のひな型はインターネットを検索すれば簡単に見つかるかと思いますが、これをそのまま利用することはおすすめできません。

特に、早期退職制度は企業によって制度導入の目的や目指す効果が異なる場合が多く、単に一般論を記したり他社のために作られたりしたひな形では不十分です。

また、男女雇用機会均等法など、遵守すべき法規も多いので、早期退職制度を導入する際には、弁護士などの専門家に相談のうえで慎重に制度設計を行い、自社に合った規程をつくり込むようにしましょう。

なお、Authense法律事務所では、多様な企業法務ニーズに対応するさまざまな料金プランをご用意しております。
ぜひ一度ご覧ください。

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会社の承諾が必要なことを周知する

早期退職制度では、制度利用にあたって会社の承諾が必要となるように制度設計をすることが一般的です。
しかし、制度内容が周知されていなければ、申し出さえすれば必ず早期退職ができると誤解されてしまうかもしれません。

その結果、申し出たにも関わらず、承認されなかった従業員は、退職を希望したという事実を抱えたままその会社に残ることになり、不安を抱えたまま仕事をしなければならなくなるかもしれません。

制度導入の際には、早期退職制度を利用した退職には会社の承諾が必要なことなど制度の内容を従業員へよく周知しましょう。

人材と一緒に情報が流出しないよう注意する

早期退職制度を利用する従業員の中には、同業他社や業種の近い他社へ転職する人もいるでしょう。
この際に、人材と一緒に機密情報が流出してしまわないように注意が必要です。
具体的には、退職する従業員との間で秘密保持契約を締結することや、秘密保持に関する誓約書を提出させることなどが考えられます。

まとめ

早期退職制度は、会社の若返りを図ったり、長期的に見た際の人件費を削減したりするために、検討したい制度の一つです。
また、早期退職制度を利用する従業員としても、セカンドキャリアを検討しやすくなるというメリットがあります。

ただし、制度設計や運用方法を誤ると、退職して欲しくない人材の流出や情報の流出などにつながってしまう懸念がるため注意が必要です。
早期退職制度の導入を検討する際には、弁護士に相談のうえ制度や運用方法をしっかりとつくりこむことをおすすめします。

Authense法律事務所には、早期退職制度など人事制度設計にくわしい弁護士が多数在籍しております。
また、グループ内に社会保険労務士法人を併設しており、社労士と連携をしたトータルでのサポートが可能です。
早期退職制度の導入をご検討の際には、Authense法律事務所までご相談ください。

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