公開 2024.03.01 更新 2024.10.10BusinessTopics

秘密保持契約書(NDA)とは?作り方や注意点と雛形を弁護士がわかりやすく解説

契約書

自社の秘密情報を他企業に開示する必要が生じた際は、秘密情報の開示に先立って秘密保持契約書を締結することが一般的です。

秘密保持契約書はどのような手順で作成すればよいのでしょうか?
また、秘密保持契約書を作成する際はどのような点に注意する必要があるのでしょうか?

今回は、秘密保持契約書の作成方法や注意点、雛型の入手方法などについて弁護士が詳しく解説します。

目次
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秘密保持契約書(NDA)とは

秘密保持契約書とは、自社が開示する機密情報の漏えいや不正利用を禁ずる契約書です。
重要な情報を開示する前に秘密保持契約書を取り交わすことでその情報が秘密情報であることを相手企業に明示することとなり、漏えいや不正利用の抑止力となる効果が期待できます。

機密保持契約との違い

秘密保持契約と似たものとして、「機密」保持契約があります。
両者どちらも守秘義務に関する契約であり基本的には同じものです。
契約の名称として、他に「守秘義務契約」や「NDA(Non-Disclosure Agreement)」などがあります。

締結するタイミング

秘密保持契約書は、対象となる秘密情報を相手方に開示する前に締結することが一般的です。
具体的には、次のタイミングでの締結が考えられます。

  • 秘密情報の開示を伴う商談や打ち合わせを行う前
  • 共同開発を進めるにあたって技術情報を開示する前
  • 資本提携や業務提携を検討するにあたって秘密情報を開示する前
  • 機密情報を取り扱う職種で従業員を雇用する前

秘密保持契約書を取り交わす主な目的

秘密保持契約書は、どのような目的で取り交わすものなのでしょうか?
秘密保持契約書を締結する3つの目的を解説します。

  • 秘密情報の流出を防ぐため
  • 秘密情報が流出した際に損害賠償請求をしやすくするため
  • 特許の取得に備えるため

秘密情報の流出を防ぐため

1つ目は、開示する秘密情報の流出や不正利用を防ぐためです。

秘密保持契約書を取り交わすことで開示する情報が「秘密情報」であることが明確となるうえ、流出や不正利用時の損害賠償責任も明確となります。
これが、秘密情報の流出や不正利用の抑止力となります。

秘密情報が流出した際に損害賠償請求をしやすくするため

2つ目は、秘密保持契約書を取り交わすことで、万が一秘密情報が流出したり不正利用をされたりした際に損害賠償請求がしやすくなることです。

不正競争防止法によっても「営業秘密」に関する規定が設けられており、これを不正に使用した場合は損害賠償請求をすることができます。
しかし、このような規定があるからといって秘密保持契約書が不要というわけではなく、不正競争防止法による「営業秘密」は限定的であり、これに該当する旨の立証は容易ではありません。
損害賠償請求をスムーズに行うには、秘密保持契約書が必要です。

特許の取得に備えるため

その営業秘密について特許の申請を検討している場合、開示にあたって秘密保持契約書を締結してないと特許が取得できないかもしれません。
なぜなら、特許を取得できない事情の1つに「特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明」が挙げられており、秘密保持契約を取り交わさないまま他社に開示している情報はこの「公然知られた発明」に該当してしまう可能性があるためです(特許法29条1項)。

また、秘密保持契約書を取り交わすことなく秘密情報を開示してしまうと、自社よりも先に相手企業が特許を出願してしまうかもしれません。

特許の出願を検討している秘密情報を開示する際は、秘密保持契約書の締結がより重要となります。

秘密保持契約書の作成方法

秘密保持契約書は、どのような手順で作成すればよいのでしょうか?
ここでは、一般的な作成方法と手順を紹介します。

  • 開示する「秘密」の範囲を特定する
  • 開示する側で秘密保持契約書の契約書案を作成する
  • 双方が記名押印する

開示する「秘密」の範囲を特定する

はじめに、相手企業に開示する情報のうち、「秘密」の範囲を特定します。
「開示する情報がすべて秘密情報である」とすることは現実的ではなく、秘密保持契約書の有効性を高めるためには秘密情報に該当する情報の範囲をできるだけ明確にしておく必要があるためです。

開示する側で秘密保持契約書の契約書案を作成する

秘密の範囲が特定できたら、秘密保持契約書の契約書案を作成します。
秘密保持契約書の契約書案は、秘密を開示する側の企業が作成することが一般的です。
契約書案

双方が記名押印する

秘密保持契約書を作成したら、秘密を開示する企業と開示を受ける企業の双方が内容を確認したうえで、記名押印します。
秘密保持契約書は2通作成し、当事者双方が1通ずつ保有することが一般的です。

秘密保持契約書の記載項目と注意点

秘密保持契約書を作成する際は、どのような点に注意すればよいでしょうか?
ここでは、秘密保持契約書の主な記載項目と注意点について解説します。

  • 契約の目的を明確にする
  • 開示する秘密を特定する
  • 契約の有効期間を定める
  • コピーや複製物の取り扱いについて明確に定める
  • 情報漏洩時の措置を明記する
  • 開示した秘密情報をもとに開発した成果物に知的財産権の取り扱いについて記載する
  • 権利義務の譲渡禁止を明記する

契約の目的を明確にする

秘密保持契約書では、秘密情報の使用目的を明確にします。
そのうえで、その目的以外での使用を禁止する旨を記載します。

目的の特定が曖昧である場合は、開示企業から見れば明らかな目的外使用であっても、相手企業に「目的の範囲内である」などと主張されるリスクがあります。

開示する秘密を特定する

秘密保持契約書では、開示する情報のうちどの情報が秘密情報であるのかを特定する必要があります。

秘密情報の開示を受ける企業としては、秘密情報に該当する情報の範囲をできるだけ狭くしたいと考えます。
なぜなら、秘密情報である以上は厳格な管理が必要であり、管理のためにコストや労力を要することとなるためです。

