コラム

公開 2019.03.13 更新 2023.01.27

リファラル採用(社員紹介制度)に関して生じ得る法的問題

リファラル採用(社員紹介制度)に関して生じ得る法的問題

リファラル採用(社員紹介制度)は、採用コストが削減できる点や、会社とのミスマッチを防止できる点にメリットがあるといわれています。
他方、推薦・紹介してくれた社員に対するインセンティブの付与や、推薦・紹介された人材の(前職からの)退職という点も付随してきます。
今回は、人材の推薦・紹介に関連して起こり得る法的な問題点として、「紹介料」をめぐる問題、「引抜き」に関する問題をそれぞれご紹介します。

文責
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
中央大学法学部法律学科卒業、大阪市立大学法科大学院修了。法律事務所オーセンス入所から、ベンチャー法務を担当し、現在では、HRTech(HRテック)ベンチャー法務、芸能・エンタメ・インフルエンサー法務、スポーツ団体法務等を中心に担当。上場企業をはじめとした日本国内外に成長を求める企業のM&A支援にも積極的に取り組む。
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Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
一橋大学法学部卒業、一橋大学法科大学院修了。約2年半にわたり上場企業にて法務業務を常駐して遂行し、契約書の作成・レビュー(投資関連案件ほか)から、社内規程や株主総会・取締役会関連書類の整備、新規プロジェクト関連や社内フロー構築のサポートに至るまで、法務面で日々生じる多種多様な課題に取り組み、都度改善・解決へ貢献した経験・実績を有する。当該経験を活かした現場目線で有用なアドバイスを心掛け、主に予防法務に取り組む。
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1.「紹介料」をめぐる問題

社員に新しい人材の候補者を推薦・紹介をしてもらう以上、その社員に対して何らかの報酬等を与えなければならない場面もあるかと思います。
こうしたインセンティブを社員に付与するにあたって、注意しなければならないのは、職業安定法40条の規定です。

条文参照 職業安定法
第四十条 報酬の供与の禁止
労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第三十六条第二項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。

この職業安定法40条には、次の点が定められています。

  1. 原則として、募集主(会社)は、募集従事者(推薦・紹介を行う社員)に対して、報酬を与えてはならないこと
  2. 例外として、募集主(会社)が募集従事者(推薦・紹介を行う社員)に対して報酬を与えることができるのは、賃金等を支払う場合であること

(なお、もう一つの例外である「第三十六条第二項の認可に係る報酬を与える場合」というのは、委託募集に関するものであり、今回の話題からは逸れてしまうため、割愛させて頂きます。)

①をみると、リファラル採用(社員紹介制度)において、新しい人材を推薦・紹介してくれた社員に対して、紹介料などの形で何らかのインセンティブを付与することは、職業安定法40条に違反するようにも見えます。
なお、同条違反には6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金という刑事罰が定められています(職業安定法65条6号)。

そこで、インセンティブ付与にあたっては、②の例外に該当するような制度設計が必要になってきます。つまり、インセンティブを、別途の報酬としてではなく、あくまでも賃金等として支払う形をとる必要があります。
その方法としては、たとえば、就業規則等において「紹介料」を「賃金、給料その他これらに準ずるもの」に含めるような定めを置くことや、人材を推薦・紹介した事実を人事評価等において考慮要素に入れること、などが考えられます。

もっとも、制度設計の仕方次第では、実質的にみて②の例外には該当しない(職業安定法40条違反)、と判断されるリスクも全くゼロではないので、注意が必要です。

2.「引抜き」をめぐる問題

人数が少ない企業においては、経営者や企業風土等との親和性が高い人物に心当たりがあれば、できることなら引き入れたいと思うことも多くあるかと思います。
しかし、推薦・紹介された人物を引き入れるにあたっては、いわゆる「引抜き」として違法(損害賠償責任が生じる)と判断される事態に陥らないよう注意する必要があります。

違法な「引抜き」行為があったものとして、100万円を超える損害賠償責任が認められた事例があります(下記東京地判平成28年5月20日)。

東京地判平成28年5月20日(LLI/DB判例秘書登載)

(事案の概要)

  • 原告は、自身の管理していた理・美容室のうちの一つ(A店)を、被告に業務委託して運営させていた(本件業務委託契約)。
  • 被告が、自分の理容美容店を出店しようとしているとの認識が広まり、本件業務委託契約は解除された。
  • 本件業務委託契約の解除から約2週間後に、被告は新店舗を開店した。
  • 開店後まもなく、A店のスタッフ(10名ほど)の一部がA店を退職し、被告の新店舗に勤務するようになった(開店直後に2名、その約2週間後までに3名)。
  • 原告が、業務委託期間中に被告が引抜き行為等を行い、これにより損害を受けたとして、被告に対して損害の賠償を求めた事案。

(裁判所の判断)

  • 本件業務委託契約の終了前から、開店後の新店舗に移ることについて話がなされていたとの点は、引き抜き行為そのものに他ならず、本件業務委託契約の規定に違反する。
  • 引き抜き行為による損害については、1年間の売上げ減少分のうちの3か月分である133万9707円をもって、相当な損害額と認める。

※本件は、退職前から勧誘を行っていたことが「引抜き」(契約違反)であるとされた事例であり、必ずしも、リファラル採用そのものが問題となったものではありませんが、「引抜き」による損害賠償責任が肯定された参考例として、ご紹介させて頂きました。
※なお、損害額が「1年間の売上げ減少分のうちの3か月分」と認定されたのは、この事案の個別事情を裁判所が考慮した結果の判断であり、必ずしも一般化されるものではございません。

 

もっとも、たとえば、前職を退職した後に、前職における元同僚を引き入れるべく勧誘し、その元同僚がこれに応じる、ということ自体は、原則として違法ではありません。
なぜなら、その元同僚が勧誘に応じて退職し、引入れに応じて別の会社で働こうと決心すること自体は、職業選択の自由として憲法上保障されているからです(憲法22条1項)。

では、単なる勧誘を越えて、どのような場合が違法な引き抜き行為にあたるのでしょうか。
この点については、社会的相当性を逸脱した不当な態様のもののみが違法になると考えられています。

「社会的相当性」の線引きは、「引き抜かれる」会社が受ける影響の度合い等を考慮した、個別の事案ごとの判断になります(たとえば、上記の裁判例でも、「引き抜かれた」のがスタッフの半数であったことが、大きな影響を及ぼしたものとして事実上考慮された可能性もあります)。
リファラル採用(社員紹介制度)の一環として勧誘を行う際には、社会的相当性を欠いていると評価されないよう、十分に注意する必要があります。

以上、リファラル採用(社員紹介制度)をめぐって生じ得る法律問題について少しだけ考察いたしました。

今後、日本においても、特にスタートアップ企業やベンチャー企業の間で、リファラル採用(社員紹介制度)が広がりを見せることが予想されます。
今回書かせて頂いた内容が、リファラル採用(社員紹介制度)に関するご検討の一助となれば幸いです。

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