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INNOVATORS
公開 2026.08.24

建築家から「ちょい悪オヤジ」、そして米づくりへ
姿を変えても揺るがない
唯一無二の「ジローラモ」という生き方
タレント・実業家 パンツェッタ・ジローラモ氏 インタビュー(後編)

パンツェッタ・ジローラモ氏

近年、有機米づくり「GIRO米プロジェクト」を通じて地方創生に情熱を注ぐジローラモ氏。タレントとして名を成した人物が、なぜ一次産業に踏み込むのか。その原動力と、次世代の経営者へ託すメッセージを聞いた。

取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 写真/西田周平 Shuhei Nishida

「お米」で地方を変える
ジローラモ流・地方創生への挑戦

いまジローラモ氏がもっとも情熱を注ぐのが、有機米づくり「GIRO米プロジェクト」だ。タレントとして名を成した人物が、なぜ泥にまみれる一次産業へ踏み込むのか。その原動力の源をたどると、出発点には苦い経験があった。

「以前、レストランをやったことがあります。誰も来なくて失敗したんじゃない。お客さんが来ても赤字になってしまいました。雇った人にお金を盗まれたこともある。人間の汚いところを見てしまって、心が痛かった。それでもまた、違う挑戦をしようと思ったんです。」

試行錯誤の末にたどり着いたのが、米だった。きっかけは、義理の父の故郷である福島県会津美里町。久しぶりに訪れたその土地で、ジローラモ氏は荒れた田んぼと、放置された空き家を目にする。寂れていく地域の風景を、見過ごすことができなかった。

「義理のいとこが、17代も続く農家をやっていました。でも、跡を継ぐ人がいない。もったいないなと思って、それなら僕らがやろうと。子どもの頃から、お米が好きだったしね。」

選んだのは、JAS認証の有機米。強い農薬に頼らない米づくりは、本人いわく「かなりの挑戦」だったという。手をかけた分だけ、作物は正直に応える。そこで思い知ったのが、「愛情」という、数字には表れない力だった。

「有機米は弱いんです。強い農薬を使えないから、ずっと心を込めて世話をしないと、良いものができない。同じ場所で作っても、愛情を込める人と込めない人とでは、できる米が全然違う。水とお米と日本酒は、全部つながっていますよね。作る人の気持ちが、そのまま味に出てしまうんです。」

愛情が物を変える。その確信を、ジローラモ氏は母の姿に重ねる。

「僕の母は、イタリアで言う『緑の指』の持ち主でね。枯れかけた植物も、元気にしてしまうんです。兄が同じように真似をしても、ほとんど枯れてしまう。やっぱり、愛情があるかないか、なんですよ。」

手をかけ、心を込める。言葉にすれば当たり前のその一事が、いちばん難しい。だからこそジローラモ氏は、自分の名前で売ることをよしとしない。タレントの看板ではなく、現場に立つ一人の作り手であろうとする。

「名前も多少は影響しますが、僕は名前でやっているわけじゃない。現場で畑に入って、一緒に汗をかく。それをやらない人は信用できません。きれいなところだけで格好をつけようとする人もいますが、そういう人は縁を切るしかない。寂しいけれど、いま、その山を越えようとしているところです。」

泥にまみれる一方で、売る力も侮らない。彼の美意識は、ブランディングにも生きている。

パンツェッタ・ジローラモ 氏

「ちゃんとブランディングをすれば物は売れます。インスタライブをやったら、一度に100キロ売れたこともあります。ただ通信販売で淡々と売るだけではつまらないでしょう。いい服も、着て歩くからきれいに見える。それと同じです。」

構想は、米だけにとどまらない。使われなくなった蔵や病院を、建築修復の知見を生かして民泊に再生する。田んぼオーナー制度や体験イベントで、作り手と食べ手を直接つなぐ。活動の場は、会津美里から淡路島、羽咋へと、すでに全国へ広がりつつある。その視線の先にあるのは、一人の米づくりを超えた、日本の未来だ。

「みんなITに頼って、土を触ることを忘れてしまっています。でも、人間は食べ物がないと生きていけません。だからこそ、農業はこの先、価値の高い仕事になると思うんです。世界では、大金持ちたちが日本の水源や農地を静かに買い集めています。この国の水も土も、全部宝物なんですよ。僕たちは土から生まれて、土に還っていく。お金も大事だけど、それだけじゃない。元々あるものを大事にしたいんです。」

この壮大な構想を、ジローラモ氏は一人で抱え込むつもりはない。むしろ、巻き込む相手を探している。

「いろんな人の協力があればあるほど、もっと大きなことができます。たとえば最近、友人が映画づくりで5億円を集めました。出資した人は、作品がヒットすれば見返りを得られます。お米のオーナー制度も、ただ買うだけじゃなく、そんな仕組みにしたい。ぜひ一緒に汗をかいてほしいんです。」

全国には、「親が農家だが、自分は継げない」という人が数えきれないほどいる。ジローラモ氏は、そんな人たちの受け皿になろうとしている。動きの鈍い行政を待ってはいられない、という思いも強い。

「やりたい気持ちがあるなら、その人ができるようになるまで、僕たちが畑を守ればいい。そういう人が、本当にあちこちにいるんですよ。行政の動きは鈍いですが、僕たちは現場にいるから早いんです。そこをバックアップしてもらえたら、もっとすごいことができるはずです。」

外国人である自分が、日本の土地を守る。その逆説に、てらいはない。むしろ経営者にこそ、と呼びかける。

「このプロジェクトは、日本のためのものです。経営者の皆さんにも、お金だけじゃなく、からね。」

最後に、次世代のリーダーへ言葉を求めると、答えはいたってシンプルだった。

「新しいことをやるのは楽しいですよ。人生はやるしかない。その道を歩くと決めたら、まっすぐ、前へ進むだけです。」

邪魔になるものは避ける。後ろは振り返らない。63歳を迎えたいまも、パンツェッタ・ジローラモという生き方は、常に前を向いている。

<前編はこちら>

<中編はこちら>

Profile

パンツェッタ・ジローラモ 氏

1962年9月6日、イタリア・ナポリ生まれ。建築一家に育ち、ナポリで建築を学んだのち、政府の依頼で歴史的建造物の修復に携わる。1988年に来日し、NHKイタリア語会話の講師としてデビュー。多数のテレビ番組で人気を集め、雑誌『LEON』の表紙モデルとして「ちょい悪オヤジ」ブームの象徴となった。2014年、「連続して最も多くファッション誌の表紙を飾った男性モデル」としてギネス世界記録に認定。(現在継続中)近年は有機米づくり「GIRO米プロジェクト」を通じて、地方創生にも取り組んでいる。曲、イベント企画、プロデュースなど多方面にわたって活動を続けている。