2024年11月1日から、フリーランスの方々を保護するための「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(以下「フリーランス新法」といいます。)が施行されます。この法律はどのようなものなのか、また、フリーランスにお仕事を発注している個人・企業はどのような対策を講じる必要があるのか、弁護士がわかりやすく解説します。
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フリーランス新法ってどんな法律?
2024年11月1日に施行される「フリーランス新法」とはどのような法律なのでしょうか?
昨今、働き方が多様化し、フリーランスの方も増加しています。それに伴い、フリーランスの方が発注先とトラブルになることも増加しています。フリーランス新法を立法した背景には、このようなトラブルが起きても、当事者間できちんと解決することができず、フリーランスが泣き寝入りせざるを得なかったという状況も関係しています。
総務省統計局が2023年9月に公表した調査結果(令和4年就業構造基本調査)によると、日本のフリーランスの人数はおよそ209万人。
また、日本労働組合総連合会が2023年1月に公表した「フリーランスの契約に関する調査2023」によると、「仕事上でトラブルを経験したことがある」との回答が46.1%に上ります。
単純計算でおよそ100万人弱のフリーランスの方々がなんらかの法的トラブルに見舞われているにも関わらず、泣き寝入りせざるを得ないケースも多く見られました。
フリーランス新法は、このような状況を是正するため、「取引の適正化」と、フリーランスの方の「就業環境の整備」を目的として制定されました。
フリーランス新法に違反した場合の罰則等も整備されており、フリーランスの方々をしっかりと保護していこうという意志が感じられます。
では、フリーランス新法とはどのような法律なのでしょうか。
具体的に、次の7つの項目が定められました。
- 書面などによる取引条件の明示
- 報酬支払期日の設定・期日内の支払い
- 7つの禁止行為
- 募集情報の的確表示
- 育児介護等と業務の両立に対する配慮
- ハラスメント対策に関する体制整備
- 中途解除等の事前予告・理由開示
フリーランス新法で定められた7つの項目
1.
書面などによる取引条件の明示
フリーランスに対して業務委託をした場合、直ちに書面または電磁的方法(メール、SNSのメッセージ等)で取引条件を明示する義務があります。
明示方法は、書面または電磁的方法かを発注事業者が選ぶことができます。口頭での明示は認められていません。
ただし、電磁的方法で明示した場合であっても、フリーランスから書面の交付を求められたときは、フリーランスの保護に支障を生じない場合を除き、書面を交付しなければなりません。
取引条件として明示する事項は次の8項目です。
- 給付の内容(フリーランスにお願いする業務の内容)
- 報酬の額及び支払い期日
- 業務委託事業者・フリーランスの名称
- 業務委託をした日
- 給付を受領または役務の提供を受ける日
- 給付を受領または役務の提供を受ける場所
- (給付の内容について検査をする場合)検査を完了する期日
- (現金以外の方法で報酬を支払う場合)報酬の支払方法に関して必要な事項
2.
報酬支払期日の設定・期日内の支払い
報酬の支払期日は、発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内の「できる限り短い期間内」で定め、期日までに支払わなければなりません。
ただし、元委託者から受けた業務を発注事業者がフリーランスに再委託をした場合、条件を満たせば、元委託業務の支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めることができる「再委託の場合における支払期日の例外」もあります。
3.
7つの禁止行為
フリーランスに対して1か月以上の業務を委託した場合、次の7つの行為が禁止されています。
これらについては、たとえフリーランスの了解を得たり、合意していても、また、発注事業者に違法性の意識がなくても、これらの行為は法律に違反することになるので注意が必要です。
- 受領拒否(フリーランスに責任がないのに、委託した物品や情報成果物の受領を拒むこと)
- 報酬の減額(フリーランスに責任がないのに、あらかじめ定めた報酬を後から減らして支払うこと)
- 返品(フリーランスに責任がないのに、受け取った物品や情報成果物を返品すること)
- 買いたたき(類似品等の価格または市価に比べて、著しく低い報酬の額を定めること)
- 購入・利用強制(正当な理由がないのに、指定する物や役務を強制的に購入・利用させること)
- 不当な経済上の利益の提供要請(金銭、労務の提供等をさせ、フリーランスの利益を不当に害すること)
- 不当な給付内容の変更・やり直し(フリーランスに責任がないのに、費用を負担せずに注文内容を変更させたり、受領後にやり直しをさせ、フリーランスの利益を不当に害すること)
4.
