コラム

公開 2021.07.14 更新 2024.03.15

負債がある場合の事業廃業の手続について(事業承継をしない場合)

相続_アイキャッチ_113

事業を営んでいた親が亡くなり、当該事業を承継する人がおらず、負債も多い場合には、相続人はどうすればよいのでしょうか?何をしたらよいのかわからず、そのまま何もせず放置していると、場合によっては、相続人が事業の負債を負わされることにもなりかねません。
今回は負債がある場合の事業廃業の手続(事業承継をしない場合)について、弁護士が解説いたします。

オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。

事業を承継しない場合の手続について

まず、「廃業」と「倒産」について説明します。

「廃業」も「倒産」も事業をやめることではありますが、「廃業」は自主的に事業をやめることを指すのに対して、「倒産」は企業の資金繰り悪化などにより債務が支払えなくなった場合に、裁判所の手続を用いて事業をやめることを指します。
「廃業」は事業をやめた後も借金が残ってしまうのに対して、「倒産」は手続が終わることによって借金をなくすことができるのが一番大きな違いです。
「倒産」にはこのような大きなメリットがある反面、手続的な負担が大きいことや、弁護士などに依頼する場合には弁護士費用が発生してしまうなどのデメリットもあります。

株式会社の「廃業」手続

株式会社の「廃業」手続

それでは、相続人が、親が営んでいた株式会社の「廃業」手続をとる場合は、どうすればよいのでしょうか?
ポイントになるのは、株式会社の廃業を行うためには、「株主総会」を開催して「解散決議」を行う必要がある点です。
解散決議は、議決権の過半数を有する株主が出席し、かつ、出席した株主の有する議決権の3分の2以上に当たる賛成をもって決議しなければなりません。

そこでまずは、親(被相続人)が所有していた自社株の割合を確認することからはじめましょう。

被相続人が所有している株式を相続した相続人の株式数の割合が3分の2に満たない場合、そもそも当該相続人のみでは解散決議を行うことができない可能性があります。
そのような場合には、他の株主にも協力してもらいながら「廃業」手続を進めていきましょう。

株式数を確保でき、解散決議を行う目途がつきそうであれば、「廃業」に向けて、以下のような手続を行っていくことになります。
手続の中には、単純な事務作業もあれば、登記や清算といった法律的な知見を要する手続もあります。必要に応じて、適宜専門家に相談しながら手続を進めることをお勧めいたします。

【株式会社の「廃業」手続】

  1. 「廃業」日の決定、各種関係者への報告
    廃業あいさつ文を作成し、取引先などに通知しましょう。通知は、廃業日の2~3か月前までに行うことが望ましいですが、状況に応じて柔軟に対応しましょう。
  2. 株主総会の開催(解散決議、清算人選任)
    株主総会を開催し、解散決議をとりましょう。
    一般的には、清算人として、代表取締役が選任されることが多いです。
  3. 登記申請(会社解散、清算人選任)
    廃業日から2週間以内に、法務局にて、解散と清算人選任の登記をします。
  4. 税務署・役所などへの解散届出
    税金や保険関係の手続(解散届出)を行います。
  5. 官報公告の申込み
    会社の債権者に、債権があれば申し出るよう、官報に「解散公告」を2か月以上掲載します。既に判明している債権者がいれば個別に通知も行います。
  6. 会社の財産の調査
    会社財産の調査を行い、財産目録や貸借対照表を作成します。
    作成できたら株主総会で承認を得ましょう。
  7. 確定申告
    廃業日から2か月以内に税務署への確定申告を行います。
  8. 債務の弁済や残余財産の分配
    判明した債権者に債務を弁済し、なお残余財産がある場合には株主に分配します。
  9. 決算報告の承認
    株主総会を開催し決算報告の承認を得ます。
  10. 清算結了登記
    株主総会での承認から2週間以内に法務局にて「清算結了登記」を行います。

従業員がいる場合は、解雇の手続等も必要となります。
廃業の手続は、早い場合でも2~3か月かかってしまいますので(長ければ1年以上かかることもあります)、なるべく早めに専門家に相談をして、スムーズに各種手続を進めるようにしましょう。

オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。


個人事業の「廃業」手続

被相続人が個人事業主の場合は、相続人が「個人事業の開業・廃業等届出書」を廃業から1か月以内に所轄の税務署に提出します。
青色申告の取りやめをされる方は、事業を廃止する年の翌年の3月15日までに「青色申告の取りやめ届出書」も提出します。

また、消費税の課税事業者であった場合や従業員に給与を支給している個人事業主の場合は、「事業廃止届出書」や「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を所轄の税務署へ提出する必要があり、事業税を納めるための開業届をしている場合には、都道府県税事務所にも廃業届を提出します。

所得税を予定納税している個人事業主の方で、廃業により、所得税などの見積額が予定納税基準額より少なくなる場合には、予定納税額の減額申請書を提出しましょう。

事業形態により提出する書類や期限が異なりますので、事前に専門家に相談をして、確認しておくとよいでしょう。
株式会社とは異なり、登記や官報掲載などは必要ありません。
廃業等届出書を提出するのみで廃業することができます。

