2023.11.29Legal Trend

2023年に話題となった企業不祥事から学ぶ危機管理対応を弁護士がわかりやすく解説

コンプライアンス

2023年も、多くの企業不祥事が話題となりました。
旧ジャニーズ事務所やビッグモーターなど多くの人が名を知る企業での不祥事も多く、企業不祥事を身近に感じた年だったのではないでしょうか?

今回は、2023年に発生した主な企業不祥事をまとめて紹介するとともに、万が一自社で不祥事が発生した場合の対応についても解説します。
これをきっかけに、自社で不祥事が起きるリスクはないか改めて確認しておくとよいでしょう。

目次
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旧株式会社ジャニーズ事務所の性加害問題

1つ目は、旧株式会社ジャニーズ事務所の性加害問題です。
同事務所の前社長であるジャニー喜多川氏が約40年という長期間にわたり、同社に所属していた多数のタレントに対して性加害を行ってきたとされる問題です。
性加害を行ったとされるジャニー喜多川氏は2019年に死去しており、性加害自体は2023年に発生したものではありません。
しかし、2023年に入り、イギリスのBBCが放送したドキュメンタリー番組をきっかけに、複数の元所属タレントなどが被害を訴えたことから、世間を揺るがす非常に大きな問題へと発展しました。

これを受け、旧ジャニーズ事務所は社名を「株式会社SMILE-UP.」(以下、SMILE-UP.)に変更し、社長もジャニー喜多川氏の親族である藤島ジュリー景子氏から所属タレントであった東山氏へと変更されました。
ただし、同社の株主はジュリー景子氏のままであり、同氏は代表取締役として残っています。
今後は被害者への補償が行われる予定とされていますが、すでに複数の企業がSMILE-UP.の所属タレントのCM起用などを見送る姿勢を示しており、事件の影響は長期化かつ甚大なものとなりそうです。※1※2※3

また、この事件では、元社長による性被害を公表した元所属タレントがSNSなどで誹謗中傷による被害に遭う影響も出ていたり、会見の場で指名しない記者のリストがあったとされたりするなど、さまざまな余波も広がっています。
さらに、この事件は数十年前から被害を訴えるタレントがいたり週刊誌が性加害問題を報じたりしたものの、人気タレントを多く擁する同事務所への忖度からか、主要なメディアは性加害についてほとんど報道していませんでした。
これが原因で被害が広がったとの指摘もあり、報道の在り方が適切であったかなど、マスコミにも疑問が呈されるに至っています。

ビッグモーター修理費水増し事件

2つ目は、株式会社ビッグモーター(以下、ビッグモーター)による修理費水増し事件です。
この事件は、中古車販売や修理などを営む大手企業であるビッグモーターが、顧客から修理のために預かった自動車にゴルフボールをぶつけるなどして故意に傷をつけ、損害保険金を水増し請求していたとされるものです。
水増しされた保険金は損害保険会社が支払うこととなるものの、顧客は自身の車に本来なかったはずの傷がつけられるなどの不利益を被ります。
また、ビッグモーターには大手損害保険会社が複数の出向者を出しており、不正を認識したことが疑われる損保ジャパンなどの損害保険会社にも金融庁からの立ち入り検査が入る事態となっています。
この事件の全容はまだ解明されておらず、全国の消費生活センターにはビッグモーターに関する相談が2023年4月から8月だけで1,425件寄せられており、被害者は非常に多数に上る見込みです。※4※5
さらに、ビッグモーター社は店舗の外観を目立たせる目的で、複数の店舗前の街路樹を無断で伐採するなどしており、街路樹を管理する複数の市区町村などから賠償請求や被害届の提出などがなされています。※6
ビッグモーターに関しては他にもさまざまな不正やトラブルが指摘されており、企業体質そのものの大きな歪みが指摘されています。

