
90年代を代表するバラエティ番組のひとつ、日本テレビ系列の『進め! 電波少年』。
番組制作の中心を担った土屋敏男プロデューサーから、鈴木おさむ氏は薫陶を受ける。
独自の発想力と常識を疑う視点で新たな時代を築いた鬼才の思考の一端を読み解く。
取材/元榮太一郎(本誌発行人) Taichiro Motoe
取材・執筆/山口和史(本誌編集長) Kazushi Yamaguchi
写真/西田周平 Shuhei Nishida
常識と当たり前を疑う視点 その「当たり前」は絶対ではない
- なぜ無いんだろう、漫然と日々を過ごしていてはそんな疑問も抱かない。人類が社会生活を営む生き物である以上、社会に広がる「常識」を共通認識として暮らしている。「なぜ」を思い浮かべるためには、その常識を疑う必要がある。
鈴木 おさむ 氏 (以下 鈴木氏): 当たり前のことって疑問を持たないじゃないですか。そこを日頃からなぜこうなっているんだろうと疑問を持つことが大事なんだと思います。
- 鈴木氏は、「進め! 電波少年」で知られるプロデューサー、土屋敏男氏とのエピソードを話してくれた。
鈴木氏: 僕が妻(森三中の大島美幸氏)と交際ゼロ日で結婚したら「お前ら面白いことするな!1日100円やるよ」って言って、本当に1年間で3万6千5百円くれたんです。そこから毎年振り込んでくれていて、20年経った頃、土屋さんが「もうギブアップだ」って言って、その頃ちょうど、息子が小学校に入る前だったので、「最後にランドセルを買ってやる」って言ってくれたんです。でも、ランドセルって入学の1年前に頼むので、もう頼んでるんですって伝えたら、「ランドセルが2個あって何がいけねえんだよ」って言われたんです。「お前、放送作家なんて仕事をしてるんだから、常識を疑っていけよ」って。まさにそれがすべてなんですよ。
- 1つのランドセルをなぜ6年使い続けなければならないのか。なぜ1年ごとに買い替えてはいけないのか。複数個、複数色のランドセルを持って、その日の気分で使い分けるのはなぜダメなのか。常識を疑い、違う視点でものを見る大切さに、土屋氏の言葉で気がついたという。
空気を読み解く重要性 答えを掴むための「ヒント」
鈴木氏: ペットボトルのお酒って売っていませんけど、なんで無いんだろうってここ数年思っているんですよ。常識とされていることに疑問を持っていくところから発想が生まれ企画になっていく。僕が中学の時にウーロン茶が発売されたんですけど、それまでお金を出して買う飲み物ってジュースでしたよね。お金を出してお茶を買うなんて、と思ったのですが、今ではそれが当たり前になった。当時、「そのうち水を買う時代になるからな」って学校の先生に言われて、そんなわけないだろうと思っていたんですけど、そうなりました。
企画や商品や世の中ってすごいスピードで変わっています。会社に関しても同じです。以前は大手企業に就職したら転職なんて考えられなかったけど、今、若い人にとっては当たり前のことです。すべてのことに対して疑問を持つ重要性について、最近特にまた考えているんです。
以前、番組内で千原兄弟の千原せいじさんが「常温の飲み物が売っていないのはおかしい」って発言したら、全員からツッコまれていたんです。でも彼は「冷えてもいないし温められてもいない常温の水を飲みたい人もいるはずだ」って言っていて、そんなわけあるか! とまたツッコまれて。でも今は売ってますよね。せいじさんの言っていることが正しかったんですよ。ツッコんでいた人たちは「多くの量のコーヒーなんて飲まないだろう」と考えていた人たちと同じなんです。日本中の10人に1人求めている人がいたら1千万人になりますからね。そういった発想が大事で、商品やサービスの種ってそこら辺にいっぱい転がっていると思うんです。
- とはいえ、常識を疑い続けるのも難しい。鈴木氏はどのように考えているのだろうか。
鈴木氏: 常識は時代とともに変化しますから、その時代の空気を読み解くことが大事だなと思います。先日、僕が出演している「鈴木おさむのなぜこの企業に投資したんですか?!」というYouTubeの番組に小澤隆生さんが来てくれたんです。彼は孫正義さんと三木谷浩史さんの下でそれぞれ働いてヤフーも楽天も経験している方です。その小澤さんが「日経新聞を見たら答えが書いてある」って言うんですよ。たとえば日経新聞に「これからはAIだ」といったことが書いてあるのはきっと何かの答えなんです。書いてあることがそのまま答えなんだと信じ込むのではなく、これが答えなんだとしたら何かのヒントになるのではないかと考えることが大事なのかなと思っています。
Profile
鈴木 おさむ 氏
千葉県千倉町(現・南房総市)生まれ。19歳の時に放送作家になり、それから32年間、様々なコンテンツを生み出す。
2024年3月31日をもち放送作家・脚本業を引退し、現在は、To C向けファンド「スタートアップファクトリー」を立ち上げ、その代表を務める。