2023.09.28Legal Trend

ビッグモーター社 調査報告書で指摘された「現場の声を拾い上げる」について考える

コンプライアンス

株式会社ビッグモーターが自動車修理事業における損保会社に対する保険金請求に関し、不適切な保険金請求の事実確認等調査が行われた件で、調査委員会は、不適切な保険金請求を認定した上、その原因のひとつとして、経営陣における「現場の声を拾い上げようとする意識の欠如」を挙げました。

ビッグモーター社の調査報告書を踏まえ、

  1. 企業不祥事の原因となり得る「現場の声を拾い上げる」とは
  2. 経営陣が現場の声を拾い上げるために有効な方法

について考えてみたいと思います。

目次
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1.

「現場の声を拾い上げる」とは

ビッグモーター社に関する調査報告書によれば、調査の過程で実施した従業員アンケートの結果、回答者382名中104名(27.2%)が自ら不正な作業に関与したことがあると回答、68名(17.8%)が自分以外の人が不正な作業に関与しているのを見聞きしたことがあると回答したとのことです。
にもかかわらず、経営陣や事業本部の幹部らは、そのように現場に不正が蔓延していたことに気付いていなかったと回答しているとのこと。

では、仮に、これが事実だったとして、現場のこのたびの回答が経営陣らに届いていれば不正は行われなかったのか。

この点、調査報告書でも触れられているとおり、現に、現場の作業員から経営陣に直接の告発がなされた際に、それに対し特段の調査がなされないままに、結果としてもみ消しと評価され得る対応をしたとのこと。

とすれば、ビッグモーター社における「現場の声を拾い上げられない」実態というのは、単純に、現場の声が、経営陣らまで届かないことに加え、仮に客観的には届いたといえる場合でも、それを、企業価値を毀損する芽になるものを摘むことのできる貴重な機会であると受け止めて適切に対処することができないという意味で、実質的に拾い上げられていない実態を指すといえそうです。

経営陣が現場の実態について何も知らないこと、そして、現場の実態について見聞きしたことの中から不正の芽を見つけ出し、早期に適切な対処をする姿勢をもたないことが「現場の声を拾い上げられていない」といえ、そのような姿勢が、結局、不正が企業にとって取り返しのつかないダメージとなるまで問題を放置することにつながります。

三菱自工における燃費不正問題に関する調査報告書においても、会社が、社内で、新人による問題提起や従業員アンケート等を通じて不正を是正する機会をたびたび得ていたにもかかわらず、これらが放置された結果問題が深刻化したことが指摘されています。

2.

経営陣が現場の声を拾い上げるために有効な方法

調査報告書では、再発防止策の提言のひとつとして「現場の声を拾い上げるための努力」を挙げ、その具体的方法として、現場巡回の際の個別面談の実施、内部通報制度の整備を指摘しています。

この点は、調査報告書で指摘されているとおりだと思いますが、不正の芽を摘む方法として、面談を通じて経営陣に直訴すること、内部通報制度を利用することは、本来あるべきルートが十分に機能しない場合に効果を発揮するものであるはず。

本来あるべきルートである通常のレポートラインを機能させることがまずもって図られるべきであると考えます。
通常のレポートラインとは、たとえば、現場の支店従業員➡支店長➡本店の営業本部長➡(経営会議・取締役会)という報告ルートです。
この報告ルートが十分に機能することがもっとも健全な状態であるはずで、経営陣への直訴や内部通報制度以前に、通常業務の報告ルートを通じて不正の芽が報告され、これがさらに経営陣にも報告され、会社としての対応がなされるための方法も併せて考えられるべきだと考えます。

そして、この通常のレポートラインを機能させるためにもっとも重要なことは、上記の例でいうと「支店長」や「本店の営業部長」が、見聞きした不正の芽をなかったことにせず、経営陣に届けるという意識。

日常的に、不正の芽を積極的に自分に報告してほしいという姿勢を示すとともに、いざその芽を見聞きしたときに、迅速適切に対応する姿勢を現場に示し続けてこそこの通常のレポートラインが機能するといえます。

このような意識を育てるためには、上記の例でいう「支店長」「本店の営業本部長」などの立場にあるかたに対し、法令やそれぞれが企業不祥事を食い止める重要な役割を担っていることに関する教育がなされるべきで、その教育については、社内の「これくらい当たり前」という文化の外にいる社外役員や外部専門家などが担う必要があると考えます。

終わりに

ビッグモーター社に関する報道を見て、それを後から、外の立場で批判することは容易です。 
他社で起きたことは、そのまま自社にあてはまるとは限らず、「うちとは関係ない」で終わらせることもできます。
でも、このような企業不祥事報道を踏まえ、もしかしたら、自社にも、共通する不正が起きることとなった要素が潜んでいないかとチェックする機会として利用することもできます。
そして、その取り組みのひとつとして、実態調査のための従業員アンケート実施、従業員教育研修、内部通報窓口対応等さまざまな形で弁護士を利用することも一つの選択肢です。
各社の実態に合わせた不正予防のための具体的なご提案ができます。
法務部、コンプライアンス担当窓口、内部監査ご担当者様等どのようなお立場のかたにおかれましても、どうぞお気軽にお問い合わせください。

記事執筆者

Authense法律事務所
弁護士

高橋 麻理

(第二東京弁護士会)

慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。

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