コラム

公開 2022.07.26 更新 2023.03.15

2022年5月解禁の「ネット不動産」とは?仲介・管理業者、ゼネコンなどへの影響と対策

2022年5月解禁の「ネット不動産」とは?仲介・管理業者、ゼネコンなどへの影響と対策

ネット不動産の解禁や不動産テック企業の台頭は、不動産業者にとって非常に大きな出来事ではないでしょうか?
今回は、ネット不動産がユーザーに与えるメリットやネット不動産解禁が不動産仲介業者へ与える影響などについて、弁護士が詳しく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。元裁判官。企業法務、M&A、労働法、事業承継、倒産法(事業再生含む)等、企業に係わる幅広い分野を中心とした法律問題に取り組む。弁護士としてだけでなく、裁判官としてこれまで携わった数多くの案件実績や、中小企業のみならず、大企業や公的企業からの依頼を受けた経験と実績を活かし、企業組織の課題を解決する多面的かつ実践的なアドバイスを提供している。
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ネット不動産とは

ネット不動産とは、不動産取引のオンライン化のことです。
インターネットの発達と宅建業法の改正などにより、不動産取引の実情は大きく変わりつつあります。

たとえば、従来では上京先で借りる予定のアパートを探したければ、そのために一度現地へ出向いて内見をすることが一般的でした。
また、その物件を契約するためには不動産仲介会社の事務所へ出向き、宅建士から対面で重要事項説明を受けたうえで、書面で契約を交わさなければなりません。

このような状況が、ネット不動産の解禁などにより変わりつつあります。
ネット不動産の全面解禁により、これらすべての手続きがオンラインで完結できることとなったためです。

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ネット不動産を利用するメリット

一般消費者にとって、ネット不動産を利用することにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
主なメリットを、5つ紹介します。

移動時間や移動費用の節約となる

ネット不動産を利用する最大のメリットは、移動時間や移動費用を節約できる点にあります。
従来は、上京や海外からの帰国などに伴って今後生活する場所となる不動産を探すにあたり、現地で内見しなければ物件の状態がよくわからない点や、契約の前に対面で説明を受けるべきであった点などがハードルとなっていました。

一方、オンラインで内見をするサービスを利用することにより、遠方からであっても物件の様子を確認することが可能となります。
特に最近では、技術の進歩により、WEB上からでも実際の現地での内見と変わらない程度に物件の状態を把握できるサービスなども見受けられます。
また、物件の賃貸借契約の際の重要事項説明などもオンライン上で完結できることにより、わざわざ説明を聞いたり契約を交わしたりするためだけに、現地近くの仲介会社まで出向く必要がなくなりました。

場所を問わずに利用ができる

オンラインで内見や契約が完結できるとなれば、そのためだけに現地へ出向く必要がなくなります。
そのため、場所を問わずに物件の賃貸や購入をすることが可能です。

これにより、先ほどお伝えしたような上京や海外からの帰国などに伴う物件探しがしやすくなる他、遠方からの不動産投資が活性化する効果も期待できるでしょう。

家族などと一緒に内見をしやすい

特に初めて一人暮らしをする場合などには、不安を感じる人も少なくないでしょう。
しかし、家族とともに現地へ出向けば費用がかさんでしまうため、やむを得ず一人で現地へ出向き、内見や契約をしていたケースも多かったのではないかと思います。
また、大学進学を機に一人暮らしを始める場合などでは、いきなり一人で賃貸借契約を締結することはかなり負担が大きく、契約条件などについてよくわからないまま、不利な契約をしてしまうケースもあるかもしれません。

しかし、オンラインで内見から契約まで完結できるとなれば、家族と共に内見を受けたり説明を聞いたりしやすくなります。

家から出ずに物件探しができる

コロナ禍などにより不要不急の外出を控えたい人や、障害などで外出が負担となる人などにとっては、家から出ずに内見や契約が完結できる点が大きなメリットの一つとなります。

