公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(以下、Bリーグ)は2015年に発足した。発足以降、毎年着実な成長を続けているが、島田慎二氏が2020年にチェアマンに就任して以来、さらなる急成長を遂げている。なぜ、Bリーグは世界的なパンデミックを乗り越えて成長できたのか、なぜファンを拡大し続けられるのか、その理由を島田氏に聞いた。
取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 取材/上野友香 Yuka Ueno
写真/西田周平 Shuhei Nishida
ラッキーパンチを期待しない 強靭な足腰を生み出す組織づくり
― 2016年秋に発足した日本の男子プロバスケットボールリーグ「Bリーグ」。発足直後の2016年~2017年シーズンに223万人だった来場者数は2024年~2025年シーズンでは485万人と約2倍の成長を遂げ、事業規模に至っては発足当初の約150億円から約770億円(2024年~2025年シーズン)を見込む規模にまで拡大している。この成長を牽引しているのが、現在チェアマンを務めている島田慎二氏だ。
しかし、その足取りは決して順風満帆なものではない。そもそも、島田氏がチェアマンに就任したのは2020年7月。まさにコロナ禍の真っ最中だった。
島田 慎二 氏 (以下 島田氏):Bリーグを運営していくにあたって、成長より前にまずは「倒れないこと」を考えました。私がチェアマンになった2020年はコロナ禍によるパンデミックで、夢を語るのもおこがましいような状況でしたから。
ただ、コロナ禍でなくとも、世の中で何が起こるか分からないなんてスポーツに限った話ではなく、どの産業でも当てはまる話です。なので、何があっても最低でも倒れない。あわよくば成長していく。その中で、ラッキーパンチが当たった場合にはありがたく頂戴しますが、そこに依存もしないというのが基本的なスタンスでした。
― まずはリーグの足腰を鍛えていく。地域と密接な信頼関係を築き上げ、追い風が吹かなくても安定した経営基盤を作っていく。そのことに島田氏は注力した。その思想は2026年シーズンから始まる新制度「B・革新」として結実する。現行の昇降格制度を廃止し、条件さえ満たせば最下位でも降格しない運営方法へと変更される。
島田氏 :昇降格制度は、選手に投資することで勝ち残り、そこを怠ると降格するという制度です。しかし、これでは地域とのリレーションシップを築いて「倒れない」経営はできないと考えました。選手の年俸が高騰して、勝ったチームはいいですが勝てないチームは降格してしまう。するとスポンサーもファンも離れてしまう。これは経営ではなく一種のギャンブルです。スポーツをギャンブルからビジネスに転換しなければならない、そう考えました。
― B.LEAGUE PREMIERと名付けられたトップリーグに昇格する主な条件は3つ。
①クラブの年間売上が12億円、②試合の平均入場者数が4000人、③アリーナ基準が5000席。上質なスポーツ・エンタテインメントをファンに提供するためには、経営基盤の安定が不可欠だという島田氏の発想が強く打ち出されている。
島田氏 : 我々は昇格したい、または降格したくないという熱量と同じぐらい、お客さんを入れる、ファンを増やす、地元の企業の支援を集めるといったことを大切にしないといけないんです。そういった努力をみんなで進めていった結果、「倒れない状態」を構築できました。かつ、日本代表が結果を出したり、映画「THE FIRST SLAM DUNK」などがヒットして追い風が吹けばさらに上にいける。リスクヘッジをしながら成長を続けられるよう状況を作れたのではないかと思います。
世界唯一の理論で作り上げた新しいプロリーグの「形」

― 一過性のブームはやがて終息してしまう。しかし、足腰のどっしり固まった組織は多少のトラブルが起こっても動じない。顧客満足を最優先に捉え、地域と密接な信頼関係を築き上げたところにBリーグの強みがある。この強みはBリーグ独自のもの。その発想はどこからきたのだろうか。
島田氏 :ベンチマークはしていないんです。理念から逆算したときにこれがいいのではないかという考えで進めていきました。日本社会においてバスケットボールのプロリーグに社会が存在価値を見出して、必要不可欠だと思ってもらえる、応援し続けてもらえるからこそ、事業としても生きていけるわけです。ならば、そういう状況を作るためには、最終的に日本社会にBリーグが必要だよねと言われるリーグになろうと考えました。
我々は全国41都道府県に55クラブあります。ならば、全国でアリーナとクラブによる盛り上がりで地域活性化に貢献していくことが大事であるという発想から『地域創生リーグになる』と宣言しました。
その際、地域でプレゼンスを発揮したり、アリーナを作ることになった場合、昇降格制度が維持されていたら、自治体が財政出動する際、何百億円も投資してもらったのに「降格してしまったので使わなくなりました」と言えないですよね。アリーナを全国に作ってバスケ界のプレゼンスをあげようとするのであれば、昇降格制度は構造的に合わないのでやめる。
また、そもそもお客さんが入っていないのであれば、市民権を得ていないのであれば、アリーナを作るという意思決定を自治体もできません。地域で盛り上がっていると感じてもらえる観戦者数ってどれくらいだろうと考えたとき、収容人数5000人のアリーナの8割、4000人が常時来場してくれる状態ならば、地域に一定の存在価値を見出していると言えるのではないか、だから4000人を昇格の条件にしようとか。
平均入場者数がそれくらいいっていれば、地元企業も応援してくれて売上も12億円くらいになる、だから12億円を基準にしよう、そういう感じで考えているんです。
Profile
島田 慎二 氏
1970年新潟県生まれ。日本大学卒業後、1992年株式会社マップインターナショナル(現・株式会社エイチアイエス)入社。1995年に退職後、法人向け海外旅行会社を起業。
2012年、プロバスケットボールbjリーグ(当時)に参加していた千葉ジェッツの運営会社ASPEの社長に就任。
2016年、Bリーグ発足と同時に理事に就任。翌年、Bリーグ副チェアマン就任。2020年7月から公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 理事長(チェアマン)に就任、現在に至る。