募集情報の的確表示
広告などを使って、フリーランスを募集する際には、その情報について、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはいけません。また、募集情報を正確かつ最新の内容に保たなければなりません。
5.
育児介護等と業務の両立に対する配慮
フリーランスの方に6か月以上の業務を委託している場合、フリーランスからの申出に応じて、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければなりません。
また、6か月未満の業務を委託している場合も配慮するよう努めなければなりません。
配慮の例としては、
- 「妊婦健診がある日について、打ち合わせの時間を調整したり、就業時間を短縮したりする」
- 「育児や介護などのため、オンラインで業務を行うことができるようにする」
といった対応が挙げられます。
6.
ハラスメント対策に関する体制整備
ハラスメントによりフリーランスの就業環境が害されることがないよう、相談対応のための体制整備などの必要な措置を講じる必要があります。また、フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったことなどを理由として不利益な取扱いをしてはなりません。
体制整備などの必要な措置の例としては、
- 「従業員に対してハラスメント防止のための研修を行う」
- 「ハラスメントに関する相談の担当者や相談対応制度を設けたり、外部の機関に相談への対応を委託する」
- 「ハラスメントが発生した場合には、迅速かつ正確に事実関係を把握する」
などの対応が挙げられます。
7.
中途解除等の事前予告・理由開示
フリーランスに対して6か月以上の業務を委託している場合で、その業務委託に関する契約を解除する場合や更新しない場合、例外事由に該当する場合を除いて、解除日または契約満了日から30日前までに、
- 書面
- ファクシミリ
- 電子メール等による方法
でその旨を予告しなければなりません。
また、予告がされた日から契約が満了するまでの間に、フリーランスが解除の理由を請求した場合、同様の方法により遅滞なく開示しなければなりません。
これら1〜7の項目については、発注事業者や業務委託の期間によって、守るべき義務の内容が異なります。
詳細は、公正取引委員会が作成した「フリーランス新法」の公式ホームページでご確認ください。
企業に求められる対策
フリーランスの方々に業務委託をしている企業は、フリーランス新法を受けて社内でどのような対策を講じる必要があるのでしょうか。
現在、業務委託をしている相手方が、フリーランス新法の適用対象になるかの洗い出す必要があるでしょう。
次に、フリーランスの方々と現在結んでいる契約の洗い出しです。フリーランス新法は基本的には11月1日以降の新規契約が対象になります。一方で、11月1日をまたいで契約の更新をする場合には、フリーランス新法に抵触している部分がある場合、更新後の契約についてフリーランス新法を遵守した新しい契約書を作り直さなければいけません。
また、前記の5.育児介護等と業務の両立に対する配慮や6.ハラスメント対策に関する体制整備に関して、社内でどのように対応するのかルール作りを行ったうえで、社内規定やマニュアルを整備する必要もあるでしょう。
フリーランス新法が施行されることによって、企業の法務部や総務部の方々の業務負担が増加する場合も想定されます。
自社内でどのような対策を講じる必要があるのか、どのような社内体制を構築する必要があるのかなど、不明な点や疑問点がある場合は、早急にフリーランス新法に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
施行後、知らぬ間に法律違反を起こし罰則を課せられるといったトラブルを未然に防ぐためにも、まずは一度、法律事務所にご相談ください。
記事監修者
三津谷 周平
(大阪弁護士会)同志社大学法学部法律学科卒業、立命館大学法科大学院修了。離婚、相続問題を中心に、一般民事から企業法務まで幅広い分野を取り扱う。なかでも遺産分割協議や遺言書作成などの相続案件を得意とする。
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