NTT西日本子会社による顧客情報漏洩事件

3つ目は、NTT西日本子会社による顧客情報漏洩事件です。
2023年10月、西日本電信電話株式会社(NTT西日本)の子会社である株式会社NTTマーケティングアクトProCXは、同社が保有するコールセンター業務に関する個人情報約900万件が外部に流出したと公表しました。
データの流出は、同社のコールセンターシステムの運用業務を担っているNTTビジネスソリューションズ株式会社の元派遣社員が不正に持ち出したことによるものです。※7
データは一度にまとめて持ち出されたのではなく、2013年7月ごろから10年近くにわたり不正に流出したものとされており、また、元派遣社員は、データを管理するサーバーに直接アクセスして、データをダウンロードし、USBメモリーを使って持ち出したとされており、企業の情報管理体制が問われています。
流出したデータには、「フレッツ光」などのインターネット通信サービスの契約者の情報のほか、福井市と鯖江市で特定健診の対象となった市民の個人情報や、岐阜県国民健康保険団体連合会が健康診断を受けるよう促す対象だった人の個人情報、福岡県・沖縄県の自動車税の納税者に関する個人情報が含まれている可能性があるとのことです。※8
大手企業であるNTT西日本の子会社で長年継続された大規模な個人情報流出事件であり、今後の捜査や対応が急がれています。

近畿日本ツーリストによるコロナ関連事業業務委託費過大請求事件

4つ目は、近畿日本ツーリスト株式会社(以下、近畿日本ツーリスト)によるコロナ関連業務の業務委託料過大請求事件です。
この事件は、自治体から受託した新型コロナワクチン接種のコールセンター業務に関し、近畿日本ツーリスト関西法人MICE支店などが業務委託費のうち人件費などを水増し請求したものです。
水増し請求額は、この支店分だけで約2億2,000万円とされています。
この事件では、元支店長ら3人が詐欺罪に問われ、いずれも起訴内容を認めています。
同様の過大請求はこの支店のみならず近畿日本ツーリストの他の支店でも発覚しており、複数人が逮捕・起訴されています。
一連の過大請求の合計は最大で37自治体、計約7億円に上るとされており、組織ぐるみによる多額の詐欺事件として大きな話題となりました。
新型コロナ禍ではスピードが重視されていた面が多く、自治体側のチェック体制の脆弱性が突かれたものと指摘されています。
近畿日本ツーリストは不正に受け取った額を全額返還することとしているほか、取締役や監査役ら13人を報酬の一部を自主返納、社員37人が処分されました。
さらに、当時の社長は責任をとって辞任するに至っています。※9

企業不祥事が起きたら企業はどう対応すべき?

企業不祥事はどの企業にとっても起き得るものであり、他人事ではありません。
では、万が一自社で企業不祥事が発生してしまったら、どのように対応すればよいのでしょうか?
最後に、不祥事が起きてしまった場合における基本的な対応方法について解説します。

  • できるだけ早期に弁護士へ相談する
  • 事実関係の把握に努める
  • 謝罪と報告をする
  • 被害者への補償を検討する(被害者がいる場合)
  • 再発防止策を講じる

できるだけ早期に弁護士へ相談する

自社で不祥事が起きていたり、企業不祥事が起きているらしいとの情報が内部通報でもたらされたり、SNSなどで拡散されたりしている場合は、早期に弁護士へご相談ください。
弁護士へ相談することで、状況に応じて行うべき初期対応についてアドバイスを受けることが可能となるためです。
企業不祥事は、初期対応が特に重要です。
不祥事が発覚した際などにすみやかに相談できるよう、企業不祥事対応に強い弁護士と顧問契約を締結しておくと安心です。
顧問弁護士であれば優先的に対応してもらえる可能性が高くなるほか、企業の内情を知ったうえでアドバイスを受けやすいためです。

事実関係の把握に努める

次に、弁護士とともに事実関係の把握に努めます。
事実関係を把握する方法としては、事情を知る可能性がある従業員から聞き込みをするほか、社内の文書や記録などを調査することなどが考えられます。
企業不祥事が起きた場合は、関係者などにできるだけ早期の報告や謝罪が必要となることが多いものの、報告や謝罪を焦るあまり事実関係が何も把握できていなければ、かえって相手による不信感が大きくなる事態となりかねません。
そのため、初期段階で可能な限り事実関係を把握しておく必要があります。
ただし、不祥事の規模や内容によっては、短期間で不祥事の全容が把握できないこともあるでしょう。
その際は全容解明まで謝罪や報告を待つのではなく、まずは第一報としてその時点までに把握できている内容で謝罪と報告を行ったうえで、後日判明した事実を改めて報告するなどの対応をするなどの対応をすることとなります。

