コラム

建築時に知っておきたい「環境権」とは?侵害するとどうなる?

建築時に知っておきたい「環境権」とは?侵害するとどうなる?
記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(神奈川県弁護士会)
神奈川県弁護士会所属。明治大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院を修了(法務博士)。最高裁判所司法研修所修了後、Authense法律事務所へ入所。

環境権とは

一般的に、環境権とは良好な環境のもとで生活する権利を指します。
大気汚染など公害の場面で話題にのぼることも少なくありませんが、隣にビルが建ったことで元から建っていた家の日当たりが悪くなったなど、建築の場面で問題となることも多々あります。

まずは、この環境権について基本を確認しておきましょう。

「環境権」は法律に明記された権利ではない

実は、「環境権」は法律で明文化された権利ではありません。
そのため、環境権を侵害されたからといって、損害賠償請求や差し止め請求などが直ちに認められるわけではないのです。

環境権は、まだ個人の権利として確立しているとまでは言えないでしょう。

環境権の根拠は憲法にある

環境権が明文化されたものではないのであれば、環境権は何を根拠にしているのでしょうか?
その根拠は、日本国憲法の次の規定にあるとされています。

こうした規定を根拠として、環境権が主張されているのです。

環境権を具体化した建築ルールとは

環境権を具体化した建築ルールとは
環境権自体は個人の権利として確立しているとまでは言えないものの、環境権「的な」発想から定められている建築ルールはいくつか存在します。
これらは、実際に建築物を建築する際や土地を利用する際などに具体的に守らなければならないルールです。
ここでは、代表的な建築ルールを4つ紹介します。

公道に至るための他の土地の通行権

公道に至るための他の土地の通行権とは、他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者が、公道に至るために、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる民法上の権利です。
通行権を有する者は、必要で、かつ、他の土地への損害が最小限にとどまる程度の通路を開設することもできるとされており、通行される土地の所有者は、その限度で、これを拒むことはできません。

本来、土地の所有者は自分の土地をどう使おうが自由であるはずですが、公道に通じない土地の所有者の生活環境を守るために利用が制限されることがあるのです。
なお、公道に面さない土地には、原則として新たに建物を建てることはできません。

境界線付近の建築の制限

土地を持っているからといって、その土地の境界線ギリギリまで建物を建ててよいわけではありません。
民法により、建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならないとされているためです。

また、境界線から1メートル未満の距離において、他人の宅地を見通すことのできる窓や縁側、ベランダを建築する場合には、目隠しを付けなければなりません。
これも、隣地に住む人の生活環境を守るために設けられているルールです。

斜線規制

斜線規制とは、隣地や道路からの距離に応じて建築物の高さを規制した、建築基準法上のルールです。
隣地や道路との境界線を起点として、建築物の高さと斜線の勾配(角度)が規制されています。

斜線制限には、次の3つが存在します。

  • 道路斜線制限 
    道路側との境界に面した部分の建築物の高さの制限です。接している道路の幅員により制限の内容が異なります。
  • 隣地斜線制限 
    隣地との境界に面した部分の建築物の高さ制限です。用途地域により制限の内容が異なります。
    第1種低層住居専用地域と第2種低層住居専用地域では建築物の高さの限度がそもそも斜線制限よりも低く定められているため、斜線制限の適用はありません。
  • 北側斜線制限
    北側隣地との境界線に面した部分の建築物の高さ制限です。北側隣接地の日照を妨げないために設けられています。
    住居専用地域と 田園住居地域にのみ設けられている規制です。
    なお、「北側」とは、太陽南中時に影ができる方角であり、磁石が示す方角ではありません。

斜線規制はこのように、隣地や道路の日照や採光、通風などの環境を悪化させないために定められています。

日影規制

日影規制(にちえいきせい・ひかげきせい)とは、周辺の土地の日照を守るために建築基準法で定められている建物の高さ制限です。
最も影が長くなる冬至の日の日照を基準として、建物の高さが規制されます。

規制を受ける建物の高さは、原則として10メートルを超えるものですが、
第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域ではもう少し厳しく、軒の高さ7メートルを超える建物または地下を除く階数が3階建ての建物が規制の対象です。

地方公共団体の条例により規制の内容が異なる場合がありますので、建築予定地の条例も確認しておきましょう

景観法

景観法は、
「都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため、景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り、もって国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与すること」を目的として、平成16年12月に制定されました。
平たくいえば、都市などの景観を守る目的で定められた法律です。
景観法自体が直接都市の景観や建築を規制しているわけではありませんが、各自治体が独自に景観計画を策定し、条例で建築物などを規制するための根拠となっています。

たとえば、昔ながらの町並みが美しい地域に立ち並ぶ住宅が、ある日突然近代的な外観へリフォームされてしまえば、景観を損ないかねません。
京都の祇園地区に、突然コンクリート壁の近代的な住宅が建つことをイメージするとわかりやすいのではないでしょうか。
こうした状況を避けるため、各自治体が計画や条例で景観を保護するための規制をすることが認められているのです。

