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INNOVATORS
公開 2026.05.25

なぜモーニング娘。は30年も人気を維持できたのか?稀代の名プロデューサーが語る「原石」を「宝石」へと生まれ変わらせる方法論
ミュージシャン/音楽プロデューサー つんく♂氏 インタビュー(中編)

つんく♂ 氏

最強のチームを作るための採用・育成の「秘密」はどこにあったのか……? モーニング娘。を国民的アイドルグループへと導いたつんく♂氏が語る「組織論」について話を聞いた。特定のスターを特別視せず全員を平等に扱う徹底した姿勢など、現代のリーダー層にも通ずる、個の輝きを引き出し組織の総合力を底上げするための極意。

取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 写真/西田周平 Shuhei Nishida

最強のチームを作るための採用・育成の「秘密」

― モーニング娘。はスカウトではなくオーディションでメンバーが選ばれている。アイドルとしての輝きを放つ前のいわば「原石」を、つんく♂氏はどのようにして発掘していったのだろうか。

つんく♂氏 :現在は企業でも採用の現場でAIを使ってふるいにかけることもあるかと思いますが、最後はやっぱり感覚になるんじゃないかと思います。パッと感じた「この子はいいな」という相性や人間性、心の強さが大切だと思うんです。能力はあとから伸ばしてあげられますから。

― ひとりのアイドルを育て上げるのではなく、モーニング娘。もしくはハロー!プロジェクト全体の力を底上げするためには、グループの総合力が不可欠になる。その際のコツを、つんく♂氏は野球のチーム作りにたとえる。

つんく♂氏 :野球のチームにはカラーがありますよね。たとえば高校野球で、このチームはすごいピッチャーがいるから彼を軸に1点も与えない守りのチームを作るとか、逆にプロ顔負けの打球を打つ4番がいるからとにかく点を取って勝とうとか、もしくはイチローさんみたいに確実に塁に出る選手がいるから、後続はバントで繋いで手堅く1点を取ろうとか。野球というのは大谷翔平選手が9人いても勝てるかどうかはわからないんです。いろいろなキャラクターがいて、誰かが誰かの穴埋めをできるチームが強いと思うんですよね。あ、いや、大谷選手が9人ならそれはすごいか(笑)。

― 異なる魅力を持った原石を見つけて採用する、しかし彼女たちはまだ原石でしか無い。放っておけば勝手に輝く宝石へと成長するわけではない。

つんく♂氏 :僕はもういいおっさんです。応募者は自分の娘くらいの年齢です。子どもだと舐めてかかってはいけません。彼女たちと話すときに、その子の良いところ、尊敬できる部分を見つけてあげることが大事です。適度に可愛い、なんとなくダンスが踊れる、無難に歌が歌える研修生がいたとして、その子とあと数人、力の付いた子と抱き合わせでデビューさせればいいんでしょ、くらいに考えると、その研修生はある程度までは成長したら、そのままそのレベルから伸び悩むでしょうね。

選ぶ側が、ピンポイントでいいので『君のここがすごい』と認めて抜擢しないと、選ばれた側はなんで選ばれたのかわからず自分自身を磨けないんですね。

― 選んだメンバーの魅力がどこにあるのか、努力して伸ばすべきポイントはどこなのかを自覚させることが当人の成長につながっていく。

一方、10代から20代の多感な女性、しかもオーディションで選ばれたというプライドを持つ女性の集団を束ねていくのは並大抵のことではない。ここにも「つんく♂流」のポイントがある。

つんく♂氏 :あまり叱った記憶はないのですが、逆にヨイショやべた褒めもしません。松浦亜弥みたいに「できた子」ほど、今思えばあまり褒めてないのかもしれません。申し訳ないね(笑)。誰に対しても貶すこともないし、その分怒りもしないけど、「すごい!」とか「天才!」といった言葉だけでやり過ごすことはしなかったですね。

― つんく♂氏が言わなくても他人がたくさん褒めているだろうから緊張感を保つためにもあえて言わなかったと語るが、他にも理由がある。

つんく♂氏 :大谷翔平選手のクラスまでいった選手を球団オーナーがベタ褒めしてしまったら、それ以外の選手がどう思うかですよね。「オレたちなんかが褒められることなんてないよな」と感じてしまうと思うんです。だから、ホームランを打った大谷選手ではなく、大谷選手の前にタイムリーを打った選手を褒めるんですよ。あのタイムリーがなかったら、その後の大谷のホームランもなかった、お前はすごい!って。だってウソじゃ無いし。

つんく♂ 氏

― 頭一つ抜けた才能を持ち、誰よりも目立っている選手を褒めるのではなく、その脇を固めるプレイヤーの良い点を見つけ讃える。そうすることで自分も見てもらえていると実感させる。実感した選手はまた活躍しようと努力する。そのサイクルが強いチームを作る。

大人数のグループを束ねる総責任者ならではの心配りと心労もある。

つんく♂氏 :心がけていたのは、安倍なつみだろうが松浦亜弥だろうが後藤真希だろうが、誰かだけを特別に扱わないようにということでした。二人で食事に行くとか、頑張ったからご褒美に何か買ってあげるとか、そういうことは一切しませんでした。全員一緒、全員平等に扱うことは決めていました。

彼女たちはちょっとしたことでもよく見ていますから。だから限界まで気を配って差を設けない。それを極めると、最終的には「誰とも(個人的に)接しない」というところにたどり着いてしまうんですけどね(笑)。

芸能界って不思議なところで、誕生日会が大好きなんですよ。でも僕は絶対にやりません。正直、人数が多すぎるって現実もありますが、誰かメンバーの誕生日を祝うことをしなかったです。もちろんどっかで誰かがその役目をやってくれてるからこそでしょうが。なので、当然、僕へのプレゼントやケーキも絶対にやめようねって周囲に伝えてきました。

誕生日会をやればプレゼントをもらうことになる。この年齢になって細かいことを気にしなくなりましたが、ハロー!プロジェクトがワーワーなってた頃に、自分は1万円のプレゼントを用意したが、あの子は2万円のプレゼントを持ってきている。それなら私は来年は3万円のなにかを持ってこなければいけない、みたいな媚びる文化になっても嫌でしょう?

ま、実際物理的に体(時間)ももたないんですよ。なので当初はメンバーの結婚式にも顔を出していたのですが、ある時に思ったんです。これからみんなどんどん結婚していく。全員に呼ばれたらスケジュールが合わずに出られない子も出てくる。あの子の結婚式には出たのに私のには出てくれないと、そうなってしまう、これはいけないって。だから結婚式も絶対に行かないと決めました。

<後編に続きます>

<前編はこちら>

Profile

つんく♂ 氏

1968年10月29日生まれ、大阪府出身。ロックバンドシャ乱Qのボーカルとして1992年にメジャーデビュー。その後、モーニング娘。やハロー!プロジェクトのプロデューサーとして「LOVEマシーン」などのヒット曲を量産。数々のアーティストへ楽曲提供も行う。2015年に喉頭がんで喉頭全摘手術を受けたことを公表したが、現在でもTNX株式会社代表取締役として作詞・作曲、イベント企画、プロデュースなど多方面にわたって活動を続けている。