ただし、負債が残る場合、廃業後も代表者に返済義務が残ります。
負債については、債権者と交渉して、分割払いにしてもらったり、自己破産や民事再生など、裁判所の手続を用いて、負債をなくしたり、減らす手続をとることも可能です。
負債が残る場合は、専門家に相談をして、適切な手続をとるようにしましょう。

「相続放棄」の手続

「相続放棄」の手続

被相続人が個人事業主であった場合、事業の負債は被相続人個人の負債として、相続人に引き継がれることになります。
他方、被相続人が株式会社を運営していたような場合であれば、事業の負債は株式会社の負債であって、被相続人個人の負債ではないため、相続人に引き継がれることはありません。
ただし、被相続人が株式会社の債務の連帯保証人となっているケースは少なくありません。そのような場合には、やはり相続人が事業の負債を負担しなければならなくなります。

被相続人が営んでいた事業の負債が多く、また、被相続人の個人資産を差し引きしてもマイナスの財産が多いため、事業も個人の財産も承継したくないといった場合は、「相続放棄」の手続をとるのがよいでしょう。

「相続放棄」を行えば、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も一切承継することはなくなります。
そのため、「相続放棄」を選択すると、当該相続人は、上記で説明した「廃業」の手続をとる必要もなくなります。
相続人全員が相続放棄をした場合は、家庭裁判所が選任した相続財産管理人が「廃業」の手続を行うことになります。

「相続放棄」の手続は、被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所に申し立てることにより行いますが、特に、以下の2点に注意してください。

  1. 期間制限がある
    「相続放棄」は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申立てをしなければなりません。
    当該期間内に、相続放棄を選択するか判断できない場合は、期間伸長を申し出ることもできますので、家庭裁判所に期間伸長の手続を行いましょう。
  2. 一定の行為をすると、相続放棄を選択できなくなる
    「みなし単純承認」といわれる、以下の行為をとると、単純承認(相続した)とみなされ、相続放棄の手続をとることができなくなりますので、注意してください。
    ⅰ:相続財産の全部または一部を処分したとき
    ⅱ:相続放棄後でも、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき

「相続放棄」を検討する場合は、以上のような注意点もありますので、弁護士などの専門家に相談されることをお勧めいたします。

関連記事

事業の廃業や相続放棄について、誰に相談すべきか

事業を営んでいた親が亡くなり、事業を承継しない場合は、誰に相談するべきでしょうか?

まずは、顧問税理士や従業員・役員など、事業内容や財産についてよく理解している方に相談するようにしましょう。
また、事業を営んでいた方は、会社の債務につき連帯保証をしている場合もあるため、慎重な財産調査が必要となりますので、弁護士や司法書士にも相談するとよいでしょう。

株式会社の廃業の場合は、会社法の手続をとる必要もあるので、会社法に詳しい弁護士に相談しましょう。

まとめ

相続が発生した場合の「廃業」手続については、事業を行っていない相続人が行うこととなりますので、なるべく早く専門家に相談をして、手続をとってもらうようにしましょう。
また、そもそも「廃業」を選択すべきかも分からないという場合は、事業内容や財産の調査についても、専門家に依頼をして、「廃業」を選択するか否かという点からもしっかりと相談しながら、手続を進めていくようにしましょう。

Authense法律事務所が選ばれる理由

Authense法律事務所には、遺産相続について豊富な経験と実績を有する弁護士が数多く在籍しております。
これまでに蓄積した専門的知見を活用しながら、交渉のプロである弁護士が、ご相談者様の代理人として相手との交渉を進めます。
また、遺言書作成をはじめとする生前対策についても、ご自身の財産を遺すうえでどのような点に注意すればよいのか、様々な視点から検討したうえでアドバイスさせていただきます。

遺産に関する問題を弁護士にご依頼いただくことには、さまざまなメリットがあります。
相続に関する知識がないまま遺産分割の話し合いに臨むと、納得のできない結果を招いてしまう可能性がありますが、弁護士に依頼することで自身の権利を正当に主張できれば、公平な遺産分割に繋がります。
亡くなった被相続人の財産を調査したり、戸籍をたどって全ての相続人を調査するには大変な手間がかかりますが、煩雑な手続きを弁護士に任せることで、負担を大きく軽減できます。
また、自身の財産を誰にどのように遺したいかが決まっているのであれば、適切な内容の遺言書を作成しておくなどにより、将来の相続トラブルを予防できる可能性が高まります。

私たちは、複雑な遺産相続の問題をご相談者様にわかりやすくご説明し、ベストな解決を目指すパートナーとして供に歩んでまいります。
どうぞお気軽にご相談ください。

こんな記事も読まれています

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
大阪大学法学部法学科卒業、神戸大学大学院法学研究科実務法律専攻修了。企業法務としては、債権回収、労働問題(使用者側)、倒産を中心に、個人法務としては、相続、過払金返還、個人破産、発信者情報開示などの解決実績を持つ。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問合せはこちら

オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。

こんな記事も読まれています

コンテンツ

オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。