コラム

メッシ残留宣言にみるコロナウイルスがスポーツ・エンタメ業界に与えた影響

メッシ残留宣言にみるコロナウイルスがスポーツ・エンタメ業界に与えた影響

新型コロナウイルスがもたらしたスポーツ・エンタメ業界への影響を解説し、各業界がどういった対策や支援を講じているのか紹介します。また、コロナ禍が与えた影響としてFCバルセロナのリオネル・メッシ選手の契約問題をお伝えします。

記事を監修した弁護士
authense
Authense法律事務所

新型コロナウイルスがもたらしたスポーツ・エンタメ業界への影響

多くの重軽症者や、死者を出し、全世界で猛威をふるっている新型コロナウイルス。人体への影響だけでなく、産業に対しても大きな打撃を与えています。特に、スポーツ業界と芸能関係、音楽関係及び映画関係を主とするエンタメ業界は大きな影響を受けています。

スポーツ業界では、プロリーグの期間変更や延期、大会の中止といった措置が取られ、試合が開催されても、無観客や入場制限を課された上での開催となっています。

エンタメ業界では、映画やドラマの撮影中止、アーティストのコンサートやフェスの中止、映画館の入場制限などの措置を強いられています。

日本でも、プロ野球やJリーグといったスポーツ関係のイベント、コンサートや演芸といったエンタメ関係のイベントについては中止や延期といった措置が取られました。2020年9月現在、段階的に規制が緩和されているとはいえ、入場者数を最大収容人数の50%を上限としたり、観客に大きな声を出さないように注意を促したりするなどといった措置が講じられています。少しずつスポーツ・エンタメ業界も活動を再開していますが、いずれもコロナ禍前の状態とは程遠いものでしょう。

報道によれば、コロナ禍によりコンサートやスポーツなど、中止や延期になったイベントは2020年2月から2021年までの1年間で約43万2千件、損失額は約6,900億円と算出されています。内訳は、音楽関係が3,300億円、演劇・ステージ関係が1,600億円、スポーツ関係が1,300億円、その他イベント関係が700億円とのこと。スポーツやエンタメのイベントは入場料が主な収益源ですが、コロナ禍によりその入場料を得られなくなったのですからこれだけ大きな損失を被るのも当然といえば当然なのかもしれません。
日本国内だけでもこれほど大きな損失が発生しているのですから、世界的には、新型コロナウイルの感染拡大によって、全世界のエンタメ業界の損失はとてつもない規模に上っており、新型コロナウイルスによりスポーツ・エンタメ業界は深刻な打撃を受けています。

業界だけでなく、消費者側も、スポーツやエンタメといった娯楽を楽しめないことによる精神的な損失を被っていると言えます。楽しみにしていたコンサートやフェスが中止になったり、スポーツを生で観戦できなかったりして残念な思いをした方も多いことでしょう。新型コロナウイルスは、さまざまな面で影響を及ぼしていると言えます。

新型コロナウイルスで露呈したスポーツ・エンタメ業界の脆弱性

前述の通り、新型コロナウイルスによりスポーツ・エンタメ業界は大きな打撃を受けています。しかし、なぜこれほどまでにスポーツ・エンタメ業界は新型コロナウイルスの影響を受けてしまったのでしょうか?

その答えは、いずれの業界も多くの観客が来ることで収益を得るビジネスであることにあります。スポーツもエンタメも、イベントを開催し、観客に会場へ足を運んでもらうことで利益を上げます。チケット代だけでなく、会場におけるグッズ販売や飲食物の販売による収益も無視できません。

また、イベントの開催のためには観客だけでなくプレイヤー・出演者・スタッフ等も必要になります。つまり、スポーツ・エンタメ業界は“密”となる環境でこそ収益を得られるのです。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため“密”が避けられるようになり、“密”を避けられないスポーツ・エンタメ業界は大きな損害を被ったというわけです。

しかも、近年、スポーツ・エンタメ業界は会場へ客を呼ぶことに注力していました。例えば、日本のプロ野球では「ボールパーク構想」と銘打ち、球場の設備やイベントの工夫で観客動員数や球場での消費を伸ばすことに成功しました。また、音楽業界ではCDの売り上げよりもライブや、コンサートでの売り上げを重視する傾向にありました。
海外では、スタジアムを中核として、レジャー施設、スポーツ施設、ショッピングモール、ホテル、カジノ等、来客者がスタジアムでのスポーツ観戦以外の娯楽も楽しめたり、試合等が開催されない日でも集客できたりする複合型の施設を設置し、様々な層の顧客を集めることに成功している事例もあります。
このように、会場への集客に重きを置く傾向にあったスポーツ・エンタメ業界に新型コロナウイルスが直撃したのです。

