コラム

公開 2022.11.10 更新 2023.01.30

退職勧奨の言い方・進め方は?違法にならないための注意点と判例を弁護士が解説

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退職勧奨をする際には、進め方に特に注意しなければなりません。
退職勧奨の言い方や進め方を誤れば、違法な退職強要であるとして損害賠償請求されるリスクがあるためです。

今回は、違法とならないための退職勧奨の進め方などについて、弁護士がくわしく解説します。

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退職勧奨とは

退職勧奨とは、会社を退職してほしいと考えている従業員に対して、退職をしてもらうよう促すことです。

遅刻が多いことや他の従業員と頻繁にトラブルを起こすなど問題のある従業員に対して行う場合のほか、会社の人員削減を目的として業績の芳しくない従業員に対して行う場合もあるでしょう。

退職勧奨と解雇の違い

退職勧奨と解雇との最大の違いは、従業員側に退職勧奨に応じるか否かの選択の自由があるかという点です。

退職勧奨は、あくまでも「退職を推奨する」という会社側の意思を伝えるのみであり、これに応じるかどうかは従業員次第です。
そのため、従業員としては退職勧奨に応じず、そのまま会社へ残留する選択をとることもできます。

一方、解雇は従業員との労働契約を一方的に解約する行為であり、原則として従業員側の意思は関係ありません。
そのため、解雇に客観的に合理的な理由がなく、かつ社会通念上相当であるといえない場合には、従業員側から解雇の無効や損害賠償などを求めて労働審判や訴訟を提起されるリスクがあります。

退職勧奨と自己都合退職との違い

退職には、大きく分けて「会社都合退職」と「自己都合退職」の2つが存在します。

いずれに該当するかによって、退職後の失業期間中に従業員が受け取れる「失業保険給付」の内容が異なっており、「会社都合退職」のほうが手厚い内容となっています。

また、会社が受けている助成金によっては、会社都合の退職者を出してしまうと受給要件を満たさなくなる場合があるため、会社側にとってもその退職が自己都合退職なのか会社都合退職なのかは気になるところでしょう。

自己都合退職とは、従業員が自主的に退職届を出して行う退職を指します。
たとえば、親の介護など家庭の事情で遠方へ引っ越す場合や他社へ転職する場合などに退職届を出すものが、自己都合退職の典型例であるといえるでしょう。

一方、退職勧奨による退職は、原則として会社都合退職に該当します。
退職勧奨に合意したことをもって自己都合退職となるわけではありませんので、誤解のないよう注意が必要です。

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退職勧奨における言い方や対応の注意点

退職勧奨をする場合には、伝え方や対応方法に十分注意しなければなりません。
なぜなら、対応を誤ってしまうと、退職強要やパワハラであると認定され、損害賠償義務を負う可能性があるためです。

退職勧奨をする際の進め方や対応の注意点は、次のとおりです。

名誉を傷付ける言い方は避ける

退職勧奨をする際には、退職勧奨の対象となった理由である、相手の具体的な問題を指摘することは問題ありません。
たとえば、遅刻を繰り返しており注意をしても改善に至っていないという事実や、営業成績が芳しくないという事実などです。

しかし、相手の名誉を傷付ける言い方をしないよう、十分注意しましょう。
名誉を傷付ける言い方とは、たとえば「お前は使えない」「死んだ方がいい」「役立たず」などです。
このような発言は、名誉棄損やパワハラに該当する可能性が高いといえます。

退職勧奨を執拗に繰り返さない

退職勧奨は、執拗に繰り返さないよう注意しましょう。

面談を執拗に求めたり、顔を合わせるたびに繰り返し退職勧奨を話題にしたりすれば、退職強要であると捉えられる可能性があります。

脅迫や威圧的な言動をしない

相手が退職勧奨に応じるよう、脅迫していると捉えられかねない言動は避けましょう。

たとえば、「退職勧奨に応じなければ家族に危害を加える」と発言することは、明らかに脅迫に該当します。
場合によっては、脅迫罪や強要罪といった刑法上の罪に問われる可能性さえあるでしょう。

ほかにも、たとえば「退職勧奨に応じなければ解雇する」「退職勧奨に応じなければ給与を下げる」「退職勧奨に応じなければ望まない部署へ異動させる」といった発言も退職強要に該当する可能性があるため、避けるべきです。

