2024.03.26BusinessTopics

株主割当による募集株式の発行等の手続きの進め方は?手続きとスケジュールを弁護士が解説

会社法

募集株式の発行等の手続きには、株主割当てによるものと、株主割当て以外によるものの2つのパターンがあります。

このうち、株主割当てによる募集株式の発行等とはどのようなケースを指すのでしょうか?
また、株主割当てによる募集株式の発行等の手続きはどのように進めればよいでしょうか?

今回は、株主割当てによる募集株式の発行等の概要や手続きスケジュールの例について弁護士が詳しく解説します。

目次
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募集株式の発行等とは

募集株式の発行等とは、どのような手続きを指すのでしょうか?
募集株式の発行等をするために会社において必要となる手続きや手続きを進めるスケジュールを解説する前に、募集株式の発行等の概要について解説します。

募集株式の発行等の概要

「募集株式の発行等」とは、会社が新たに株式を発行したり自己株式を処分したりするにあたって、新株や自己株式の引受人を募集する手続きです。
会社法では新株発行と自己株式の処分とを特に区別しておらず、両者をまとめて「募集株式の発行等」と呼んでいます。
また、両者は変更登記の要否以外に、手続きやスケジュールにおいてもほとんど差はありません。

募集株式の発行等には2種類がある

募集株式の発行等には、「株主割当てによるもの」と「株主割当て以外によるもの」の2つの種類があります。
それぞれの概要について解説します。

株主割当てによるもの

株主割当てによる募集株式の発行等とは、会社の既存の株主に対して株式を割り当てる権利を与える方法です。
この場合は、既存の株主が株式の引受人となることができます。

株主割当て以外によるもの

株主割当て以外による募集株式の発行等とは、既存株主に対して株式引き受けの権利を与えない方法です。
株主割当て以外による募集株式の発行等は、さらに「第三者割当て」と「公募」とに区分されます。

第三者割当てとは、特定の第三者に限定して募集株式の申込みの勧誘や株式の割当てを行う方法です。
一方、公募とは、不特定多数の者に対して株式引き受けの勧誘をするものを指します。
ただし、第三者割当てと公募とを会社法は区分しておらず、いずれに該当するかによって会社法上の手続きに違いはありません。

株主割当てによる募集株式発行等のスケジュール例

募集株式の発行等は、どのようなスケジュールで進めればよいのでしょうか?
ここでは、取締役会設置会社である公開会社が、株主割当ての方法によって募集株式の発行等をする場合におけるスケジュールの一例を紹介します。

日程 手続
10/1 募集事項の決定(取締役会決議)
同日 有価証券届出書の提出(金融商品取引法上必要な場合)
同日 適時開示(上場会社の場合)
同日 保振機構への通知
10/13 基準日公告
10/17 届出の効力発生
10/28 基準日
10/29 株主への募集事項等の通知
目論見書の交付(金融商品取引法上必要な場合)
申込みをしようとするものへの通知(目論見書を交付等している場合は不要)
11/15 申込期日(申込み)
11/17 払込期間(又は払込期間の初日)
同上(又は払込期間の末日)
11/30 変更の登記

ただし、実際に必要となる手続きや手続きのスケジュールは、その会社が公開会社であるか否かのほか、会社が株式等振替制度を利用しているか否か、定款の規定はどのようになっているのか、その募集株式発行等が金商法上の有価証券の募集にあたるかどうかなど、さまざまな事情によって異なります。

そのため、実際に株主割当てによる募集株式発行等の手続きを行おうとする際は、機関法務に詳しい弁護士のサポートを受けてそのケースにおいて必要である手続きを洗い出し、スケジュールを組み立てることよいでしょう。

募集事項等の決定

会社が株主割当てによる株主割当てによる募集株式発行等を行う際は、次の事項を定めなければなりません(会社法199条1項、202条1項、202条3項3号)。

  1. 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類と数)
  2. 募集株式の払込金額またはその算定方法
  3. 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びにその財産の内容及び価額
  4. 募集株式と引換えにする金銭の払込みまたは「3」の財産の給付期日(「払込期日」といいます。)またはその期間(「払込期間」といいます。)
  5. 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
  6. 株主に対し、募集株式の引受けの申込みをすることにより募集株式(種類株式発行会社にあっては、その株主の有する種類の株式と同一の種類のもの)の割当てを受ける権利を与える旨
  7. 申込期日

なお、このうち「1から5」の事項を「募集事項」といい、これに「6」と「7」の項目を合わせたものを「募集事項等」といいます。

公開会社である場合、募集事項等の決定は取締役会によって行います(会社法202条3項3号)。
なお、実務上はこの募集事項等の決定と併せて、基準日を決めることが一般的です。

基準日とは、いつ時点での株主が株主割当てを受ける権利を有するのかについて、会社が定める一定の日です。
この基準日時点における株主が、株主割当てを受ける権利を得ることとなります。

有価証券届出書の提出等

上場会社が株主割当てによる募集株式発行等を行うには、金融商品取引法(以下「金商法」といいます)によって定められた手続きも必要です。
このステップでは、主に次の手続きが必要となります。

