Authense社労士法人コラム

公開 2024.04.26

就業規則の変更手続きの方法は?同意しない社員がいる場合の対応・周知の方法を解説

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一度作成した就業規則の変更は、会社が自由に行えるわけではありません。
就業規則を変更するには、従業員代表者の意見を聞いたり、労働基準監督署へ届け出たりする手続きが必要です。

では、就業規則の変更は、どのような流れで進めればよいのでしょうか?
また、就業規則を変更する際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?

今回は、就業規則の変更についてくわしく解説します。

就業規則の変更をする方法・流れ

まずは、就業規則を変更する方法と手続きの流れについて解説します。

変更後の案を作成する

はじめに、会社側で変更後の就業規則の案を作成します。

その際、労働基準法(以下、「労基法」といいます)で認められた従業員の権利を就業規則で制限することはできないなど、就業規則を適切に変更するためには法令への理解が不可欠です。
また、給与や休日を減らすなど従業員にとって不利益となる変更をしようとする際は、後のトラブルを避けるために特別な配慮が必要となります。

しかし、これらを自社だけで行うことは容易ではないでしょう。
そのため、就業規則の変更案の作成は、社会保険労務士(社労士)や弁護士など専門家のサポートを受けて行うとよいでしょう。

従業員代表者から意見を聴く

就業規則の原案を作成したら、これについて従業員代表者の意見を聞きます。
これは、就業規則について規定されている労基法で義務付けられています(労基法90条)。

従業員代表者とは、それぞれ次の者を指します。

  • 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合:その労働組合
  • 労働者の過半数で組織する労働組合がない場合:労働者の過半数を代表する者

この従業員代表者を会社が指名することはできず、投票や挙手など民主的な方法によって決められることが求められています。
なぜなら、従業員代表者を会社が指名できるとなると、就業規則の変更に異議を述べる可能性の低い人物を会社が意図的に選任できてしまい、従業員代表者の意見を聞くべきとの制度が形骸化してしまうためです。
また、部長や工場長など、労働条件の決定などについて経営者と一体的な立場にある人は、従業員代表者となることができないとされています。※1

従業員代表者の意見を聞いたら、意見書にまとめなければなりません。

修正後の就業規則を作成し労働基準監督署に届け出る

就業規則の変更について従業員代表者の意見を聞いたら、その意見を踏まえ、必要に応じて就業規則の変更案を修正します。
修正後の就業規則変更案が作成できたら、変更後の内容を労働基準監督署へ届け出なければなりません(同89条)。

就業規則の変更届の提出先は、原則としてその事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。
ただし、本社の就業規則と本社以外の事業場の就業規則が同じ内容であることなど一定の要件を満たす場合は、本社の所在地を管轄する労働基準監督署へ一括して届け出ることもできます。
なお、変更届の場合には、変更後の就業規則のみならず、変更前の就業規則も同じ内容であることが必要です。

就業規則の変更届には、変更届の所定様式のほか、従業員代表者による意見書も必要です。
また、変更届の様式に変更内容が書ききれない場合は、別紙として変更後の就業規則を添付したり、新旧対照表を添付します。

変更届の提出に具体的な期限はありませんが、届出をしなかった場合は罰則の対象となるため、遅滞なく届け出を行いましょう。
なお、労働基準監督署への就業規則の届け出方法は、①郵送、②窓口への持ち込み、③電子申請の3種類があります。

従業員に周知する

就業規則を変更したら、変更した旨と変更後の内容を従業員に周知します。

周知の方法は、社内のモニターで閲覧させることや、事業場の見やすい場所に掲示することなどが考えられます。
役員の机の中にしまわれているなど、従業員が自由に見ることができない状態では周知されたとはいえません。

就業規則を変更しても従業員に周知されていなければ、変更後の就業規則が無効とされるおそれがあるため注意が必要です。
従業員へ周知する方法でお悩みの際は、社労士などの専門家へご相談ください。

就業規則を変更するタイミングはいつ?