謝罪と報告をする

企業不祥事の事実関係が把握できたら、早期に謝罪と報告をします。
不祥事による直接的な被害者がいる場合は、まず被害者に対して報告と謝罪を行います。
そのうえで、不祥事の内容や規模、社会的な影響の大きさなどに応じて、自社ホームページに謝罪文を掲載したり、謝罪と報告の会見を開いたりします。
企業としては、不祥事を大ごととしたくない場合、自社ホームページにひっそりと記載するに留めようと考えるかもしれません。
しかし、内容や規模、影響によってはそのような姿勢が不誠実であるように捉えられ、SNS上で「炎上」するなど、かえって問題が拡大するおそれもあります。
そのため、報告や謝罪の対応方法についても企業不祥事への対応経験が豊富な弁護士へ相談のうえ、慎重に検討するようにしてください。
また、謝罪や報告では誠実な対応に努めましょう。
企業側が保身的な態度をとるなど謝罪の対応に問題があれば火に油を注ぐこととなり、企業イメージがより失墜してしまいかねません。

被害者への補償を検討する(被害者がいる場合)

不祥事に関して直接的な被害者がいる場合は、被害者への補償内容を検討します。
補償内容は、補償の範囲や内容、金額は不祥事の内容によって大きく異なります。
たとえば、性被害の被害者と、個人情報漏洩の対象者との補償適正額が大きく異なることは想像に難くないでしょう。
なお、過去の判例による適正額であったとしても、補償額を出し惜しんだとの見方がされると、企業イメージの回復に時間がかかるおそれがあります。
一方で、多くの被害者に高い補償額を出せば、経営の根幹が揺らぎかねません。
このように、企業不祥事の補償額を自社だけで適正に算定することは容易ではありません。
そのため、企業不祥事対応に強い弁護士に相談したうえで慎重に検討してください。

再発防止策を講じる

不祥事の全容を把握し原因究明を行ったうえで、再発防止策を講じます。
再発防止策を講じる際は、対症療法的な対応とするのではなく、不祥事が起きてしまった根本的な原因を見つけて対処することが必要です。
しかし、自社のみで客観的な原因究明をすることは容易ではありません。
そのため、弁護士など外部の専門家のサポートを受けつつ対応を検討するようにしてください。
そのうえで、再発防止に向けた取り組みを外部に向けて公表することで、企業イメージの回復につながりやすくなります。

まとめ

2023年も、多くの企業不祥事が世間を騒がせました。
誰もが知る企業による不祥事が多く、センセーショナルな報道内容に目が向きがちであるものの、企業不祥事はどの企業にとっても他人事ではありません。
企業不祥事が話題となった際は、ニュースを単に消費するのではなく、同様の不祥事が自社で起きる可能性はないか自社の体制を振り返り、自社の対応や仕組み、従業員研修などを見直すきっかけとするとよいでしょう。
併せて、万が一自社で不祥事が発生した際にスムーズに対応することができるよう、弁護士との連絡体制を構築するなど、対応方法を検討しておくことをおすすめします。

Authense法律事務所には企業法務の経験豊富な弁護士が多数在籍しており、顧問としての契約が可能であるほか、不祥事発生時の対応や不祥事を予防するための体制構築のサポートなどを行っています。
企業不祥事を防ぎたい場合や体制を見直したい場合、企業不祥事が発生してお困りの際は、Authense法律事務所までご相談ください。

記事執筆者

Authense法律事務所
弁護士

森中 剛

(第二東京弁護士会)

一橋大学法学部法律学科卒業。元裁判官。企業法務、M&A、労働法、事業承継、倒産法(事業再生含む)等、企業に係わる幅広い分野を中心とした法律問題に取り組む。弁護士としてだけでなく、裁判官としてこれまで携わった数多くの案件実績や、中小企業のみならず、大企業や公的企業からの依頼を受けた経験と実績を活かし、企業組織の課題を解決する多面的かつ実践的なアドバイスを提供している。

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