金銭の貸し借りをする際は、金銭消費貸借契約書を取り交わすことが基本です。
金銭消費貸借契約書は、どのように作成すればよいのでしょうか?
また、どのような項目を記載し、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
今回は、金銭消費貸借契約書の作成方法や記載項目、雛形のダウンロード方法などについて弁護士が詳しく解説します。
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金銭消費貸借とは?目的は?
金銭消費貸借契約書とは、金銭の消費貸借を目的とする契約書です。
金銭の消費貸借とは、いわゆる「お金の貸し借り」のことです。
賃貸借契約では、貸したものをそのまま返却してもらいます。
一方で、金銭消費貸借では貸したものとまったく同じもの(お金を貸す際に渡したその1万円札)を返してもらうのではなく、借りた額と同じ額の金銭(違う1万円札でも構わない)を返してもらうこととなるでしょう。
これが、賃貸借とは異なる消費貸借の特徴です。
一般的な金銭消費貸借
一般的な金銭消費貸借契約は、「当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる」とされています(民法587条)。
こちらは、「金銭その他の物を受け取ることによって」効力が生ずるとされている一方で、書面の作成は契約成立の要件とはされていません。
つまり、契約の成立要件として、貸主(金銭を貸す人)が借主(金銭を借りる人)にお金を引き渡すことが必要となります。
このような契約を「要物契約」といいます。
ただし、この場合であっても後のトラブルを避けるため、契約書を取り交わしておくことをおすすめします。
書面でする金銭消費貸借
書面でする金銭消費貸借契約書は、2020年4月施行の民法改正で新たに誕生したものです。
先ほど解説した一般的な金銭消費貸借は、要物契約とされています。
しかし、友人同士や親族間などでの少額の貸し借りであればともかく、金融機関から受ける融資やローンの契約など企業間での消費貸借や大口の消費貸借は契約当日に金銭を受け取るのではなく、あらかじめ契約書を取り交わしその後あらかじめ取り決めた日において融資が実行されることが一般的です。
そのため、民法の規定を厳格に解釈すれば「契約書を取り交わしてから実際に金銭を受け取るまでの間」は金銭消費貸借契約が成立していないこととなり、これが問題とされていました。
そこで、改正によって新たに誕生したのが、書面でする金銭消費貸借です。
書面でする金銭消費貸借は、契約を書面またはや電磁的記録で取り交わすことで、「当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる」とされています(同587条の2)。
つまり、書面または電磁的記録によって契約を締結する場合は、金銭消費貸借契約が要物契約ではなく、当事者の合意によって契約が成立する「諾成契約」となります。
これにより、法律の規定が「あらかじめ契約書を取り交わし、後日融資が実行される」との実務に即すこととなりました。
なお、書面による金銭消費貸借では、借主は貸主から金銭を受け取るまでの間は契約の解除をすることができるものの、これにより貸主が損害をこうむったときは借主への損害賠償請求が可能であるとされている点に注意しなければなりません(同2項)。
また、金銭の交付前に当事者のいずれかが破産手続開始の決定を受けたときは、効力を失います(同3項)。
金銭消費貸借契約書の作成方法
金銭消費貸借契約書は、どのように作成すればよいのでしょうか?
ここでは、金銭消費貸借契約書を作成する一般的な流れについて解説します。
- 契約内容について取り決める
- 貸主がたたき台を作成する
- 契約書に署名押印する
契約内容について取り決める
はじめに、契約内容の概要について当事者間で取り決めを行います。
この時点で最低限取り決めておくべき項目は次のものなどです。
- 対象となる金額
- 金銭を交付する時期
- 利息の計算方法
- 返済時期と返済方法
- 保証人や担保の有無
これらの事項が定まっていないと、たたき台を作成することが困難であるためです。
貸主がたたき台を作成する
次に、たたき台を作成します。
金銭消費貸借契約書のたたき台は当事者のうちどちらが作成しても構いませんが、貸主側が作成することが一般的です。
契約書に署名押印する
たたき台が作成できたら、これを借主側に提示し内容の確認を求めます。
内容について双方が合意したら、貸主と借主がともに金銭消費貸借契約書に署名や押印をします。
当事者が法人である場合などは署名を省き、記名押印とすることもあります。
金銭消費貸借契約書の主な記載事項と注意点
金銭消費貸借契約書には、どのような事項を記載する必要があるのでしょうか?
