事業承継 M&A(社外承継)

株式譲渡

株式譲渡は売り手が買い手に株式を売却する手法で、売買、贈与、相続の3つの方法で行われます。
一般に、株式譲渡は比較的手続きが簡単で迅速に完了できるため、中小企業のM&Aでよく用いられます。
このM&A(社外承継)のメリットは親族内と従業員に後継者がいない場合であっても、外部の第三者に事業を承継することで事業の廃業を回避することができることにあります。

さらに、M&Aを利用して買収する主体である企業は、一般にはマネジメント体制が確立していることから経営に関するノウハウを教育する必要がなく、業務の引継ぎを中心に行うだけでよいケースが多いです。
もっとも、株式譲渡では、対象会社の全事業が承継されるため、簿外債務・偶発債務が存在する場合にはそれらも併せて承継されてしまいます。そして、すべての事業が価値を有しているとは限らないことから、株式譲渡を行うための買い手が見つからない可能性があります。また、オーナーが負担する個人保証・担保の引継ぎ等について考慮する必要があります。

さらに、簿外債務や現経営者が認識していない偶発債務等も含めて承継される点や株式の売却価格が時価と比較して著しく低い場合、時価で売却されたとみなされて譲渡所得課税を受けるおそれがある点(みなし譲渡)等には十分に注意を払う必要があります。

事業譲渡、会社分割

事業譲渡は、売り手の「全部」または「一部」の事業を買い手に売却する方法(主に、対価は現金であるケースが多い。)で、会社の事業に関する個々の権利・義務を取引行為として譲渡することにより、当該事業を承継する手法です。会社分割は、企業の全部又は一部の事業を分割して、新たに設立する企業(新設分割)又は既存の企業(吸収分割)に承継する手法です。
事業譲渡や会社分割は、株式譲渡と異なり、会社の事業を他の会社に移転・承継するので、譲渡する対象資産等を特定でき、買い手にとっては予期せぬ簿外債務等を承継するリスクを少なくできるという点で共通していますが、様々な点で異なっています。
まず、事業譲渡は、会社の事業に関する個々の権利・義務を取引行為として譲渡しますが、会社分割は、事業に関する権利・義務を包括的に移転・承継する制度です。
次に、事業譲渡は、通常の私法取引上の契約と同様であるため、会社以外の法人や個人を相手方とすることもできます。また、免責的債務引受けについて債権者からの同意を得ればよく、最低限確保しなければならない期間はありません。一方、会社分割は、会社法に定められた組織法上の行為であるため、当事会社となることができる会社に制限があります。また、債権者異議手続等履践しなければならない会社法上の手続があるため、最低でも1ヶ月の期間を要します。

さらに、事業譲渡の場合、譲渡会社は、当然に競業避止義務を負うほか、譲渡会社が事業譲渡の対価をその会社の株主に割り当てる際、財源規制の適用があります。一方、会社分割は、競業避止義務を負わず、人的分割が想定されているため、財源規制の適用がありません。

加えて、事業譲渡は、個々の従業員との労働契約を承継対象に含めるかどうかは譲受先との合意によって決定されるのが原則です。一方、会社分割の場合は、労働契約承継法によって、特段の事情のない限り、分割事業の雇用が保障されることから、従業員の雇用が継続されます。事業譲渡は、私法上の取引として行うため、現経営者が売却益を得ることができ、新規事業等に用いることが可能になります。もっとも、法人税や消費税等の課税があり得ます。

一方で、手元に残したい事業を経営者自身が選別したり、また、複数の後継者にそれぞれ別の事業を引き継がせたいという経営者のニーズがある場合には、会社分割の手法が有効です。もっとも、会社分割によって事業を切り出した後も、もとの会社そのものは存続しているので、その会社を完全に廃止したいというニーズに応えるためには、別途、清算の手続をとらなければならないことに留意が必要です。

株式交換、株式移転

株式交換は、既存の会社にかかる全株式を他の会社に取得させて完全親会社とするもので、株式移転は、既存の会社にかかる全株式を新たに設立する会社に取得させて完全親会社とするものです。これらは経営統合や事業拡大、ホールディングスを設立する場合などに用いられる手法であり、既に設立済みの会社を完全親会社にする場合には株式交換が利用され、新たな会社を設立し、完全親会社とする場合には株式移転が利用されます。
「株式交換」・「株式移転」を活用することによって、資本・人材・ノウハウ等の経営資源を効率的に活用することができるようになり、また、経営者となる後継者がいない事業を継続できるようになります。さらに、適格株式交換・適格株式移転の要件を満たす場合には、税務上の優遇措置を受けることができます。
もっとも、「株式交換」・「株式移転」によって意思決定を一本化し、経営の効率化を図るには、株主の構成が変わるというデメリットをも踏まえ、会社や業界の状況に合わせて適切な時期に「株式交換」・「株式移転」を行うことがベストです。
また、株式交換契約・株式移転計画の作成や株主総会の承認決議、反対株主の株式買取請求への対応など、法律上要求される手続が複雑で多岐にわたるため、株式交換・株式移転を検討される場合には、早い段階から弁護士にご相談することをお勧めします。

合併

企業同士を結合して1つの企業とすることを合併といいます。合併前のそれぞれの会社が消滅して1つの新会社が設立される新設合併と、1つの会社を存続会社として他の会社はその会社に吸収される吸収合併とが存在します。

合併は包括承継であり、消滅会社の権利義務の一切を存続会社が承継することになります。そのため、個々の財産の移転手続きが不要であり、例えば後継者がいない事業では、建物などの財産を有効活用したり、従業員の雇用を確保できたりするほか、存続する会社にとってはより早く効率的に新事業に進出することができます。

他方で、資産のみならず、負債さらには潜在的債務や偶発的債務をも承継してしまうため、存続会社としてはリスクが多く存在します。合併する場合でも、一般的には、M&Aを行って 株式譲渡により対象会社を完全子会社にし、数年を経てから、潜在債務や偶発債務が存在しないことを確認して合併を行うことが多いです。

このように合併には、法定の手続きが必要であり、また、 従業員の雇用関係や債権者等、多数の関係者の利害もとの経済状況に考慮する必要もあるため、法律や税務の観点からの検討が求められ、実務上事業承継において合併が利用されるケースは多くはありません。細分化された同族会社を整理する場合等に用いられることがあります。

第三者割当増資

第三者割当増資とは、既存の株主以外の第三者に対して新株発行ないし自己株式処分を行い、それによって会社の資産を増やす方法をいいます。新株等の引受人が発行会社の一定割合の株式を取得することになるため、M&Aの一手法としても利用されます。

株式の対価を会社が受け取るため、会社に資金需要がある場合、新株発行等に第三者割当増資を行います。この手法により譲受会社が譲渡会社の過半数の株式を保有することで、経営に関与することが可能となり、さらに3分の2の割合を超えると会社のM&A等の経営上重要とされる事項の決定に関与することが可能となります。

なお、特定の第三者に対して新株を発行するに際し、特に有利な価格となっている場合には、株主総会の特別決議が必要となる点には注意が必要です。また、金融商品取引法やインサイダー取引規制にも注意が必要となる場合があります。

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