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INNOVATORS
公開 2025.12.16

なぜBリーグは急成長できるのか?理念を打ち立て、逆算から決断する強靭な組織の「作り方」
Bリーグチェアマン 島田 慎二 氏 インタビュー(中編)

なぜBリーグは急成長できるのか? 理念を打ち立て、逆算から決断する強靭な組織の「作り方」 Bリーグチェアマン 島田 慎二 氏 インタビュー(中編)

公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(以下、Bリーグ)は2015年に発足した。発足以降、毎年着実な成長を続けているが、島田慎二氏が2020年にチェアマンに就任して以来、さらなる急成長を遂げている。なぜ、Bリーグは世界的なパンデミックを乗り越えて成長できたのか、なぜファンを拡大し続けられるのか、その理由を島田氏に聞いた。

取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 取材/上野友香 Yuka Ueno
写真/西田周平 Shuhei Nishida

理念があるから決められる 各論に惑わされない決断法

―  2024年6月、Bリーグは2050年に創りたい世界観を「感動立国」と名付けた長期的ビジョンにまとめて発表した。経営を推し進めていく、改革を進めていくに当たって、「理念は非常に重要」と島田氏は語る。

島田 慎二 氏 (以下 島田氏):ビジョンは最重要視しています。むしろそれしか無いんじゃないですかね。各論に目がいってしまうと、意思決定ができないんです。目指すべきゴール、理念が無ければ、こちらを立てればあちらが立たず、あの人が反対している、この人も反対しているのでやめておきましょうかといったことになってしまいがちなんですね。

枝葉よりも幹が大事。幹こそビジョンだと思うんです。幹さえしっかりしていれば、多少のことはいいじゃないかと。「いいじゃないか」と言える迫力がないと、物事なんて変えられないんですよ。みんなの目が各論に行きがちになると、総論賛成・各論反対といった状況になっていく。みんなをそういう議論に持っていかせないようにするためにも、しっかりとしたビジョンを打ち立てて、「ここに行くって言ったじゃないか」と指し示す。ここに行くのになんでそんなちまちまやっているの?とツッコめる状態は、物事を推進していくためには絶対必要なんです。

私はリーダーですので、「感動立国を作ろうって決めたよね」と。2050年、現在の赤ちゃんが25歳になったときにワクワクするような日本社会をBリーグが作るんだと。全国各地から生まれた点が線になり、面になり、感動立国を実現するんだとみんなで決めたじゃないか、なぜそんな細かい話をいましているの? と言わなければならないんです。そのためにも、各論にみんなの目が行ったときに立ち返るビジョンは絶対不可欠です。

―  大切なのは幹となるビジョン。各論のルールを決めていく際、それぞれの主張がぶつかり合い、ときに矛盾を生み出すことがある。さまざまな思惑や想いが交錯する中、「場合によっては矛盾していても良い」と決断を下す際、最終的にどこに向かっているのかを定めたビジョンが方向性を指し示してくれる。

島田 :これは当たり前の話なんです。たとえばBリーグには、①日本代表を強化することと、②全国の各クラブの経営力を向上し持続可能性を高めていくことと、③日本社会に貢献していくこと、この3原則があります。この3原則は、日本代表を立てれば、場合によってはクラブにとってはネガティブに働くかもしれないし、日本社会への貢献を優先すればクラブのビジネスにとっては一時的にはマイナスになることがあるかもしれないというように、その瞬間だけを切り取って見てみれば、相矛盾するようなことがあるんです。

でも、そんなのは大きな目で見てしまえば全部繋がっていることで、要は「論語と算盤」ですよ。正解も不正解も背中合わせなんですよね。不正解の中にも正解の要素があるというような禅問答のような世界観がある。

ですので、「感動立国」というゴールを示し、ここにみんなで進んでいくんだと旗を振り、同時に3原則も大事にすることも握ってしまえば、残りの各論はさまざまな観点があるけれども、全体から考えてみれば小さなこと。ルービックキューブのように、すべてが美しく、完璧に整う世界なんてありませんから(笑)。ここを目指していくんだよという 大前提がないと改革なんてとても進められないんですよ。

理念があるから進められる Bリーグは「ハブ」

島田 慎二 氏

― 現在、Bリーグのクラブを中心としたアリーナ建設ラッシュが始まっている。これも、バスケットボールによる地域創生という「理念」に基づいた発想だ。

島田氏 :単にバスケ界のためとかBリーグのために何百億も財政支出をしてくださいと言われても「ノー」ですよね。対少子化予算や子育て支援に回さなければならないお金があるのに、なんでバスケのためにと言ったところで、私だって絶対ノーです。あくまでもBリーグは単なる「ハブ」になっているだけなんです。我々は年間30試合しかやりませんから、残りの330日は他の用途で使えます。コンサートやイベントを誘致することで、地元の経済効果や若い人たちの地元に対するシビックプライドが高まったりする。それで、街が賑わっていく。災害などがあった場合には、避難所として市民、県民の皆さまの安全を守ることにもつながる。普段はVIPルームとして使う部屋も、災害時には女性や高齢者の方の個室として活用できる、そのように訴えてここまで来たんです。

地域でアリーナを建設していただいた結果、Bリーグはそのありがたい環境で試合をさせていただけるというのはもちろんありがたいことなのですが、大事なこと、ブレないことは、我々は「地域創生リーグ」と言っている点なんです。その街が、アリーナを基点にクラブが盛り上がり、その盛り上がりを通してホテルができたり、街が豊かになったり、賑わっていったりとかする、こういった発展が全国展開されていく状況を作るために進めています。点が線になって面になったときこそが、我々が定めた理念が成就するタイミングなんだと信じて進めています。

<後編に続きます>

<前編はこちら>

Profile

島田 慎二 氏

1970年新潟県生まれ。日本大学卒業後、1992年株式会社マップインターナショナル(現・株式会社エイチアイエス)入社。1995年に退職後、法人向け海外旅行会社を起業。
2012年、プロバスケットボールbjリーグ(当時)に参加していた千葉ジェッツの運営会社ASPEの社長に就任。
2016年、Bリーグ発足と同時に理事に就任。翌年、Bリーグ副チェアマン就任。2020年7月から公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 理事長(チェアマン)に就任、現在に至る。