ここでは、金銭消費貸借契約書の一般的な記載事項と注意点について解説します。
- 金銭消費貸借について合意した旨
- 対象となる金額
- 返済期日と返済方法
- 利息の計算方法
- 遅延損害金
- 期限の利益喪失
- 連帯保証
個別事情に即した金銭消費貸借契約書の作成をご希望の際は、Authense法律事務所までご相談ください。
金銭消費貸借について合意した旨
金銭消費貸借契約書には、双方が金銭消費貸借について合意した旨を記載します。
なぜなら、先ほど紹介した金銭消費貸借契約について定めた民法の条文において、「当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約す」ことが契約成立の要件とされているためです。
そこで、契約書では双方がこれらについて合意したことを明確にする記載を入れます。
対象となる金額
金銭消費貸借契約書には、その対象となる金額を明記します。
つまり、貸主が借主に対して「いくら」を貸すのかという金額です。
併せて、この金銭を貸主から借主に交付する日も具体的に記載しましょう。
たとえば、「AはBに対し、令和〇年〇月〇日に金〇〇〇〇円を貸し付け、Bはこれを借り受ける」などの記載となります。
返済期日と返済方法
金銭消費貸借契約では、返済日や返済方法について記載します。
返済日はある日付までに一括返済をすべきとすることもあれば、分割返済とすることもあります。
返済方法は現金の持参とするケースもあるものの、指定口座への振り込みとすることが多いでしょう。
なお、民法では「借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができる」旨の定めがあり、期限より早く返済することには何ら問題がありません(同591条2項)。
しかし、貸主としては所定の期限まで借りてもらうことで、利息を受け取りたいこともあるでしょう。
期限前の返済には、貸主の承諾を要する旨の記載を入れることもあります。
利息の計算方法
金銭消費貸借契約書では、利息の定めを置くことが一般的です。
契約書に利息についての記載がない場合、当事者双方が商人である場合以外は、利息を請求することができません(同589条1項、商法513条1項)。
利息の上限額は利息制限法によって定められているため、次の上限利率を超えないよう注意してください(利息制限法1条)。
これを超過する利息を定めた場合、超過部分は無効となります。
元本の額 | 上限利率 |
---|---|
10万円未満 | 年20% |
10万円以上100万円未満 | 年18% |
100万円以上 | 年15% |
遅延損害金
遅延損害金とは、借主が期限までに返済しなかった場合において追加で支払うとする金銭です。
遅延損害金についても契約書で定めておきましょう。
こちらも、先ほど解説をした上限利息の1.46倍を超える部分が無効となる旨が定められています(同4条1項)。
その結果、遅延損害金の上限額はそれぞれ次のとおりとなります。
元本の額 | 上限利率 |
---|---|
10万円未満 | 年29.2% |
10万円以上100万円未満 | 年26.28% |
100万円以上 | 年21.9% |
ただし、この上限利率は貸主が貸金業者でない場合を前提としており、貸主が貸金業者である場合は別の規定が適用されます。
期限の利益喪失
期限の利益とは、あらかじめ定めた返済期日が到来するまでの間、返済を履行しなくてよいという利益です。
期限の利益喪失条項は一定の事項が生じた際にこの期限の利益を喪失させ、一括返済をすべきこととなる旨の規定です。
期限の利益を喪失させる場面としては、借主が破産手続開始の決定を受けたときや借主が支払不能となったときなど、具体的に定めます。
このような規定を入れることで、万が一借主の資力に問題が生じた際、借主が倒産してしまう前に債権を回収できる可能性が高くなります。
連帯保証
金銭消費貸借契約では、保証人を求めることも少なくありません。
保証人をつけておくことで、万が一借主が返済できなくなった場合であっても保証人から返済を受けることができるため、貸主が貸付金を回収できなくなるリスクを引き下げることが可能となります。
保証人には、通常の「保証人」と連帯して債務を保証する「連帯保証人」があります。
連帯保証人は、通常の保証人が主張できる次の権利がありません。
- 催告の抗弁:貸主から返済を請求された際に、「まず主債務者(借主)に請求してください」と主張すること
- 検索の抗弁:貸主から返済を請求された際に、「主債務者(借主)に資力があるので、保証人である自分ではなく貸主に強制執行してください」と主張すること
- 分別の利益:連帯保証人が複数人(例:2人)いる場合に、「私に全額請求するのではなく、半分はもう1人の連帯保証人に請求してください」と主張すること
そのため、貸主の視点で見ると、連帯保証とした方が貸付金の回収がしやすくなります。
一方、連帯保証人は負担が重いため、借主が連帯保証人のなり手を見つけられない可能性があります。
金銭消費貸借契約書に収入印紙は必要?
印紙税法に定められた一定の契約書には、収入印紙を貼付しなければなりません。
金銭消費貸借契約書は印紙税の課税文書に該当し、契約書に記載の金額に応じて次の印紙税が必要です。
契約金額 | 印紙税額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
10万円以下 | 200円 |
50万円以下 | 400円 |
100万円以下 | 1,000円 |
500万円以下 | 2,000円 |
1,000万円以下 | 1万円 |
5,000万円以下 | 2万円 |
1億円以下 | 6万円 |
5億円以下 | 10万円 |
10億円以下 | 20万円 |
50億円以下 | 40万円 |
50億円超 | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
なお、収入印紙を貼らなかったからといって、その金銭消費貸借契約が無効となるわけではありません。
しかし、本来貼付すべき税額の3倍に相当する過怠税の対象となります。
電子契約の場合を除き、金銭消費貸借契約書を締結する際には、収入印紙の貼付を忘れないよう注意が必要です。
まとめ
金銭消費貸借契約書とは、金銭の消費貸借を目的とする契約書です。
以前は要物契約とされていましたが、改正後は契約書を取り交わすことによって諾成契約とすることも可能です。
金銭消費貸借契約では、期限までに返済されないなどトラブルの原因となることも少なくありません。
契約書がないと「借りたのではなく、もらったのだ」などと相手方から主張されるリスクもあります。
そのため、企業間であればもちろんのこと、個人間であっても金銭の貸し借りをする際は、必ず契約書を取り交わしておきましょう。
個別事情に即した金銭消費貸借契約書の作成をご希望の際は、Authense法律事務所までご相談ください。
記事監修者
山口 広輔
(第二東京弁護士会)第二東京弁護士会所属。明治大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。健全な企業活動の維持には法的知識を活用したリスクマネジメントが重要であり、それこそが働く人たちの生活を守ることに繋がるとの考えから、特に企業法務に注力。常にスピード感をもって案件に対応することを心がけている。
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