また、映画、演劇やアニメといったエンタメは、「作れない」という問題もあります。映画の撮影はできず、多数の演者による密接した演技が魅力の演劇は、本来の持ち味を発揮できません。アニメは制作がストップし、多数の作品が公開延期になるなど、「作れない」ことへの影響も大きいのです。

会場への集客ができなくなり、それ以外で利益を挙げる手段も乏しかったというこれまで想定すらしていなかった収益モデルの脆弱性から、スポーツ・エンタメ業界は大きな損失を被っています。

新型コロナウイルスがメッシをFCバルセロナに残留させた?

新型コロナウイルスは、意外なところにも影響を及ぼしています。その一つがFCバルセロナに所属するアルゼンチン代表FWリオネル・メッシ選手の契約問題です。

メッシ選手と言えば、言わずと知れたスーパースターですが、メディアによれば、メッシ選手は今夏の移籍市場でFCバルセロナからの退団を望んでいたと報じられていました。しかし、結局は残留を決断しています。

これには、メッシ選手とFCバルセロナとの契約が関わっているようです。というのも、契約上、本来は今夏の移籍市場でのフリー移籍(違約金0円で移籍できることをいいます。)は可能だったのですが、新型コロナウイルスの影響でリーガ・エスパニョーラ(スペイン国内のプロサッカーリーグ、日本でいうところのJリーグ。)のシーズンが延期。これにより、メッシ選手とFCバルセロナとの契約のフリーで移籍できるという条項の適用期間がシーズン延期中に経過してしまい失効してしまったのです。この契約では、契約を解除するためには、7億ユーロ(約885億円)という、とんでもない金額の違約金が定められていますが、メッシ選手側が、契約書で定められた期限までに退団の意思を伝えれば、違約金が発生することなく退団できるという条項も盛り込まれていたそうです。

メッシ選手側は新型コロナウイルスという回避不可能な事象の影響でシーズンが延期されたのだから、フリー移籍を可能とする条項の適用期間も延長されるべきだと主張しましたが、FCバルセロナ側はこれを拒否。さらに、リーガ・エスパニョーラまで、メッシ選手が契約を解除する場合には、設定された違約金が発生するとの公式見解を発表しました。最終的に、メッシ選手はFCバルセロナに残留する形となりました。

もし、契約書の条項が、具体的に「〇月〇日までに退団の意思表示をする。」という特定の日を期限にするものではなく、「2019-2020シーズン終了後、〇日以内に退団の意思表示をする。」とか、特定の日を期限としても、「〇月〇日までに退団の意思表示をする。ただし、シーズンの延期等、特別な事情により、〇月〇日までに意思表示をすることができない場合には、双方協議の上、期限を延長することができる。」等としておけば、メッシ選手側は有利に交渉できたかもしれません。
もっとも、シーズンの日程は予め決められており、数か月も延期することなど、通常誰も想定しえなかったと思いますので、退団の意思表示をする期限を特定の日とする条項も、契約当初はこれで十分と考えられたものと思います。

