2024.03.08BusinessTopics

ライセンス契約とは?契約の種類や注意点と契約書の雛形を弁護士がわかりやすく解説

契約書

ライセンス契約とは、自社の有する特許権や商標権などの知的財産を他社に使用させる契約です。
特許ライセンス契約のほか、ソフトウェアライセンス契約などが該当します。

契約書の内容を吟味しないままライセンス契約を締結してしまうと、想定外の使用をされて自社の知的財産に傷がつくなどトラブルの原因となるかもしれません。
今回は、ライセンス契約締結時の注意点などについて弁護士が詳しく解説します。

目次
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ライセンス契約とは

ライセンス契約とは、特許権や意匠権、商標権、著作権などの知的財産の使用を他社に許諾する契約です。
ライセンス契約において、ライセンスを許諾する側を「ライセンサー」、許諾を受ける側を「ライセンシー」といいます。

ライセンス契約を締結する主な目的は、それぞれ次のとおりです。

  • ライセンサー:使用料(ロイヤリティ)を受け取ること
  • ライセンシー:他社の知的財産を自社の業務に活用して利益を上げること

そのため、ライセンス契約の締結においては、次の点を特に重視することとなります。

  • ライセンサー:適正な使用料を定め、その使用料をきちんと回収すること
  • ライセンシー:自社が利用したい範囲で知的財産を使えること

ライセンス契約の内容を検討する際は、この点を念頭に置いておくようにしましょう。

ライセンス契約の主な種類

ライセンス契約を許諾の形態によって分類すると、次のものなどが挙げられます。

  • 専用実施権設定契約
  • 通常実施権設定契約
  • クロスライセンス契約
  • サブライセンス契約

専用実施権設定契約

専用実施権設定契約とは、独占的かつ排他的にその知的財産を使用することを許諾する契約形態です。

「X」という特許権をもつA社が、この「X」についてB社と専用実施権設定契約を締結した場合、契約期間中にたとえ別のC社が「X」の技術を使いたいとA社に申し入れたとしても、A社は許諾することができません。
C社に重ねて許諾をしてしまうと、B社との重大な契約違反となり、損害賠償請求などの対象となります。
また、その特許権の所有者であるA社も、B社と専用実施権設定契約を締結している期間はその特許権を自社で使うことができません。

なお、特許権や実用新案権、意匠権をこの契約の対象とした場合は、特許庁で専用実施権設定の登録を受ける必要があります。

通常実施権設定契約

通常実施権設定契約とは、専用実施権ではない知的財産の使用許諾契約です。
こちらには、排他性や独占性がありません。
そのため、「X」という特許権をもつA社がこの「X」についてB社と通常実施権設定契約を締結したとしても、A社は別のC社とも通常実施権設定契約を締結することができます。
また、A社が「X」を使用することも可能です。

クロスライセンス契約

クロスライセンス契約とは、当事者双方がお互いに知的財産の使用を許諾し合う契約形態です。
たとえば、「X」という特許権をもつA社と、「Y」という特許権をもつB社がクロスライセンス契約を取り交わし、A社とB社がともに「X」と「Y」を使用できることとする場合などが該当します。
この場合、対価をやり取りしないことが少なくありません。

サブライセンス契約

サブライセンス契約とは、知的財産を「転貸」する契約です。
A社がB社に対して許諾した「X」を、B社がさらに子会社などであるC社に許諾する場合がこれに該当します。
ただし、サブライセンス契約を締結するには、ライセンサーであるA社による許諾が必要です。
ライセンサーがサブライセンスを認めるとしても無条件であることは稀であり、サブライセンス先を子会社などに限定したり、あらかじめライセンサーの承諾を得ることとしていたりすることが多いといえます。

ライセンス契約の例

ライセンス契約の例には、次のものなどが挙げられます。

  • 特許ライセンス契約
  • キャラクターライセンス契約
  • ソフトウェアライセンス契約
  • フランチャイズ契約

特許ライセンス契約

特許ライセンス契約とは、自社の有する特許権を他社に使用を許諾させるライセンス契約です。
特許権とは発明を保護するための権利であり、特許庁に登録されることで発生します。

キャラクターライセンス契約

キャラクターライセンス契約とは、漫画やアニメなどに登場するキャラクターコンテンツの利用を許諾するライセンス契約です。
たとえば、自社商品に他社が権利を有するアニメキャラクターを印刷したい場合などに活用します。