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就業規則を変更するタイミングはさまざまです。
ここでは、就業規則を変更する主なタイミングについて解説します。

法改正への対応が必要となったとき

1つ目は、法改正があったタイミングです。

労使に関連する法令が改正されたことで、現行の就業規則が改正後の法令にそぐわなくなることがあります。
その場合は、法改正の内容を反映するよう就業規則を変更します。

改正法は4月に施行されることが多いため、このタイミングに合わせて変更することが多いでしょう。
また、就業規則に他の変更がある場合も、法改正によるタイミングと合わせて改定することが一般的です。

現行の就業規則の不備や問題が発覚したとき

2つ目は、現行の就業規則の不備や問題が発覚したときです。

就業規則を作成して運用しているものの、内容が自社に合わないことに途中で気づくこともあります。
また、規定の不備に気づくこともあるでしょう。
この場合は、自社に合った内容とするため、就業規則を改訂することとなります。

制度を変更したいとき

3つ目は、自社の制度を変更したい場合です。
たとえば、次のような場合が該当します。

  • 手当を新設する場合や廃止する場合
  • テレワークなど新たな働き方を導入する場合
  • 副業を解禁する場合
  • 新たに固定残業制を導入する場合

ただし、給与を引き下げたり休日を減らしたりするなど、従業員にとって不利となる変更は自由に行うことができません。
これについては、後ほど改めて解説します。

従業員が就業規則の変更に同意しないとどうなる?

就業規則の変更にあたって従業員代表者の意見を聞いたところ、変更に対して反対されることもあるでしょう。
では、従業員代表者が就業規則の変更に反対する場合はどうすればよいのでしょうか? 順を追って解説します。

法律上は意見を聞く義務があるだけで同意は変更の要件ではない

法律上は、従業員代表者の意見を聞く義務があるだけで、同意を得ることは変更の要件とはされていません。
そのため、従業員代表者が反対していても就業規則の変更をすることはでき、反対意見が記載された意見書が付いていても、労働基準監督署へ変更の届け出をすることは可能です。

トラブルを避けるためには理解を得るよう努めるのがベター

労基法上、従業員代表者の同意までは求められていないとはいえ、従業員から強い反対意見があるにもかかわらず変更を強行することはおすすめできません。
なぜなら、自分たちの意見が一切反映されず会社が独断で就業規則を変更したとなれば、従業員からの信頼を損ねる可能性が高いためです。
その結果、労使トラブルが頻発したり、退職者が急増したりするおそれがあります。

そのため、同意を得る必要まではないものの、今後の円滑な事業運営を目指すため、説明会を開くなどして従業員側に丁寧に説明をして理解を求めたり企業側が譲歩する姿勢を見せたりすることが重要です。

個別合意のない不利益変更は無効となるリスクがある

従業員にとって不利な内容へと就業規則を変更する「不利益変更」を会社側が一方的に行うことは、原則として認められません。
不利益変更とは、たとえば従業員の給与を引き下げる内容や、休日を減らす内容への変更などです。
このような不利益変更を会社が一方的に行った場合、就業規則の変更は原則として無効となります。

ただし、不利益な内容への変更であっても一定の合理的な理由があれば、例外的に有効となると判断されます。
どのような事情があれば「合理的な理由がある」と判断されるのかは個別的に検討されるべきものであり、一律に判断されるわけではありません。

ただし、宮城労働局が作成している資料によると、合理的な理由の有無は次の事情などから総合的に判断される傾向にあるとされています。※2
1つの参考となるでしょう。

  1. 労働組合または従業員の大部分の合意の有無
  2. 不利益の程度
  3. 変更の必要性の有無
  4. 代償措置や経過措置の有無

就業規則を不利益変更しようとする際は、従業員代表者の意見を聞くだけではなく、個々の従業員の合意を得ることを目指すことになります。

就業規則の不利益変更をしたいとお考えの際は、特に慎重に進める必要があります。
そのため、あらかじめ社労士や弁護士などの専門家へご相談ください。

就業規則変更の注意点

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就業規則の変更は、どのような点に注意して行う必要があるのでしょうか?
ここでは、主な注意点を2つ紹介します。