新型コロナウイルスによるシーズン延長がなければ、メッシ選手は、FCバルセロナを退団し、別のリーグのクラブに移籍していたかもしれません。

このように、新型コロナウイルスは人命や産業への打撃だけでなく意外な形でスポーツ界へ影響を与えています。

日本の芸能界に目を向けてみると、最近、芸能人が所属事務所から退所したとの報道をよく目にされると思います。
芸能人と所属事務所との契約は、専属マネジメント契約という類型のものが多く、所属事務所が、テレビ出演や、CM出演等の仕事をもらってきて、所属芸能人にその仕事を担当してもらい、テレビ局やCMを出す広告主から支払われる報酬を、事務所と芸能人で分配するという内容になっています。
この報酬は、いわゆる歩合制と、給与制とに分かれます。歩合制は、芸能人が担当した仕事の実際の報酬を事務所と芸能人との間で予め定められた比率で分配するというもので、仕事が増えれば増えるだけ、報酬も増えるメリットがある一方、仕事がなければ、報酬が0になることもあるというデメリットがあります。
他方で、給与制は、仕事の量に関係なく、毎月固定金額の支払を受けるもので、芸能界に入ったばかりで、安定的な仕事がない芸能人でも安定収入が入るメリットがある一方、人気が出てきて、仕事が増えたとしても、毎月同じ金額しかもらえないというデメリットがあります。
前述のとおり、新型コロナウイルスの影響により、エンタメ業界は、一時期、ほとんど仕事ができないという状態にまで陥ってしまいました。
仕事ができなければ、当然報酬ももらえませんので、芸能事務所の収支は、かなり厳しくなったと予想されます。
所属芸能人に支払う報酬は、歩合制であれば、仕事がない以上払う必要はありませんが、給与制であれば、仕事がなかったとしても支払わなければなりません。これは固定費として経営を圧迫する要因の一つとなります。事務所としては、収入が減る以上、支出も削減したいと考えるのは自然であり、所属芸能人から退所を申し出られた場合、その結果、収支が大きく改善する可能性があれば、これを認める方向で考えるのではないでしょうか。
また、YouTube等のネットメディアの隆盛により、芸能人としても、必ずしも事務所に所属しなくても、自ら収入を得られる仕事を見つけることができるようになり、大手や有力な芸能事務所に所属するメリットが薄れてきているという状況もあります。
これらの要因に、今回の新型コロナウイルスの影響も重なり、芸能人の所属事務所からの退所も増えてきているのではないでしょうか。
少し前までは、芸能人が所属事務所から退所する場合、そもそも事務所が退所を拒否したり、これまでの未払報酬があるなどといって紛争になったり、非常に大変そうな印象がありましたが、最近では、円満に退所したと報じられるケースも多く、ここにも、新型コロナウイルスが影響しているかもしれません。

コロナ禍におけるスポーツ・エンタメ業界が取った対策や支援

では、コロナ禍において、スポーツ業界・エンタメ業界はどういった対策を取ったり、支援策を講じたりしてきているでしょうか?

ライブ配信やパブリック・ビューイングなどのデジタルソリューション

新型コロナウイルス感染拡大を受け、試合や公演をインターネット配信で見ることができる配信サービスが拡大しています。配信サービスを利用したことがあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか?

デジタルソリューションのおかげで、観客は遠隔地にいながら“密”を避けリアルタイムでイベントを楽しむことができるようになりました。会場へ足を運ぶための交通費や時間を削減できるというメリットもあり、遠方のファンも地理的条件に関わらずリアルタイムでイベントを楽しめるという利点もあります。また、グッズ販売をECサイト(ネットショップ)で行うことで、会場に行かずともグッズを購入できるようにするイベントも増えてきています。

巷で話題の新しい通信規格である5Gが普及していけば、どこにいても、スマートフォン1台あれば、スポーツや、ライブの配信をリアルタイムで、容易に視聴できるようになると期待されています。

このように、スポーツ・エンタメ業界はデジタルソリューションを利用してコロナ禍での新たな価値を提供しようと模索しています。“不要不急”と見られがちのスポーツ・エンタメ業界であるからこそ、新たな価値提供の可能性を秘めているのかもしれません。

検温・マスク着用・応援は拍手のみといった新しい観戦マナー

新型コロナウイルスへの対策等により、段階的に制限が緩和され、スポーツ・エンタメ業界でもある程度は観客が会場へ足を運ぶことができるようになりました。しかし、制限緩和による感染拡大が危惧されています。

そこで、スポーツ業界においては、2020年3月、プロ野球(日本野球機構)と日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)が共同で「新型コロナウイルス対策連絡会」を発足しました。専門家の意見を聴きながら対策を練り、それぞれ2020年6月に無観客でリーグを開始しました。その後は、政府のガイドラインに従い観客の人数を制限して有観客試合を実施しています。

その他、ゴルフツアーやレスリングといった興行、陸上競技大会や高校野球の独自大会なども制限が課された中とはいえ、それぞれ開催されるに至っています。そのような有観客試合においても、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐために新しい観戦マナー・応援スタイルが取られています。

プロ野球やJリーグでは、スタジアムや球場において、入場前の検温と手指の消毒を実施。マスク着用も義務付けられています。入場後は離れた位置の座席に座りソーシャル・ディスタンスを守ることが求められます。

