
鈴木おさむ氏の数多い代表作のひとつにフジテレビ系列で放送された「SMAP×SMAP」がある。
1996年、当時23歳のときに放送開始されたこの伝説のバラエティ番組で、鈴木おさむ氏は大きく飛躍を遂げる。
時代に足跡を残す企画はなぜ生まれたのか、その背景に迫る。
取材/元榮太一郎(本誌発行人) Taichiro Motoe
取材・執筆/山口和史(本誌編集長) Kazushi Yamaguchi
写真/西田周平 Shuhei Nishida
器と味付けを変えて表現する 時代に合った企画を考える「コツ」
- 19歳で作家デビューした鈴木おさむ氏は、およそ30年にわたってエンタテインメントの世界の先頭を走り続けた。大きな飛躍を遂げるきっかけとなった番組がある。フジテレビ系「SMAP×SMAP」だ。1996年、当時23歳だった。
鈴木 おさむ 氏 (以下 鈴木氏): 90年代のバラエティ番組では、明石家さんまさんやビートたけしさんが中心で、男性アイドルがゴールデンタイムやプライムタイムの冠番組を持って司会をするなんてことは無かったんです。当時、アイドルは歌番組に出るものであって、仮にバラエティ番組に出ても『アイドル然』として振る舞うものだった。それが、フジテレビの22時にSMAPが冠番組をやることになったわけです。あの時、テレビの歴史が変わりました。
- 「SMAP×SMAP」は、歌、コント、トーク、料理コーナーを融合させた斬新な構成で、バラエティの新しいスタイルを確立した。20代の多感な時期に日本のバラエティ史に足跡を残す番組に携わった鈴木氏は、作家としてさまざまなことを学んでいく。
鈴木氏: 番組を立ち上げる時にプロデューサーに言われたんです。「ゼロからなにかを生み出そうと考えるのももちろん良い。だけど器と味付けを変えて表現すればいいんだよ」って。「まったくの無からイチを作り出すだけが企画じゃない」って。
- 例えばマグロという食材がある。刺身にするのかカルパッチョにするのかで見え方も味わいも変わる。90年代にはウィンタースポーツの定番はスキーからスノボに変わっていった。ダンスを主体とした若者のコミュニケーションの場も、ディスコからクラブへと変化した。やっていることは変わらないのに、器が変わることで別のものに見えている。
鈴木氏: 当時、SMAPという新しい食材が世の中に出てきたんだからあとは器を変えればいい。そうプロデューサーから言われたのは企画を考えるにあたってすごく大きかったですね。
- 戦後直後から昭和の時代まで、プロ野球ファンは男性中心。球場は試合を見る場だった。
鈴木氏: 野球も、今は球場自体がテーマパークになっていますよね。野球というスポーツそのものは今も昔も変わらないんです。でも、球場が大きなエンタテインメントの場になっている。これも器と味付けを変えることによって野球がかつてとは違う見え方をしている一例だと思うんですよね。
「なんで無いんだろう?」という発想 時代性と合致した際に生まれるヒット作
- テレビ朝日系「お願い! ランキング」で鈴木氏が手掛けたコーナー「美食アカデミー」も大人気となった。このコーナーも当時の常識を覆し、新しい定番となった企画のひとつだ。
「美食アカデミー」は、食のプロが有名企業の商品を試食してランキングをつけるコーナー。鈴木氏は雑誌「家電批評」に良い評価と並べて、厳しい評価も掲載されているのを見て、これを番組にも応用したいと考えたという。
鈴木氏: それまでの番組では10種類食べてベスト3を発表するという形式はあったんです。僕がやりたかったのは10個食べたら10位、つまり最下位から全部発表していくっていうスタイルです。最下位に関しては厳しい評価を下すことになります。いろんな企業に問い合わせたのですが、当然、どこも受けてくれなかった。でも粘り強く探していたら、ある肉まんメーカーが乗ってくれた。そこで第1回は「肉まん」でスタートしました。
- 序盤、食のプロたちが商品を酷評していき、現場は殺伐とした空気になっていく。しかし、ランキングが上位になるにつれ、辛口だった評価が絶賛へと変わっていく。
鈴木氏: 最下位も発表することで、上位の商品へ評価の信憑性が増して、上位になった商品がバカ売れしたんです。同時にこの企画も大ヒットしていきました。雑誌には掲載されているから、世の中の人にとっては斬新でもないんです。だけどそれまでテレビではやっていなかった。僕はなんで今まで無かったんだろうと思うものと時代性が合致したときにヒットが生まれると思っているんです。
- キリンビールがアルコールフリーのビールを出したのは2009年。飲酒運転の取り締まりが厳しくなり、世の中の空気が変わってきた時期だ。ペットボトル入りコーヒー人気の火付け役となったのが、2017年に発売されたサントリーの「ボス」シリーズ。それまでコーヒーと言えば缶だった。ミネラルウォーター市場は1989年から2017年までの29年間で30倍に拡大し、最近では白湯も売られるようになった。いずれも「なんで無いんだろう」と誰かが疑問に思って企画したものだったろうと語る。
鈴木氏: ペットボトルのコーヒーが無かった理由ってそんなに多くの量のコーヒーなんて飲まないだろうと思いこんでいたからだと思うんです。でも、スターバックスが流行り始めてコンビニでもLサイズのコーヒーが飛ぶように売れている。今となっては当たり前なんですけど、「なんで今まで無かったんだ」という発想が、企画を出す際に僕はすごく大事だと思っています。
Profile
鈴木 おさむ 氏
千葉県千倉町(現・南房総市)生まれ。19歳の時に放送作家になり、それから32年間、様々なコンテンツを生み出す。
2024年3月31日をもち放送作家・脚本業を引退し、現在は、To C向けファンド「スタートアップファクトリー」を立ち上げ、その代表を務める。