一方、情報を開示する企業としては、秘密の範囲をできるだけ広くしたいことでしょう。
しかし、開示するすべての情報を秘密情報とすることはおすすめできません。
なぜなら、秘密情報の範囲が広すぎる場合は秘密の範囲が事実上特定されていないと考えられ、漏えいや不正利用時の損害賠償請求などが困難となる可能性があるためです。

そのため、秘密情報について「秘密情報とは、甲が乙に開示し、かつ開示の際に秘密情報である旨を明示した技術上又は営業上の情報、本契約の存在及び内容その他一切の情報」など、情報の範囲を広く定めたうえで「秘密情報である旨を明示した」などの限定を付けて定義することが一般的です。

そのうえで、実際に個々の情報を開示する際は文書や電子メールなどに「秘密情報」である旨を明記したうえで開示を行います。

契約の有効期間を定める

秘密保持契約書では、契約の有効期間を定めます。

秘密保持契約書は他の基本契約(業務提携契約など)に附帯して作成されることが多く、この有効期間も基本契約に準じることとしたうえで、期間満了時までに双方から何らかのアクションがなければ更新するとの自動更新を付けることが一般的です。

そのうえで、秘密保持義務のみは契約期間の満了後も一定期間継続すると定めることも少なくありません。

併せて、契約期間満了時には情報の破棄や返還をする旨も定めます。

コピーや複製物の取り扱いについて明確に定める

秘密保持契約書では、開示した情報のコピーなど複製物の取り扱いについても明記しておきましょう。
具体的には、むやみに複製やコピーが出回ることのないよう、「秘密情報の複製は、本取引の目的の範囲内に限って行う」など複製自体を制限する規定を設けます。
そのうえで、「複製物は原本と同等の保管及び管理をする」など、複製物を厳重に取り扱う旨の規定を設けておくことが必要です。

情報漏洩時の措置を明記する

秘密保持契約書における最大のポイントは、情報漏洩時の措置に関する項目を明記して、万が一漏えいや不正利用が発生した場合の対応をスムーズにすることです。

情報を開示する側としては、漏洩が発覚した場合、直ちに情報開示者に報告することを求めたうえで、不正利用や漏えいの差し止めを希望することでしょう。
そのため、相手方が契約に違反した場合や違反するおそれがある場合において、そのことを直ちに情報開示者に報告する旨を定め、開示した秘密情報の返還を求められる旨や、使用の差止請求ができる旨を明記することが一般的です。

また、損害賠償請求についても相手企業の責任(帰責性)の有無を問わず可能としたうえで、賠償請求ができる損害の範囲も通常の損害に加え逸失利益や訴訟関連費用などの特別損害についても対象とするなど、できるだけ広く定めることとなります。

開示した秘密情報をもとに開発した成果物に知的財産権の取り扱いについて記載する

たとえば、共同開発などを目的として秘密情報を開示する際は、その秘密情報をベースとして開発をした成果物の知的財産権の取り扱いについても明記しておくとよいでしょう。

この点をあらかじめ明確にしておかなければ、秘密情報をベースにして開発された成果物の知的財産権がどちらに帰属するかなどについて、後に法的紛争となるおそれがあるためです。

権利義務の譲渡禁止を明記する

秘密保持契約を締結するにあたっては、契約上の権利義務の譲渡や再委託の可否についても定めておきましょう。
契約上の権利義務自体が譲渡されてしまうと事実上秘密情報が他社に漏えいする危険性があるため、契約上の権利義務の譲渡を禁じる旨の規定を入れることが一般的です。

また、相手企業が秘密情報の開示を伴う業務の再委託を希望する場合もあります。
これに備えて、再委託を許諾するかどうかや許諾する場合の手続き(開示企業の書面による承諾を要するとするなど)、再委託先にも同等の秘密保持義務を負わせること、相手企業が再委託先における情報管理についての監督義務を負うことなどについても定めておくと安心です。

秘密保持契約書に収入印紙は必要?

収入印紙とは、印紙税を納付するために契約書に貼付する証紙です。
印紙税の課税対象となる契約書には、収入印紙を貼付しなければなりません。
では、秘密保持契約書に収入印紙の貼付は必要なのでしょうか?

原則として、秘密保持契約書に収入印紙を貼付する必要はありません。
なぜなら、印紙税は所定の課税対象文書にのみ課されるものであるところ、秘密保持契約書はこの課税対象文書に含まれていないためです。

ただし、課税対象文書に該当するかどうかは契約書のタイトルのみで判断されるのではなく、契約書の内容によって判断されます。
そのため、たとえタイトルが「秘密保持契約書」であったとしても、内容に課税対象文書に該当する要素が含まれている場合は収入印紙の貼付が必要となります。

まとめ

自社の秘密情報を他の企業に開示する際は、あらかじめ秘密保持契約書を取り交わすことが原則です。
秘密保持契約を締結することで開示する情報が秘密情報であることが明確となり、漏えいの抑止力となります。

また、万が一情報の漏えいが発生した際に、損害賠償請求がしやすくなる効果も期待できます。
秘密保持契約では対象とする「秘密」の範囲を特定したうえで、情報漏洩時の措置などを明記しましょう。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

川崎 賢介

(大阪弁護士会)

関西大学法学部法律学科卒業、東海大学法科大学院修了。リース事業や太陽光事業の企業法務をはじめ、不動産法務、離婚や相続などの家事事件、インターネットにおける誹謗中傷・人権侵害等の被害者救済などの刑事事件に積極的に取り組んでいる。

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