就業規則変更届の受理は、有効であるとのお墨付きではない

1つ目は、労働基準監督署へ就業規則の変更を届け出て受理されたからといって、その就業規則の変更が有効であるとのお墨付きではない点です。

届出はあくまでも、必要な手続きの1つでしかありません。
たとえきちんと変更届を出して労働基準監督署に受け付けられていたとしても、従業員の同意を得ることなく不利益変更を行った場合は、変更が無効とされる可能性があります。

そのため、届出をしたことと、変更の有効性とはイコールでないことを理解しておいてください。

ただし、不利益変更であるうえに届出さえしていなかった場合は、変更の有効性について労使間でトラブルが生じた際に、会社にとって不利な事情として加味される可能性があります。

変更後の就業規則は周知を徹底する

2つ目は、就業規則を変更した際は、変更後の内容について従業員に周知する必要があることです。
先ほど解説したように、就業規則を変更しても変更後の内容を従業員が知らなければ、変更が無効となる可能性があるためです。

たとえば、変更によって新たに設けた懲罰規定に従って従業員を懲戒解雇した際、従業員に変更後の就業規則が周知されていなかったなどの事情があれば、解雇が無効と判断されるおそれがあります。

そのような事態を避けるため、就業規則を変更したら変更後の就業規則を速やかに社内ネットワーク上のわかりやすい場所に掲載するなど、従業員へ周知する措置を講じましょう。

就業規則の変更について社労士の支援を受けるメリット

就業規則を変更しようとする際は、社労士など専門家のサポートを受けるとよいでしょう。
最後に、就業規則の変更について社労士にサポートを依頼する主なメリットを3つ解説します。

適法かつ自社に合った就業規則が作成できる

社労士のサポートを受けることで、適法で自社に合った就業規則を作成できる可能性が高まります。

就業規則は会社が自由な内容で作成できるわけではなく、法令の制限内で作成しなければなりません。
法令の基準以上に従業員の権利を制限した就業規則の条項は、原則として無効となります。
一方で、就業規則に手当などをふんだんに盛り込んだとしても、実際にその手当が支給されていなければトラブルの原因となります。

そのため、法令の制限の範囲内で、かつ自社で実現可能な内容の就業規則を作成することがポイントです。
しかし、このような就業規則を自社で作成するのは容易ではないでしょう。

社労士に相談してサポートを受けることで、自社に合った就業規則の作成が可能となります。

個別合意が必要かどうかあらかじめ確認できる

先ほど解説したように、就業規則の不利益変更を有効なものとするには、原則として従業員から個々に同意を得る必要があります。
しかし、明らかに給与を引き下げるなどでない限り、自社が行おうとしている変更が不利益変更にあたるかどうか判断に迷うことも少なくないでしょう。
社労士のサポートを受けることで、行おうとしている変更について個別合意が必要であるかどうか、あらかじめ確認することが可能となります。

必要な手続きを任せられる

ここまでで解説したように、就業規則の変更には従業員代表者からの意見書の取り付けや労働基準監督署への届出、従業員への周知など、さまざまな手続きが必要となります。
社労士のサポートを受けることで、具体的な状況に応じて何をすべきかアドバイスを受けられるほか、変更届の提出など手続きを代行してもらうことも可能となります。

まとめ

就業規則の変更方法や手続きの流れ、注意点などについて解説しました。

就業規則を変更する際は、従業員代表者から意見を聴くことが必要です。
また、変更をした際は労働基準監督署へ届出をしなければなりません。
中でも、不利益変更の場合には特別な配慮が必要となるため、あらかじめ社労士や弁護士へご相談ください。

Authense社会保険労務士法人は就業規則の変更手続きの支援に力を入れており、大小さまざまな企業について多くのサポート実績があります。
就業規則を変更したいとお考えの際は、Authense社会保険労務士法人までまずはお気軽にご相談ください。

監修者

Authense 社会保険労務士法人
代表 社会保険労務士

東京都社会保険労務士会所属。成蹊大学文学部英米文学科卒業。
創業間もないベンチャー企業だったAuthense法律事務所と弁護士ドットコムの管理部門の構築を牽引。その後、Authense社会保険労務士法人を設立し代表に就任。企業人事としての長年の経験と社会保険労務士としての知見を強みとする。

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