担当者へ気軽に質問ができる

オンラインで内見や契約をすることにより、家族などとともに説明を聞きやすくなります。
これにより、担当者へその場で気軽に質問がしやすくなる点も、メリットの1つであると言えるでしょう。

ネット不動産に関する声(引用)

オンライン不動産取引マーケットプレイス「RENOSY(リノシー)」を運営する株式会社GA technologiesが、ネット不動産についてのアンケートを行い公表しました。※1

「RENOSY」は、「住まいにまつわるすべてを、オンラインで、一社で完結させる」をコンセプトに、不動産の賃貸や売買、投資などを行うサービスです。※2
中でも、不動産投資においては、アプリで簡単に物件管理ができるサービスや、顧客に対してAI(人工知能)で算出した優良物件を提案するサービスなどを展開しています。

ここでは、当該アンケート結果を紹介します。

利用してみたい

「物件の検索から面談や商談、契約手続きまで、すべてがオンライン上で完結する不動産取引のサービスに関して、積極的に利用したいと思いますか?」との質問に対し、「そう思う」との回答が14.5%、「どちらかと言えばそう思う」との回答が39.8%となり、合計で54.3%を占めています。

ユーザーはネット不動産を好意的に捉えており、関心度が高まっているといえるでしょう。

過去の不動産取引に不満があった

過去の不動産取引の満足度を聞いた「不動産取引の経験で、あてはまるものをお選びください。複数回取引経験のある方、直近の経験についてお答えください」との設問では、「不満があった」との回答が14.2%、「どちらかと言えば不満があった」との回答が29.7%(2つの合計は43.9%)を占めました。

また、不動産取引の流れについて、フローごとの満足度を訪ねたところ、58.7%の人が「書面でのやり取りや押印などの契約手続き」、53.7%の人が「重要事項説明や売買契約書の説明など、購入の申込み」と回答しています(いずれも、「不便だと思う。」及び「どちらかと言えば不便だと思う。」の合計)。

これまで法律上義務とされていたこれらの行為が、ユーザーにとっては不便と感じる手続きとなっていたことがわかります。

紙よりデータでのやり取りが望ましい

「不動産取引における契約の手続きは、「紙・書面(FAXや書類原本)」と「データ(メールやPDF)」でやり取りしたい」では、どちらが望ましいですか?」との設問においては、「データ(メールやPDF)でやり取りしたい」がとの回答が60.2%を占め、「紙・書面(FAXや書類原本)でやり取りしたい」の22.1%を大幅に上回っています。

不動産取引など重要な場面であっても、データでのやり取りに抵抗のない人が増えている現状が伺えます。

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ネット不動産解禁までの時系列

ネット不動産企業が台頭している背景には、法改正が色濃く影響しています。

特に、2022年5月18日のネット不動産全面解禁は、今後もさまざまなサービスが生まれる契機となることでしょう。
ここでは、ネット不動産全面解禁までの経緯を詳しく解説します。

IT重説(賃貸)の本格運用開始

2017年(平成29年)10月1日、賃貸借契約の「IT重説」が解禁されました。※3
「重説」とは重要事項説明の略で、契約締結前に宅地建物取引士が行うべきとされている賃貸借や売買対象となる不動産についての説明のことです。

重要事項説明は、説明すべき内容や説明の方法が宅地建物取引業法(宅建業法)で規定されており、従来は対面での説明に限定されていました。

このうち、賃貸借契約についての重要事項説明に限定し、テレビ会議システムやスカイプなどのテレビ電話で行うことが認められたのが2017年10月1日のことです。
ただし、事前に宅地建物取引士が記名・押印した重要事項説明書などを入居予定者に送付しておかなければならず、重説及び賃貸借契約書は紙媒体で締結する必要があるなど、部分的な解禁にとどまっていました。

IT重説(売買)の本格運用開始

また、2017年にIT重説が解禁されたのは、賃貸借契約についてのみでした。
その後2021年(令和3年)3月30日に、不動産の売買契約についてもIT重説が解禁されています。※4