例に挙げた京都の祇園町の一部では、屋根の形状や通りに面した窓、入口などの1階開口部のデザイン、塀の高さなどが細かく指定されています。
このように、都市などの景観を守るための景観法や景観条例も、環境権から派生したものの一つといえるでしょう。

騒音規制法

騒音も、良好な環境を阻害する要因の1つです。
そこで、騒音規制法では、工場や事業場の騒音、建設作業騒音、自動車騒音、深夜騒音について規制を行っています。

たとえば、良好な住居の環境を保全するため、特に静穏の保持を必要とする区域などでは午後7時から午前7時の間、その他の指定地域では午後10時から午前6時の間には特に騒音が生じやすい指定の工事を行ってはなりません。

地域により規制時間が異なりますので、建築工事を行う際にはこの法律も確認しておきましょう。

環境権を侵害するとどうなる?

環境権を侵害するとどうなる?
建築物を建築するにあたり、周辺の環境権を侵害していると認定されると、建築の差し止めや損害賠償請求を受ける可能性があります。
具体的に見ていきましょう。

建築の差し止め請求がされる

建築の差し止めとは、建築をやめるよう裁判所から命じられることです。
環境権を侵害されたと主張する近隣住民となどが裁判所に申し立て、裁判所が近隣住民の主張を認めることで、差し止めがなされる可能性があります。

建築の差し止めが認められると、建築により得ようとしていた利益が得られなくなってしまう他、それまでに工事などに要した費用も無駄になってしまいます。

損害賠償請求がされる

損害賠償請求とは、環境権侵害の代償として金銭を支払うよう裁判所から命じられることです。
その金額は、侵害をした相手の権利の内容や程度などによって異なります。

環境権侵害の判断基準

環境権侵害が認められると、上記のとおり建築の差し止めや損害賠償につながります。
しかし、冒頭で解説したとおり、環境権自体は法律で認められ確立した権利ではありませんので、環境権侵害が認められるハードルは決して低くはありません。

環境権侵害の判断は、次の基準でなされることが一般的です。

社会生活上我慢すべきかどうか

環境権に限らず、双方の利益が対立した際の考え方として「受忍限度論」があります。
つまり、「社会通念上一般的に見て我慢の限度を超えているかどうか」ということです。

たとえ建築基準法などの具体的な法令に違反していなかったとしても、社会通念上一般的に考えて我慢の限度を超えていると判断されれば、差し止め請求や損害賠償請求が認められる可能性があります。

受忍限度を超えているかどうかの判断にあたって、考慮要素の一つとされるのが、建築基準法など具体的な法令を遵守しているかどうかです。
法令を遵守しているから受忍限度を超えないとか、法令に違反しているから受忍限度を超えるというわけではありませんが、大事な考慮要素の一つです。

建築後に環境権侵害を主張された場合の対応

いくら法令を遵守して気をつけていても、周囲より大きな建物を建てた場合には、少なからず周囲の住民に影響を与えます。
そのため、建築後に周辺住民などから環境権侵害を主張されることも考えられます。

では、環境権侵害を主張されたらどのように対応すれば良いのでしょうか?

誠意をもって話し合う

まずは、相手と誠意をもって話し合いをしましょう。

たとえ相手方の主張が裁判で認められない可能性が高いものであったとしても、その場所に建物を建てた以上、今後も周辺住民と良好な関係を築いておいた方が良いと考えられるためです。

民事調停で話し合う

当人同士の話し合いをもってしても、相手方が矛を収めない場合には、民事調停で話し合うことも考えられます。
民事調停とは、訴訟のように裁判所が勝ち負けを決めるのではなく、話し合いによりお互いが合意することで紛争の解決を図る手続です。
民事調停では、一般市民から選ばれた調停委員が裁判官と共に紛争の解決にあたります。

民事調停で話し合いをする場合は、民事調停をスムーズに進めるためにも弁護士に相談するとよいでしょう。

訴訟で解決する

民事調停でも決着がつかない場合、最終的に訴訟で解決することになるでしょう。
訴訟となれば、裁判官が、双方の主張や証拠を基に、判断を下すことになります。
なお、当事者間で合意がまとまれば、途中で和解をすることも可能です。

まとめ

環境権は法律で確立した権利ではないとはいえ、建築後に周辺住民などから環境権侵害を主張される可能性は十分に考えられます。
特に、周辺と比べて大きな建物を建築しようとする場合には、事前に説明会を開くなど慎重に工事を進める必要があるでしょう。

環境権についてお困りの際には、弁護士へご相談ください。

Authense法律事務所の弁護士が、お役に立てること

・近隣の方などから環境権を侵害していると請求された場合に、過去の経緯から現在の状況に至るまで、丁寧な聴き取りをした上で、あなたが他人の環境権を侵害しているかどうかについてご回答いたします。

・近隣の方などから環境権を侵害していると請求された場合に、交渉、調停、裁判など適切な手続きを選択し、近隣の方との調整にあたります。

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