  • 有価証券届出書の提出
  • 発行登録追補書類の提出
  • 有価証券通知書の提出
  • 目論見書の作成と交付

有価証券届出書の提出

募集株式の引受人の募集が金商法2条3項で定められた「有価証券の募集」にあたる場合は、原則として基準日の25日前までに内閣総理大臣(財務局長等)に対して有価証券届出書を提出しなければなりません(金商法4条4項)。
また、この提出をEDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)を通して行った場合以外には、提出した有価証券届出書の写しを証券取引所に提出することも必要です(金商法6条1項、金商法27条の30の6)。

なお、金商法上の「有価証券の募集」とは、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘のうち、次の要件をいずれも満たすものを指します(金商法2条3項、金商法施行令1条の5)。

  • 多数の者(50名以上)を相手方として行うこと
  • 勧誘対象者が適格機関投資家や特定投資家のみに限定されていないこと

発行登録追補書類の提出

発行登録制度の利用適格要件を満たす者が、発行予定額と発行予定期間などを記した発行登録書を内閣総理大臣(財務局長など)に対して提出し、提出後15日(一定の場合は提出後おおむね7日)が経過して発行登録の効力が生じている場合は、有価証券報告書の提出は不要です。
ただし、この場合は募集ごとに発行条件等を記載した発行登録追完書類を提出しなければなりません(金商法23条の3、23条の8)

有価証券通知書の提出

有価証券届出書の届け出義務がない場合であっても、「特定募集等」に該当する場合は、内閣総理大臣(財務局長等)に対して特定募集等の開始がされる前に有価証券通知書を提出しなければなりません(金商法4条6項、企業開示府令4条)。
「特定募集等」とは、次のものなどを指します。

  • 開示が行われている有価証券の売出で、売出価格の総額が1億円以上であるもの
  • 内閣府令で定める一定額を超える募集であるもの

目論見書の作成と交付

有価証券届出書を提出すべき場合には、目論見書を作成しなければなりません(金商法13条1項、2項)。
そのうえで、募集によって募集株式を取得させるのと同時か、またはこれよりも前に、目論見書を交付するか電磁的方法によって提供することが必要です(金商法15条2項、27条の30の9)。

また、発行登録制度を理由する場合であっても、発行登録追補目論見書を作成してこれを交付等しなければなりません(金商法23条の12第2項、13条1項)

適時開示

上場会社が募集事項等の決定をした際は、直ちにその内容を開示しなければなりません(上場規程402条1号a)。
併せて、証券取引所に所定の書類を提出することも必要です(同421条、上場規程施行規則417条1項)。

保振機構への通知

上場会社の場合、株式等振替制度を利用していることが一般的です。
この場合には、募集事項等を決定した後、速やかにその内容を証券保管振替機構(略称「ほふり」)に対して通知しなければなりません(株式等の振替に関する業務規程12条1項、株式等の振替に関する業務規程施行規則6条・別表1.1(1))。

また、基準日を定めた場合は速やかに、かつその基準日の2週間前までに、その内容を保振機構に通知することが必要です(社債、株式等の振替に関する法律151条7項、社債、株式等の振替に関する命令23条、株式等の振替に関する業務規程12条1項、株式等の振替に関する業務規程施行規則6条・別表1.1(17))。

基準日公告

基準日を設定した場合は、その基準日の2週間前までに、基準日公告をしなければなりません(会社法124条2項、3項)。
基準日公告では、次の事項を公告します。

  • 基準日
  • 募集株式の引受けの申込みをすることで、基準日時点の株主に対して募集株式の割当てを受ける権利を与える旨

募集事項その他の項目の株主への通知

会社は、募集事項等を定めた場合、株主に対して申込期日の2週間前までに次の事項を通知しなければなりません(会社法202条4項)。

  1. 募集事項
  2. その株主が割当てを受ける募集株式の数
  3. 申込期日

なお、株主割当てによる募集株式発行等は、株主にとって期限付きの権利です。
所定の申込期日までに申込みをしなかった株主は、募集株式の割当てを受ける権利を失います(会社法204条4項)。

申込みしようとする者への通知

会社は、募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対して、次の事項を通知しなければならないとされています(会社法203条1項、会社法施行規則41条)。
ただし、会社が金商法に規定された目論見書を交付(または電磁的記録により提供)している場合など一定の場合には、この通知は必要ありません(会社203条4項)。

