コラム

公開 2019.05.22 更新 2023.01.30

資金調達としての側面も ~ 助成金の活用 ~

資金調達としての側面も ~ 助成金の活用 ~

「返済不要で資金調達ができる」として話題に上ることの多い助成金ですが、実はあまり上手に活用できていない、そもそも利用していないという方も多いのではないでしょうか。たしかに、助成金は種類も多く、内容の改正頻度も高いため、全てを正確に把握することは困難でしょう。
そこで、近年注目を集めている『時間外労働改善助成金(勤務間インターバル導入コース)』を例に、助成金の活用について考えてみましょう。
なお、本稿の「助成金」とは、厚労省管轄の雇用関係・労働関係助成金に限ります。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
中央大学法学部法律学科卒業、大阪市立大学法科大学院修了。法律事務所オーセンス入所から、ベンチャー法務を担当し、現在では、HRTech(HRテック)ベンチャー法務、芸能・エンタメ・インフルエンサー法務、スポーツ団体法務等を中心に担当。上場企業をはじめとした日本国内外に成長を求める企業のM&A支援にも積極的に取り組む。
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1. 助成金の仕組み

(1) なぜ支給されるのか

そもそも、なぜ助成金は支給されるのでしょうか。

助成金は国や地方自治体から支給されるのですが、国や地方公共団体には一定の政策があります。
そして、政策を実現するためには民間企業の協力が不可欠といえるでしょう。
しかし、例えば、スタートアップ企業であれば、本業で黒字化を目指すことが最優先であり、国や地方自治体の政策への関心度は低くなりがちです。
ましてや、ただでさえお金がない時期において、自社で費用を負担して政策に協力しようとはなかなか思わないでしょう。

そこで、特に資金面における企業の負担を軽減し、政策の実現に向けた取組みのハードルを下げようという考えから生み出されたのが、助成金制度です。
そのため、国や地方自治体の政策に協力すれば(=支給要件を満たせば)、原則として助成金を受け取ることができます。
また、返還不要という性格もこのことから導かれます。

(2) 助成金の財源

助成金として支給されるものの多くは、国(厚生労働省)が事業主のみなさんから集めた「雇用保険料」や「労災保険料」を財源として支給されています。
雇用保険料は、労働者が失業したときに支給される、いわゆる「失業手当」にも使用されますが、厚生労働省が取り決めた助成金の財源にもなっています。

(3) 支給額の決まり方

助成金には、所要額の一定の割合が支給される定率型のものと、割合によらず一定額が支給される定額型のものがあります。

(4) 「中小企業」とは

助成金の支給対象は、「中小企業」に限られていることが多いです。原則として、次の表の「資本金の額・出資の総額」か「常時雇用する労働者の数」のいずれかを満たす企業が「中小企業」に該当します。

産業分野 資本金の額・出資の総額 常時雇用する労働者の数
小売業(飲食店を含む) 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

2. 時間外労働改善助成金(勤務間インターバル導入コース)の活用方法

時間外労働改善助成金(勤務間インターバル導入コース)の具体的な活用方法を申請の流れに沿ってみてみましょう。
勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の休息時間(「勤務間インターバル」といいます。)を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保し、健康保持や過重労働の防止を図るという国の政策実現のために、勤務間インターバルの導入に取り組む中小企業事業主支援として助成金が支給されます。
勤務間インターバルの導入に要した費用の一部、具体的には、対象経費の合計額に補助率4分の3(別途上限あり)を乗じた額が支給されます(定率型)。

(1) 交付申請・交付決定

まずは、交付申請書を労働局に提出し、申請書の審査を受けます。ここでは、申請企業がすでにインターバル制度を導入していないか、「中小企業」に該当するか、提出書類に不足や不備がないかなどの形式的な審査が行われます。なお、申請期限がありますので、注意が必要です。(2019年度は、2019年11月15日(金)が交付申請期限です。)
審査の結果、問題がなければ、交付決定を受けることになります。

(2) 事業実施

交付決定後、申請企業は助成金支給の対象となる取組みを行います。時間外労働改善助成金(勤務間インターバル導入コース)の支給の対象となる取組みは、以下のとおりです。このうちの少なくともいずれか1つを実施する必要があります。

  • 労務管理担当者に対する研修
  • 労働者に対する研修、周知・啓発
  • 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など)によるコンサルティング
  • 就業規則・労使協定等の作成・変更
  • 人材確保に向けた取組
  • 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
  • 労務管理用機器の導入・更新
  • デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
  • テレワーク用通信機器の導入・更新
  • 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新

注意点としては、交付決定後に取組開始・発注を行わなければならないということです。
例えば、就業規則の改定を弁護士に依頼する場合、「交付申請→交付決定→就業規則改定について、弁護士との委任契約締結」という順序でなければなりません。

また、助成金申請のためには、上記10個のうちの「少なくとも1つ」を実施すればよいので、複数個実施することが妨げられているわけではありません。
例えば、勤務間インターバル導入のために就業規則の改定を行い、労務管理のシステムを導入した場合、就業規則改定・システム導入の両方の費用について助成金が支給されます。

事業実施についても実施期間の定めがありますので、注意が必要です。(2019年度は、交付決定の日~2020年1月15日(水)が事業実施期間として定められています。)

(3) 支給申請

事業を実施し終えたら、助成金の支給申請を行います。
支給申請についても期間制限があります。(2019年度は、事業実施が完了したときから1か月以内か、2020年2月3日の早い方。)

支給申請を行うと、審査を経て、支給・不支給の決定がなされます。
ここでは、例えば、就業規則の改定を「事業」として選んだ場合、改定前の就業規則と改定後の就業規則を見比べ、勤務間インターバルが導入されているかをチェックされます。
就業規則全体を実質的にチェックされるため、たとえ就業規則に「勤務間インターバルとして、9時間の休憩時間を確保する。」という文言を加えたとしても、始業時間を8時、終業時間を24時と規定されているなど、9時間のインターバルが確保できない設計になっている場合は、不支給の決定がなされます。

もっとも、勤務間インターバルが導入されていれば良いので、例えば給与や待遇など、就業規則の他の部分も同時に改定しても、助成金支給の対象からは外れません。
就業規則全体の見直しと同時に助成金の申請を検討されても良いでしょう。

(4) 支給額

2019年度の時間外労働改善助成金(勤務間インターバル導入コース)の支給額は、下の表の額を上限として、取組実施に要した対象経費の合計額に補助率4分の3を乗じた額と定められています。

休息時間数 新規導入の場合 適用範囲の拡大・時間延長の場合
休息時間数:9時間以上11時間未満 80万円 40万円
休息時間数:11時間以上 100万円 50万円

例えば、9時間の勤務間インターバルを新規導入する企業が、就業規則改定の弁護士費用に60万円、労務管理のシステム導入費用に40万円かけた場合、75万円の助成金が支給されることとなります。(計算式:(60万円+40万円)×3/4=75万円)
就業規則の改定や労務管理システムの導入は、いずれも本業に直結するわけではありません。しかし、企業が成長していく上で欠かすことのできない取組みといえるでしょう。
こういった取組みへの費用を助成金で賄ってみてはいかがでしょうか。

※本稿は、2019年5月10日現在の情報をもとに作成しております。
※時間外労働改善助成金(勤務間インターバル導入コース)の詳細につきましては、厚生労働省のホームページもあわせてご確認ください。

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