ソフトウェアライセンス契約

ソフトウェアライセンス契約とは、パソコンなどで動作するソフトウェアの使用を許諾する契約です。
広く頒布されるソフトウェアの場合は個々で契約書を取り交わすのではなく、ユーザーが画面に表示された契約状況を確認し、「同意する」などのボタンをクリックすることで契約成立とみなされることが多いでしょう。

フランチャイズ契約

フランチャイズ契約とは、フランチャイジー(加盟店)がフランチャイザーの有する経営ノウハウや商標を活用して利益を上げる一方で、フランチャイザーに対して一定のロイヤリティを支払う契約形態です。
コンビニエンスストアや飲食店、学習塾などでよく活用されています。

フランチャイズ契約は単純なライセンス契約ではないものの、フランチャイジー(加盟店)に対してフランチャイザーが有する経営ノウハウや商標権などの使用を許諾するという点では、ライセンス契約としての側面を持ちます。

ライセンス契約に記載すべき主な項目

ライセンス契約に記載すべき主な事項とポイントは次のとおりです。

  • 契約の対象物(ライセンスの内容)
  • 利用許諾範囲
  • 契約期間
  • ロイヤリティの金額
  • 秘密保持
  • 譲渡の禁止
  • 損害賠償
  • 表示義務(ライセンシーの遵守事項)
  • 契約の解除・解約
  • 合意管轄

契約の対象物

ライセンス契約の対象となる知的財産を特定して明記します。
特許権など特許番号などで特定することができるものは、特許番号などについても記載しましょう。

利用許諾範囲

利用許諾範囲とは、その知的財産の使用を許諾する範囲です。
ここでは、次の事項などを定めます。

  • 専用実施権設定契約であるか、通常実施権設定契約であるか
  • 対象地域(たとえばフランチャイズ契約などでは、競合とならない一定地域に限定して許諾する場合があります)
  • 数量や分野、知的財産を使用して制作する商品などを限定する場合には、その旨

ライセンシーにとっては、利用範囲が狭ければ狭いほど自由な利用がしづらくなります。
そのため、可能な限り許諾範囲を広くしたいことでしょう。

一方、ライセンサーにとっては自由度を広げてしまうと知的財産が自社の予期しない内容に使用されるリスク(例:漫画キャラクターを性的な商品のパッケージに使用されるなど)があるほか、自社事業と競合するリスクが高くなります。
そのため、できるだけ許諾範囲を限定したいと考えることが一般的です。

この条項はライセンス契約において最も重要なポイントとなるため、さまざまな視点からの検討と交渉を重ねたうえで定めることをおすすめします。

契約期間

ライセンス契約では、必ず契約期間を定めます。
期間は始期や終期の齟齬をなくすため、「令和5年9月1日から令和6年8月31日まで」など具体的な日を定めるとよいでしょう。
併せて、契約の更新を認める場合は更新の条件についても定めておきます。

ロイヤリティの金額

ロイヤリティ(使用料)の金額について明記します。
併せて、最初の支払い日や支払方法、いつからいつまでの分をいつまでに支払うのか(例:「毎月1日から末日分をその月の末日までに支払う」など)を明記しましょう。
また、一度支払ったライセンス料については、トラブルの複雑化を防ぐため、返還しない旨を合意しておく場合もあります。

秘密保持

秘密保持とは、契約によって知り得た事実を他者は開示しないことを定める条項です。
ライセンス契約では、その対象とする知的財産を相手企業へ開示することとなります。
そのため、契約条項として秘密保持を盛り込むことが一般的です。

譲渡の禁止

ライセンス契約においては、ライセンス契約の権利を無断で他者に譲渡できない旨を定めることが一般的です。
その知的財産の許諾をするのは「その相手」を信頼するからであり、契約者としての立場を他者に譲渡されることは想定していないことが一般的であるためです。
併せて、サブライセンスの禁止やサブライセンス時に事前承諾を必要とする旨などについても定めることが多いでしょう。

損害賠償

契約違反が発生した場合に備え、損害賠償に関する事項を定めます。
損害賠償について規定をしない場合は、民法の定めどおり相当の因果関係が立証できる場合にのみ実際の損害額の賠償請求が可能となります。

しかし、ライセンス契約において問題が生じた場合、因果関係や損害額の立証は困難であることが少なくありません。
そのため、契約書上で「一切の損害を賠償する」など賠償対象とする範囲を広げたり、損害賠償の予定額を定めたりすることも検討してください。