即答を求めない

退職勧奨を告げた場で、即答を求めることは避けるべきでしょう。

退職勧奨に応じるかどうか検討する十分な時間がないままにその場で回答を求めてしまうと、退職強要であると判断される可能性が高いためです。

退職せざるを得ない状況に追い込まない

退職勧奨に応じてほしいからといって、相手が退職せざるを得ない状況へ追い込むことは避けましょう。
たとえば、複数人で示し合わせて相手を無視することや、他の従業員とは異なる別室での業務を命じること、仕事を一切与えないことなどです。

このような行為は、パワハラや退職強要に該当する可能性があります。

退職勧奨が違法とされた事例

対応に注意しなければ、退職勧奨が違法と認定されてしまうかもしれません。
ここでは、退職勧奨にまつわる裁判例を3つ紹介します。※1

執拗な退職勧奨に対して慰謝料請求が認められた事例①

会社の収益悪化や業務上の素行不良を理由に、会社が従業員に対して退職勧奨をしたところ、違法な退職勧奨であるとして従業員から解雇無効や慰謝料を求めた事例です。※2

この事例では、従業員が一貫して退職勧奨を拒否し、また退職勧奨を繰り返す必要性が特になかったにもかかわらず、退職勧奨を行いました。
また、従業員が退職勧奨に応じるまでずっと退職勧奨が続くかのような心理的圧迫を加え、1か月未満の間に計6回という短期間に多数回の退職勧奨を受けていました。
さらに、退職勧奨の内容も、客観的事実と異なる事実を説明した上、仕事がないと従業員を殊更に不安にさせて二者択一を迫るものであったと認定されています。

その結果、裁判所は、退職勧奨行為は違法であるとして、従業員に対する損害賠償責任があるとされました。
また、解雇には客観的合理的理由がなく、かつ社会通念上相当であるとも認められなかったことから無効となりました。

執拗な退職勧奨に対して慰謝料請求が認められた事例②

執拗な退職勧奨をした国鉄に対して、不法行為に基づく慰謝料の支払いと退職勧奨の過程で出された配転命令の無効確認が求められた事例です。※3

この事例では、退職勧奨をするために、従業員の休憩時間の自由利用を妨げたり、有給休暇取得の権利行使を妨げたりしたうえ、従業員の配置転換が行われていました。

その結果、一連の退職勧奨行為は違法であるとして、勤務先である国鉄に、従業員への損害賠償責任があるとされています。
一方、配置転換については転勤命令から7年6か月あまりが経過していることを理由に、無効とはされませんでした。

男女年齢差のある退職勧奨への損害賠償請求が認容された事例

男女の年齢差がある退職勧奨年齢基準にもとづく退職勧奨について、違法性が争われた事例です。※4

その結果、男女年齢差のある退職勧奨年齢基準が設定されていることや、これに基づいて退職勧奨が行われたことなどが男女差別に該当し不法行為にあたるとして、損害賠償請求が認容されています。

退職勧奨基準を設けてそれに従って退職勧奨をするとしても、その基準自体に差別的な要素が含まれている場合には、不法行為に該当する可能性がある点で参考となるでしょう。

退職勧奨を円滑に進めるにあたっての留意点

退職勧奨が違法とされないためには、退職勧奨を注意深く進めなければなりません。
違法と判断されないためには、次のような退職勧奨の言い方や進め方をするとよいでしょう。

面談の場所や人数、時間などに配慮する

まず、面談を設定する段階から注意しなければなりません。
なぜなら、面談の方法によっては、退職強要やパワハラに該当してしまう可能性があるためです。

具体的には、次の点などに注意するとよいでしょう。

  • 面談をする場所:他の従業員がいる場所や、他の従業員へ聞こえてしまう場所での面談は避けましょう。
  • 面談をする人数:あまりにも大人数で面談をすることは避けましょう。相手へ圧迫感を与えてしまう可能性があるためです。
  • 面談をする時間:あまりにも長時間説得を続けることは避けましょう。

退職勧奨の理由を丁寧に説明する

面談では、まず退職勧奨をする理由を相手へ丁寧に説明しましょう。
たとえば、遅刻が多く注意をしても改善されないのであればその旨や、営業成績が振るわないのであればその旨などです。
相手へ理由を明示することで、退職勧奨に納得してもらいやすくなる可能性があります。

