予算と納期を遵守し、クライアントの期待を超える成果を出し続ける「プロとしての矜持」や、スタッフの想定外のアウトプットから価値を見出す組織論。稀代のヒットメーカー・つんく♂氏が語る、プロフェッショナルとしての仕事の流儀に迫る。
取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 写真/西田周平 Shuhei Nishida
時代を作り出してきたつんく♂氏の新たなる挑戦
― モーニング娘。は日本を代表するアイドルへと成長し、プロジェクトは多角化・巨大化していった。発展に伴って、つんく♂氏が関わるスタッフの数も劇的に増えていった。プロジェクトの総責任者として、大勢のスタッフとクオリティの高いコンテンツを生み出し続けるための苦労は、ひとりで仕事をし続ける苦しさとはまた別種のものとなる。
つんく♂ 氏: 具体的に指示を出すとその指示に因われてしまう人もいるし、指示を自分なりに解釈してアウトプットできる人もいます。MVの監督、衣装さん、アレンジャーみなしかりです。
たとえば映像を作ろうとしたときに、いろいろなアーティストのMVをいくつか見せて「全部足して割った感じ」と伝えたら、「わかりました!」となる人もいれば、見せれば見せるほどわからなくなっていく人もいる。最後はやっぱり、咀嚼力のあるスタッフ(専門家)が残って行くし、他でも活躍しますよね。
― 責任者として他者や部下と仕事をする際、自分の指示通りに上がってくるとは限らない。想定外の完成品が上がってきたとき、つんく♂氏はこう考える。
つんく♂ 氏:指示通りじゃないからボツとは限りません。たとえば外注する時、最低でも78点のクオリティは欲しいと思っています。その上で上がってきたものが98点なら最高です。でも当然36点のこともある。本来はボツです。でも、この36点のプロダクトの中にも何か「キラッと光るもの」が見つけられるかどうかが勝負なんだと思います。ちょっと待てよ、これはぜんぜんイメージとは違うけど広がるかもしれない、と。そういうのがAIでなく人と一緒に仕事をするときの面白さってやつと感じています。
― つんく♂氏は、日本の音楽史に残る多くの楽曲を生み出し続けてきた。プロのミュージシャンとして何にこだわり、何を続けてきたのだろうか。
つんく♂ 氏:天才芸術家が5年にひとつ天からの啓示を受けた作品を出しますというのではなく、毎月コンスタントに一定のクオリティ以上の作品を出していく、単に量産するのではなくプロとしての作品づくりにこだわってきました。
素人というのは何かを作るにあたって3日寝なくてずっと作っててもいいし、急にそこでやめてもいい。締め切りもないので、あれこれとこねくり回した挙げ句、良いか悪いかわからなくなるが、とにかく楽しい。それが素人作品の醍醐味ですよ。これもひとつの芸術のあり方です。対して、プロには予算と締め切りがあります。これを守れないとビジネスにならないんです。そして一番大事なのは、クライアントの満足度です。「つんく♂に頼んで得したな」と思ってもらわないといけない。この予算と納期でこれだけのことをやってくれたの?と感じてもらうのがプロだと思っています。

― 1988年12月にシャ乱Qが結成されてから2026年4月で37年4ヵ月が経った。メジャーデビューから34年、モーニング娘。のオーディション企画から29年。浮き沈みの激しいエンタテインメントの世界を今日まで最前線に立って牽引し続けてきた。功成り名を遂げた今でも、つんく♂氏はさらに先を見据えて活動を続けている。
つんく♂ 氏 : いろいろやってみたくなってレストランなどを手掛けたこともあったのですが、やはり餅は餅屋なんですよね。僕は音楽を作ることとグループをまとめていくことで、次の時代に新しい「何か」を送り込めるのではないかと思っています。
― 2026年にはつんく♂氏が楽曲を手掛け、全世界累計販売本数500万本以上を記録した「リズム天国シリーズ」の最新作「リズム天国 ミラクルスターズ」が任天堂よりリリース予定。つんく♂氏の楽曲に改めて注目が集まっている。
また、2026年2月13日にはモーニング娘。(’26)を含むハロー!プロジェクトの全楽曲(計3,219曲)がサブスクリプション型音楽配信サービスで一挙公開され話題となった。
つんく♂ 氏 :よく日本のマスコミ報道で「日本のアニメソングが世界でウケている」、「Jポップが今、世界で熱い!」と耳にしますが、どうでしょうか。僕はアメリカに住んでいますが、報道で見るような過剰な日本推しは感じません。ただ一部の支持者が猛烈に応援してくれてるのは確かです。愛を持って奥深くって感じで。きっと「鬼滅の刃」など人気作のファンは世界中に確実にいる。目の肥えたファンを納得させるような世界基準でもすごいと思える作品を作れるのが日本人なんです。今、日本人がクオリティの高いエンタテインメントを世界に送り込める最後のチャンスじゃないかと思っているんです。
アメリカのための、ヨーロッパのための音楽を作るのではなく、日本の良い音楽を世界に知ってもらう、そういったことを口先だけではなく、やれそうな気がしているんです。
― つんく♂氏の挑戦は、これからも続いていく。
Profile
つんく♂ 氏
1968年10月29日生まれ、大阪府出身。ロックバンドシャ乱Qのボーカルとして1992年にメジャーデビュー。その後、モーニング娘。やハロー!プロジェクトのプロデューサーとして「LOVEマシーン」などのヒット曲を量産。数々のアーティストへ楽曲提供も行う。2015年に喉頭がんで喉頭全摘手術を受けたことを公表したが、現在でもTNX株式会社代表取締役として作詞・作曲、イベント企画、プロデュースなど多方面にわたって活動を続けている。