表示義務

ライセンス契約の対象とした知的財産の使用にあたって権利者の表示を求める場合は、その旨を契約条項として定めます。
中でも、キャラクターライセンス契約などでは著作者の明示をすることが多いでしょう。
この他、ライセンス契約においては、ライセンシーが特許・意匠・著作物・商標などを実施(使用)するにあたっての遵守事項を定めることが一般的です。

契約の解除・解約

一定の事情が発生した際に、契約の解除や解約を認める条項です。
無断でのサブライセンスや許諾範囲外での使用など所定の事項が生じた場合、一方的に解除や解約ができる旨を定めておくことで、問題が発生した際にスムーズに契約解除がしやすくなります。

合意管轄

契約に関して訴訟となった場合に備え、そのトラブル解決を管轄する裁判所を定めておきます。
この指定がないと、遠方の裁判所に訴訟を申し立てられて訴訟対応に苦慮する可能性があるためです。
一般的に、契約の主導権を握っている当事者の本店所在地にもっとも近い地方裁判所を合意管轄裁判所とします。

ライセンス契約を締結するまでの流れ

ライセンス契約を締結するまでの基本的な流れは次のとおりです。

  • 交渉の準備をする
  • 弁護士に相談する
  • 契約内容について交渉する
  • ライセンス契約書のたたき台を作成する
  • ライセンス契約を締結する

交渉の準備をする

はじめに交渉の準備を行います。
たとえば、他社での事例などを踏まえつつ自社が希望する契約条件をまとめたり、交渉にあたって譲歩できるラインを定めたりすることなどが挙げられます。
併せて、契約にあたって必要な手続きについても調べ、リストアップしておきましょう。

弁護士に相談する

必要に応じて、相手企業と交渉を行う前に弁護士に相談します。
弁護士に相談することで、自社が提示しようとする契約条項が法的に適切であるかどうか確認できるほか、交渉の進め方についてもアドバイスを受けることができます。
場合によっては、交渉時に同席してもらうことも検討するとよいでしょう。

契約内容について交渉する

あらかじめ検討した内容をもとに、相手方と契約内容について交渉を行います。
この段階では、大筋での合意を目指します。
少なくとも、知的財産の利用範囲や使用料など契約の土台ともいえるポイントは入念に取り決める必要があります。
なお、具体的な交渉や検討に入る前に、状況によっては守秘義務契約を交わすこともあります。

ライセンス契約書のたたき台を作成する

大筋での合意ができたら、ライセンス契約書のたたき台を作成します。
たたき台の提示後は、細かな条項について修正や交渉を行います。
相手企業が要求するままに修正を行うのではなく、修正に応じる前に弁護士へご相談ください。

ライセンス契約を締結する

細かな条件面まで交渉がまとまったら、双方が契約書に署名や押印をしてライセンス契約を締結します。
近年、紙の契約書ではなく電子契約も増加傾向にあります。

ライセンス契約にかかる印紙税

最後に、ライセンス契約にかかる印紙税について解説します。

印紙税とは

印紙税とは、契約書や領収証などに対して課される税金であり、契約書に収入印紙を貼付する形で納付します。
印紙税はすべての契約書などに対してかかるのではなく、所定の課税対象文書に対してのみ課されます。

ライセンス契約に印紙税は必要?

ライセンス契約には、原則として印紙を貼る必要はありません。
なぜなら、ライセンス契約は印紙税の課税対象とされる「文書の種類」に挙げられていないためです。

ただし、契約書のタイトルを問わず、請負など印紙税の課税対象となる条項が契約内容として定められている場合は印紙税の課税対象となります。
判断に迷う場合は、管轄の税務署へご相談ください。

まとめ

ライセンス契約とは、知的財産の使用を他社へ許諾する契約です。
ライセンス契約を締結する際は、ライセンシーとライセンサーそれぞれの視点から契約条項をつぶさに検討し、自社にとって有利な契約締結を目指しましょう。

自社のみでの検討が難しい場合は、企業法務に強い弁護士へご相談ください。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

山口 広輔

(第二東京弁護士会)

第二東京弁護士会所属。明治大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。健全な企業活動の維持には法的知識を活用したリスクマネジメントが重要であり、それこそが働く人たちの生活を守ることに繋がるとの考えから、特に企業法務に注力。常にスピード感をもって案件に対応することを心がけている。

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