Jリーグでは声を出す応援も禁止。チャントと呼ばれる選手個人への応援歌も歌えません。タオルマフラーを振りまわすこともNG。代わりに、拍手による応援が行われています。チャンスや得点シーンでは盛り上がるたくなりますが、ぐっとこらえて拍手のみにとどめています。

しかし、拍手だけといっても侮れません。2018年FIFAワールドカップでアイスランド代表の応援として用いられたヴァイキングクラップを覚えている方も多いのではないでしょうか。太鼓などに合わせて手を叩いた後に、「ウー!」と叫ぶのを一定回数繰り返す応援方法で、アイスランド代表の一生懸命走る姿と相まって、全世界に感動をもたらしました。ヴァイキングクラップの真似をした応援をするようになったクラブチームも出てきています。
また、ファンの中には拍手の強弱やリズムに変化を加えて独自の応援方法を編み出している方もいるとか。コロナ禍の中で、業界関係者だけでなくファン側も新たな楽しみ方を生み出しています。

エンタメ業界は無観客ライブを配信

エンタメ業界では、無観客でパフォーマンスを行い、その様子をインターネットで配信する方法が取られることが多いです。サザンオールスターズや嵐といった有名アーティストも無観客ライブの配信を行っており、ファンへ自分達のパフォーマンスを提供しています。

このような配信形式は、忙しくて当日は会場へ足を運ぶことができない人や、地理的に遠くて会場へ行くことが難しい人もライブを見ることができるようになり、多様なニーズへ応えるという側面も持っているとして評価されているようです。また、これまでは、チケット購入は抽選で、当選できなかったファンも多数いたようですが、ライブ配信にすることで、希望者全員が視聴可能になる可能性もあり、提供者側も座席数の上限という入場料の物理的な制限を超える収入を得ることが可能になるかもしれません。

また、YouTubeやInstagramを利用してファンとの接点を持とうとする企画も取られています。他にも、ライブ配信アプリを利用した交流の形式も取られており、これらは遠隔地にいながらパフォーマンスを提供できる新たな形として今後も利用が拡大していくのではないでしょうか?

法律的には、視聴者が、多数・同時に接続したことで、回線がパンクしたり、サーバー等の不具合で、視聴ができなかったりした場合に視聴者が支払ったもしくは支払う視聴料をどのように取り扱うべきか、配信映像に関する知的財産権に関するトラブル等が想定されますし、さらには、今後想定しえなかった法的トラブルが発生する可能性もあり、我々弁護士としても目が離せない分野といえます。

コロナ禍を経てスポーツ・エンタメ業界に求められているもの

コロナ禍、またアフターコロナ時代において、スポーツ業界・エンタメ業界には新しい体験価値提供が求められます。“密”を前提としたイベント開催が難しくなった以上、配信サービスを利用し遠隔で見る機会が多くなります。

見る側からすれば、会場へ足を運ぶことの時間・交通費・労力といったコストを削減できますし、イベントを開催する側からすれば会場やスタジアムの収容人数を超える人数へパフォーマンスを提供できる可能性があるというメリットがあります。

これらのメリットを最大限活かし、コロナ禍・アフターコロナ時代においては試合や公演といったイベントを、誰に・どのように見せるかを検討したうえで新たなサービスを生み出すことが必要です。

現時点では、配信による大きなデメリットはリアルにダイレクトで見ることの臨場感を欠くことにあるのではないかと思われますが、配信でも現場の感覚をシームレスに感じることのできる技術の開発や、サービスの設計ができれば、消費者のニーズに応えることができるでしょう。サービス全体として最適な価値を提供するためにも、会場へ足を運ぶか遠隔で見るかといった二元論ではなく、業界全体を巻き込んだ変革が求められていると言えるのかもしれません。

まとめ

新型コロナウイルスがスポーツ業界・エンタメ業界へ与えた影響と各業界の対応策や今後求められることについて考察してみました。新型コロナウイルスが我々の生活へ与えた影響は計り知れませんが、一人ひとりが正しい知識と感染拡大阻止への意識を持つことが収束への第一歩となります。
最後に、新型コロナウイルス感染症によりお亡くなりになられた方に、お悔やみを申し上げるとともに、重軽傷者の方が1日でも早く快癒することを心よりお祈り申し上げます。

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