ただし、先ほども解説したように、人格否定など相手の名誉を傷付ける言い方をすることのないよう注意しましょう。

面談に対応する人が面談時にうまく説明できるのか不安がある場合には、事前にメモを作成したりシミュレーションをしたりすることも一つです。

伝え方に注意しつつ退職してほしい旨を伝える

退職勧奨の場では、会社として退職してほしいと考えているということをはっきりと伝えましょう。

ただし、退職が命令や強要であると誤解されてしまわないよう、伝え方には特に注意しなければなりません。
たとえば、「すぐに辞めてください」「本日をもって退職を命じます」など、直ちに退職を迫るような表現は避けるべきです。

また、「退職しなければ解雇します」「退職しなければ大幅に減給します」など、実質的に退職を選択せざるを得ない表現も後々のトラブルを生じさせる危険性があることから避けるべきでしょう。

退職勧奨に応じるかどうかはあくまでも従業員の任意であることをよく理解し、このことを従業員側にも伝えたうえで話し合いに臨みましょう。

相手が納得しやすい条件を提示する

単に会社を辞めてほしいと伝えたところで、従業側が応じる可能性は高くありません。
従業員側としては、退職は生活の基盤を失いかねない一大事であるためです。

退職勧奨にあたっては、従業員側にとっても有利となる条件を提示すると、納得を得やすいでしょう。
たとえば、退職金を上乗せするという条件や、転職先をあっせんするなどの条件が考えられます。

明確に拒否された場合には面談を打ち切る

話し合いの中で、従業員が明確に退職を拒否した場合には、面談を打ち切りましょう。
明確に拒否しているにもかかわらず執拗に説得を続けると、退職強要として違法であると評価されかねないためです。

その場では面談を打ち切ったうえで、たとえば1週間後に設定した面談で改めて回答を聞かせてほしいとするなど、後日改めて回答をもらう形とすることも一つです。
ただし、1週間後などに改めて設定した面談で再度退職を拒否された場合には、それ以上の深追いは避けるべきでしょう。

従業員が退職勧奨に応じないにもかかわらず退職してほしい場合には、解雇を検討することとなります。
もっとも、解雇を検討するにあたっては別の考慮要素が必要になります。
そこで、退職勧奨が進まない場合や解雇をしたいと考えた場合には、弁護士へご相談ください。

面談内容を適宜記録し相手の署名をもらう

退職勧奨の面談では、適宜内容を書面などで記録しておきましょう。
面談の様子を相手の承諾を得て録音しておくことも一つです。

なぜなら、書面などの記録がなければ、口頭で退職勧奨に同意をした従業員が、あとから「合意解約には応じていない」などと主張する可能性があるためです。
また、「退職を強要された」などと主張されてしまう可能性もゼロではありません。

面談の内容を記録したら、従業員に署名をもらっておくとよいでしょう。

合意ができたら合意書を作成する

退職勧奨について合意ができたら、合意をした内容についてきちんと書面で残しましょう。
退職勧奨の合意書には書式の決まりはありませんが、最低限、次の内容を明記してください。

  • 労働契約を解約することの合意をする旨又は退職勧奨に同意をする旨
  • 退職予定日
  • 退職勧奨の条件(退職金の額など)

そのうえで、従業員に署名と押印をもらいましょう。

あらかじめ弁護士へ相談する

退職勧奨の言い方や進め方を誤ってしまうと、大きなトラブルへと発展してしまいかねません。
そのため、退職勧奨をする際には、あらかじめ労使問題に強い弁護士へ相談するとよいでしょう。

弁護士へ相談することで、状況に応じた退職勧奨の進め方や提示する条件などについてアドバイスが受けられるほか、万が一トラブルに発展した際の対応がスムーズとなります。

まとめ

退職勧奨をする際には、言い方や進め方に注意しなければなりません。
言い方や進め方を誤ると、退職強要やパワハラであるとして損害賠償請求されるリスクがあるためです。

少しでも不安がある場合には、あらかじめ弁護士へ相談するとよいでしょう。

Authense法律事務所には、退職勧奨など労使問題を専門とする弁護士が多数在籍しており、企業側の問題解決をサポートしております。
退職勧奨をしようとご検討の際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

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