公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(以下、Bリーグ)は2015年に発足した。発足以降、毎年着実な成長を続けているが、島田慎二氏が2020年にチェアマンに就任して以来、さらなる急成長を遂げている。なぜ、Bリーグは世界的なパンデミックを乗り越えて成長できたのか、なぜファンを拡大し続けられるのか、その理由を島田氏に聞いた。
取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 取材/上野友香 Yuka Ueno
写真/西田周平 Shuhei Nishida
利己では成功しない 与えるからこそ得られる真の「果実」
― 島田氏はこれまでバスケットボール一筋の人生を歩んできたわけではない。旅行会社やコンサルタント会社を経営していく中で、経営難に陥っていたバスケットボールクラブ・千葉ジェッツの再建を託された。結果、リーグトップの集客力を誇るチームへと生まれ変わらせ、その手腕を買われて現在のチェアマン就任へとつながっていく。
現在では「再生請負人」との異名も持つ島田氏だが、「失敗もたくさんしてきた」と語る。その失敗から見えてきた、経営哲学にはどのようなものがあるのだろうか。
島田 慎二 氏 (以下 島田氏): 利己と利他という考え方がありますよね。会社としては当然、利益を出さなければなりません。ならば、値上げをしたら顧客にとって利他ではなく利己なのかという話になると、先ほどの「論語と算盤」の議論のように、そこは各論なんですよね。でも、ギブ&テイクもそうですけど、やっぱりまずは自分が与えるというか捧げるからこそ、相手も信頼してくれて、そこからお仕事が生まれたりスムーズなお仕事ができて利益が生まれる。結果、従業員に還元したりできるんだと思うんです。回り回って、手間や時間が掛かるわけですよね。なので、利己になっていたらビジネスは成功しないんです。
利己ってバレるんですよ(笑)。いますよね、すぐに利益を獲得しようとする人。でも、もっと長い目で人と付き合わなきゃいけないし、ビジネスも長い目で考えなきゃいけないと思うんですよね。自分のことが中心になると結局それもバレてしまって、人はついてこない。人も離れるから、良い組織は作れない。この人と一緒に頑張ろうと思えないし、顧客であればこの人から物を買いたいとは思わない。
そういったところが回り回って、いろんなものの結果につながっていくことの源泉は、企業で言ったら理念でしょうし、個人で言えば人生観でしょうしね。自分が得ることばかりではなく、まずは最初に与える。こういうことの蓄積が大きな結果を出すための第一歩のような気がしますね。
― ひとりでは何もできない。応援してもらえなければ大きな仕事はできない。そのためには利己的であってはいけない。その考えに至るまで、失敗も繰り返してきた。
島田氏 :でも若いときにはこういう感覚もちろんありませんでした。私自身が「利己オブ利己」のような人物でした。社員が離れてしまったり、訴訟されたり、お金を持ち逃げされたり、20代の頃にたくさん苦労しているんですよ。その結果、これではいけないと気付いて改心したのが30代中盤くらい。最初からいい感じだったわけでもなんでもなく、むしろ強烈な「しくじり先生」ですよ(笑)。
― 2020年のチェアマン就任以降、急激な成長を遂げているBリーグ。新たに定めたビジョン「感動立国」達成に向けて、今後はどのように活動を続けていくのだろうか。
島田氏 : 明確に25年後にこのような世界観の日本社会に貢献すると定めましたので、定量的なゴールは無いんですよね。全国にアリーナとクラブがあり、メイン・コンテンツとしてバスケットボールが盛り上がりつつ、そのアリーナがあったおかげでさまざまなイベントが行われて盛り上がる。結果、街が賑わったり、飲食店が潤ったりして、人の波もできて活気があるような状況がたくさん生み出される。そこにいる子どもや若い人たちが、未来に明るい希望を持てるような状況になっているというのが理想なんです。そこに向けて一歩ずつ進めていくことが大事だと思っています。
理念達成に向けてアリーナが増える、体現しているクラブが増える、実際にコンサートやイベントもたくさん開催されて街が賑わう。こういったことが毎年少しずつ増えていく。そういうことだと思うんです。
加えて、日本代表の活躍などによってマスコミなどに取り上げられ、注目を集めるといった「ラッキーパンチ」のような出来事も発展の大きな一助になりますので、日本代表がどうすれば勝てるのかといったことも注力しながら、一つひとつBリーグのプレゼンスを高め続けることをやり続けるしかないと思います。
諦めなければ「負けていない」 問うべきは経営している理由

― 最後に、日々の企業経営に邁進する若手の経営者に、自身の経験から得たアドバイスを伺った。
島田氏 : これはもう釈迦に説法だと思うのですが、大概うまくいかないんです。うまくいく前提で考えないほうがいい。でも、やり続けている間は、諦めなければ、負けてはいないんですよね。ですから、やり続けていくということしかない。
私が若い頃から思っていたのは、良いときにこそ締める。厳しい状況になったら使う、そうしてきたんですよね。良いときにはみんな浮かれてしまいます。でも、厳しいときに耐えられなくなって破綻したりするんですよね。良いときというのは周囲もみんな良い状況であることが多いですから、投資価値が最大化されづらいんですね。たとえば広告費。景気が良いときには広告費も高騰しますので、高い広告成果を出そうと思ったら、大きな予算が必要になってしまいます。でも、景気が冷え込んでいるときであれば出稿も減るので安く広告を出せる。同じ金額を投資するにしても、良いときと悪いときとでお金の価値が変わるんです。私はそういう前提で考えて、良いときにこそ逆に締めて厳しいときに攻めるということをやってきました。
もうひとつ、どこかでちゃんと「なぜ自分は経営しているのか」を問うべきだと思うんですよね。企業理念とはそもそもなにかと言えば企業の存在価値です。存在価値というのは、この会社がなぜ、この世に生を成しているかを問うもの。ですので、自分たちの会社が理念に沿わない活動をしているのであれば存在する意味がないんです。ならば不要なので潰してもいい、極論かもしれませんがそうなりますよね。
だから、自分はいったいなにをしたくて、なにを大事にしているのかをいかにクリアにするかということが、辛い日々でも戦えるエネルギーになると思います。
― 島田氏のリーダーシップの元、明確な理念を打ち立て、一歩ずつ歩みを進めていくBリーグ。25年後の「感動立国」実現に向けて、これからもチャレンジを続けていく。