これにより、重要事項説明については、賃貸借と売買いずれにおいても、オンラインで行うことが可能となりました。

宅地建物取引業法の改正

2021年(令和3年)5月、宅建業法を含むデジタル改革関連法案が成立しました。
これは、日本におけるデジタル化を加速させるための柱となる大改正であり、この一環で「デジタル社会形成基本法」や「デジタル庁設置法」が新設されました。

これに伴い、宅建業法など、押印や書面交付などを求める手続きを定める48法律が改正されています。※5

デジタル改革関連法一部施行

2021年9月1日、先ほど解説したデジタル改革関連法の一部が施行されました。※6
これにより、さまざまな行政手続きにおける押印が廃止されています。

ただし、宅建業法など施行までに一定の準備期間が必要なものについては、この段階ではまだ施行されていません。

ネット不動産全面解禁

2022年5月18日が、ネット不動産の全面解禁日であると言われています。
これは、この日をもって不動産取引にあたって宅建業者が交付すべき書類についての押印が不要となり、また、紙ではなく電磁的方法による交付が可能となったためです。

これにより、原則として、不動産取引をすべてオンラインで完結できることとなりました。※7

ネット不動産導入によって起こりうる影響と対策

ネット不動産の解禁は、各業界にどのように影響するのでしょうか?
今後起こり得る影響と対策を解説します。

不動産仲介業者

ネット不動産の全面解禁により、若年層を中心に今後ますますインターネットでの物件探しが活性化していくことでしょう。
そのため、ネット不動産に対応できなければ、オンラインで手続きを完結させたい層を取りこぼしてしまうリスクが高まります。

この流れは今後も加速していくと考えられますので、不動産仲介業者はネット不動産に対応できるシステムの導入などを行うか、ネット不動産には参入せず地域密着でその仲介業者のみが取り扱う不動産を強みとするのか、方向性の検討が急務になるといえそうです。

ハウスメーカー

家は、人生最大の買い物です。
そのため、住宅をインターネット上のみで購入する人は、まだまだ少数派であるといえるでしょう。

しかし、依頼先のハウスメーカーを探す際、まずはインターネットで探すという人は少なくありません。
また、要所ごとに顔を合わせるにしても、契約に至るまでの営業や契約後の軽微な打ち合わせなどは、オンラインで行いたいというニーズも高いといえます。

そのため、少なくとも顧客が希望した際にオンラインで打ち合わせができる仕組みは整えておくべきでしょう。
また、オンライン上で見ることのできるカタログを充実させたり、住宅展示場をオンラインで案内できる仕組みなどを取り入れたりすることで、顧客との接点を増やしやすくなります。
昨今注目を浴びているメタバースなどを利用して、オンライン上で、モデルハウスを3Dで内見できたり、顧客が自身で間取りを決めたり、家具を配置したりできるような機能も、今後の顧客のニーズに合致するかもしれません。

不動産管理会社

後ほど紹介するWealthParkビジネスなど、不動産管理会社と不動産オーナーとをつなぐテックサービスが登場しつつあります。
これらのサービスは、不動産オーナーにとっても日々の負担を軽減できるなどのメリットがあります。
そのため、若年層のオーナーを中心に、このようなサービスの使用を希望することが増えてくることでしょう。

そのような際、管理会社側がシステムに対応していなければ、管理会社を変更されてしまうことがあるかもしれません。
管理会社には不動産テックは関係ないと考えるのではなく、どのようなシステムがあるのか調べ、便利なものは積極的に取り入れることも検討すべきでしょう。

ゼネコン

ゼネコンには、ネット不動産解禁による直接の影響はさほどないでしょう。
しかし、昨今ではゼネコンがデベロッパー化し、オフィスビルなどの開発や販売を手掛けるケースが増えています。

住宅と同じく、オフィスビルの仲介でもオンライン化が拡がっています。
オンラインで内見や契約などができる仕組みを整えることで、より広く顧客候補へアピールできる機会となるでしょう。

また、ネット不動産とは直接関係はありませんが、建設業法も改正され、請負契約について電子契約で締結することが可能となるなど、売買や、賃貸借のみならず、不動産に関する契約もIT化が加速していくものと思われます。

ネット不動産の法的リスク、課題はある?