  1. 会社の商号
  2. 募集事項
  3. 金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
  4. 発行可能株式総数(種類株式発行会社の場合は、各種類の株式の発行可能種類株式総数を含む)
  5. 株式会社(種類株式発行会社を除く)が発行する株式の内容として法第107条第1項各号に掲げる事項(株式の譲渡制限、取得請求権、取得条項)を定めているときは、その株式の内容
  6. 会社が種類株式発行会社であり、法第108条第1項各号に掲げる事項(剰余金の分配や議決権行使など)について内容の異なる株式を発行することとしているときは、各種類の株式の内容など
  7. 単元株式数についての定款の定めがあるときは、その単元株式数(種類株式発行会社である場合は、各種類の株式の単元株式数)
  8. 次の定款の定めがある場合は、その内容
    • 譲渡承認機関、指定買取人の指定、会社が譲渡を承認したとみなされる場合の期間短縮(会社法145条1号、2号、会社法施行規則26条1号、2号)
    • 特定の株主からの取得について売主追加請求権を排除する旨(会社法164条1項)
    • 取得請求権付株式の対価として交付する他の株式の数に端数が生じたときの交付金額(会社法167条3項)
    • 取得条項付株式の取得日または一部取得の決定機関(会社法168条1項、169条2項)
    • 相続人等への売渡請求(会社法174条)
    • 役員選任権付種類株式発行会社における取締役や監査役の選任手続(会社法347条)
  9. 株主名簿管理人を置く旨の定款の定めがあるときは、その氏名または名称、住所及び営業所
  10. 電子提供措置をとる旨の定款の定めがあるときは、その規定
  11. 定款に定められた事項のうち、その他株式会社に対して募集株式の引受けの申込みをしようとする者が当該者に対して通知することを請求した事項

なお、実務上はこれらの事項と併せて、申込期間(募集期間)を通知することが一般的です。
この通知をしてから通知した事項に変更が生じた場合には、会社は直ちにその変更内容を募集株式の引受けの申込みをした者(「申込者」といいます)に対して通知しなければなりません。

申込み

募集株式の引受けの申込みをする者は、申込期日までに、次の事項を記載した書面を株式会社に対して交付しなければなりません(会社法203条2項)。

  1. 申込みを希望する者の氏名または名称及び住所
  2. 引き受けようとする募集株式の数

なお、実務上は、募集株式の引受けの申込みにあたって、申込みをする者に対し、払込金額と同額の申込証拠金を添えて申し込むよう求めることが一般的です。
この申込証拠金は、払込期日において株式の払込金額に充当されます。

払込期日または払込期間

募集株式の引受人は、所定の払込期日または払込期間内に、株式会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、それぞれの募集株式の払込金額の全額を払い込まなければなりません(会社法208条1項)。
この払込期日または払込期間内に出資の履行をしなかった場合は、出資を履行して募集株式の株主となる権利を失います(会社法208条5項)。

一方、払込期日または払込期間内に出資を履行すると、出資を履行した者は次の日において募集株式の株式となります(会社法209条1項)。

  • 会社が払込期日を定めた場合:その払込期日
  • 会社が払込期間を定めた場合:出資を履行した日

変更登記

新株発行により募集株式の発行等をする場合、募集株式発行の効力が生じると、資本金の額と発行済み株式総数、種類、種類ごとの数などに変更が生じます。
これらはいずれも登記事項であり、変更が生じた場合には、変更日から2週間以内に本店所在地において変更登記をしなければなりません(会社法915条1項)。

なお、会社が払込期間を定めた場合における変更登記は、その定めた期間の末日から2週間以内に行えば足ります(会社法915条2項)。
変更登記の期限は短いため、変更が生じたらすみやかに申請することができるようあらかじめ可能な準備を行っておくとよいでしょう。

また、自己株式の処分による場合は新たに株式を発行する場合とは異なり、資本金の額や発行済み株式総数などに変更が生じるわけではありません。
そのため、自己株式の処分によって募集株式の発行等をする場合には、原則として変更登記は不要です。

まとめ

募集株式の発行等の概要を解説するとともに、株主割当ての方法によって募集株式の発行等を行う際に必要となる手続きやスケジュールを紹介しました。

取締役設置会社である公開会社が株主割当てにより募集株式の発行等を行うには、取締役会による募集事項等の決定や金商法の規定による有価証券届出書の提出等、基準日公告や株主への募集事項等の通知など、さまざまな手続きが必要となります。
特に、基準日公告は基準日の2週間前までに行う必要があるほか、株主への募集事項等の通知は申込期日の2週間前までに行う必要があるなど、一定の期限があるものに注意が必要です。

また、今回紹介したものは取締役設置会社である公開会社が株主割当てにより募集株式の発行等を行う前提におけるスケジュールの一例であり、実際の手続きやスケジュールは公開会社であるかどうかや、その募集等が金商法上の「有価証券の募集」にあたるかどうかなどによって大きく変動する点にも注意しなければなりません。

募集株式の発行等の手続きやスケジュールに不備があると、大きなトラブルに発展するおそれがあります。
そのため、実際に会社が株主割当ての方法による募集株式の発行等を行う際は、機関法務に詳しい弁護士のサポートを受けて、慎重にスケジュールを設定するようにしてください。

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記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

山口 広輔

(第二東京弁護士会)

第二東京弁護士会所属。明治大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。健全な企業活動の維持には法的知識を活用したリスクマネジメントが重要であり、それこそが働く人たちの生活を守ることに繋がるとの考えから、特に企業法務に注力。常にスピード感をもって案件に対応することを心がけている。

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