不動産仲介業者がネット不動産を導入するにあたっては、課題も少なくありません。

まず、最大の課題は、相手のなりすましを防ぐ手段の確保です。
オンラインの場合、たとえば別人になりすまして不動産を賃借することなどが、対面よりも容易となってしまう可能性があるでしょう。
そのため、これまでよりも、本人確認により注意する必要があるといえます。

また、売買においては不動産の名義変更手続きを行う司法書士が介在することが多く、この場合には完全にオンラインで完結させることは困難です。
売買において万が一なりすましがあれば非常に大きな問題となるため、この点においては対面が安心であるといえる一方で、やはり利便性の面からいえば多少劣ってしまうことは否めません。

そして、売主が宅建業者である場合で、かつ宅建業者の事務所等以外で不動産の売買契約を締結した場合には、クーリング・オフの対象となります。※8
オンラインで契約を締結した場合には「宅建業者の事務所等」以外の契約であると判断される可能性があり、クーリング・オフ期間内はクーリング・オフの可能性を踏まえておく必要性が生じる可能性があるでしょう。

さらに、クーリング・オフができる期間は、クーリング・オフについて記された書面の交付から8日間です。
オンラインで契約を締結した場合、この8日の起算日がいつになるのかという点が問題となる可能性も考えられます。

ネット不動産導入にあたり弁護士が役に立てること

新たに不動産業へオンラインでのサービスを取り入れたい場合や、自社で新たな不動産テックサービスを開発したい場合などには、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

ネット不動産はまだまだ過渡期であり、今後ますます新たなサービスが登場することでしょう。
しかし、法的に問題があるサービスが生まれてしまったり、ツールの活用方法を誤って法的な問題が生じたりする可能性も否定できません。

安心してビジネスを展開していくため、ぜひ新たな取り組みを行う前に、Authense法律事務所までご相談いただくことをおすすめします。

その他不動産テック系サービス紹介

不動産業界においても、テック系のサービスの波が押し寄せています。
たとえば、次のようなサービスが既に誕生しています。

住宅ローンテックのiYell

従来、住宅ローンはユーザーが金融機関の融資条件を1件1件見比べて、検討することが一般的でした。
そこで、iYell株式会社は、エンドユーザーに最適な住宅ローンを提供する住宅ローンプラットフォームの運営を開始しました。※9

金融機関にとっては住宅ローン業務の効率化となり、エンドユーザーにとっては全国の金融機関から最適な住宅ローンを見つけやすくなるなど、テクノロジーを使って住宅ローンのさまざまな課題を解決するサービスを展開しています。

収益不動産管理のWealthPark

WealthPark株式会社は、不動産オーナーと管理会社をアプリでつなぐ業務支援システムである「WealthParkビジネス」を展開しています。※10

不動産管理会社にはクラウド型システムを、オーナーにはオーナーアプリを提供することで、収支報告や売買提案などの日々のやり取りを、簡単かつスピーディに行うことが可能となります。

AI査定によるマンション売却のすむたす

株式会社すむたすでは、AI査定を活用したマンション売却サービスを展開しています。※11

個人情報の提供をしなくても、実際の買取価格が最短1時間でわかり、売却を希望する場合にも仲介手数料はかかりません。

まとめ

不動産業界にも、テック化の波が押し寄せています。
2022年5月にネット不動産が全面解禁されたことで、今後もこの流れが顕著となっていくことでしょう。

Authense法律事務所には、不動産法務やインターネット法務に詳しい弁護士が多数在籍しております。
自社でもネット不動産を展開したい場合や、新たなテックサービスの導入にあたって法的に問題がないかどうかを検証したい場合などには、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。

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