株式を売買する際は、「株式譲渡契約書」を作成します。
株式譲渡契約書は、どのように作成すればよいのでしょうか?
また、株式譲渡契約書の作成時にはどのような点に注意する必要があるでしょうか?
今回は、株式譲渡契約書の作成方法や主な記載項目、注意点などについて弁護士が詳しく解説します。
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株式譲渡契約書とは
株式譲渡契約書とは、株式を譲渡(売買)する際に取り交わす書面です。
株式を譲渡する場面はさまざまであり、たとえば次のケースなどが考えられます。
- 事業承継の一環で、現経営者から後継者に株式を移転する場合
- M&Aのため、A社のオーナー株主が所有しているA社株式を別のB社に移転する場合
なお、株式の譲渡は、次の2点において通常の物の譲渡とは異なります。
- 株券発行会社の場合、株券の交付が必要となる
- 発行会社その他の第三者に対する対抗要件を具備するためには株主名簿の書き換えが必要となる
株券発行会社の場合、株券の交付が必要となる
1つ目の違いは、譲渡対象が株券発行会社の株式である場合、譲渡の効力を生じさせるには、相手に株券を交付する必要があることです(会社法128条)。
ただし、2023年現在において、株券発行会社はさほど多くありません。
対抗要件具備のためには株式名簿の書き換えが必要となる
2つ目の違いは、株式の譲渡は当事者間で契約が成立しても、それのみでは不十分である点です。
株式の譲渡を発行会社その他の第三者に対抗するには、株式を取得した者の氏名(又は名称)と住所を株主名簿に記載してもらわなければなりません(同130条1項)。
株式譲渡契約書の作成方法
株式譲渡契約書の作成は、次の流れで行うことが一般的です。
なお、株式を譲り渡す側を「譲渡人」といい、株式を取得(購入)する側を「譲受人」といいます。
- 譲渡制限に関する定款の規定を確認する
- 譲渡適正額を算定する
- 株式譲渡に関する交渉をまとめる
- 株式譲渡契約書のたたき台を作成する
- 双方が署名押印する
譲渡制限に関する定款の規定を確認する
はじめに、譲渡対象となる株式に「譲渡制限」が付されているかどうか、株式の発行会社に確認します。譲渡制限については会社の定款や登記簿でも確認できます。
譲渡制限とは、株式を譲渡するにあたって発行会社の承認を得る必要がある旨の規定です。
非上場会社では予期せぬ者が株主となる事態を防ぐため、ほとんどの会社で定款の定めにより株式の譲渡制限規定を設けています。
譲渡制限規定が設けられている場合は、株式を譲渡するにあたって、あらかじめ取締役会設置会社の場合は発行会社の取締役会(取締役会非設置会社では株主総会)の承認を得なければなりません。会社の承認がない場合には、当事者間では有効ではあるものの、会社に対する関係では効力を生じないと解されています。
そのため、A社が所有しているX社株式を別のB社に移転しようとする場合、まずX社がその株式に譲渡制限を付しているかどうかを確認することが必要です。
そのうえで、譲渡制限が付されている場合は、あらかじめX社の承認を得る手続きを踏む必要があります。
譲渡適正額を算定する
次に、株式の譲渡適正額を算定します。
発行会社が上場会社などでない限り、株式の時価を簡単に算定することはできません。
そのため、株式の譲渡適正額は、その会社の財務状況などを元に、公認会計士や税理士など外部の専門家に試算してもらうことが一般的です。
また、一定の場合などには、譲受人がデューデリジェンスを行って譲渡適正額を検討することもあります。
デューデリジェンスとは、株式の譲渡やM&Aなどをするにあたって、事前に会社の財務状況や法務リスクなどをつぶさに調査することです。
なお、譲受人が譲渡人の子など身内である場合には、無償や低額で株式を譲渡したいと考えるかもしれません。
しかし、無償や低額で株式を譲渡してしまうと贈与税の課税対象となるなど、税務上の問題が発生する可能性があります。
そのため、たとえ譲受人が近しい親族などである場合でも、あらかじめ税理士などに株式の時価を算定してもらったうえで売買価格を検討することが一般的です。
株式譲渡に関する交渉をまとめる
譲渡適正額が算出されたら、これを踏まえて当事者間で株式譲渡に関する交渉をまとめます。
株式の譲渡契約においては、株式の譲渡対価をいくらとするのかが最大の交渉ポイントとなります。
そのため、特に譲渡対価が高額となる場合や譲渡スキームによっては弁護士などのサポートを受けつつ、慎重に交渉を進める必要があります。
株式譲渡契約書のたたき台を作成する
譲渡対価など大枠の交渉がまとまったら、両者で合意した事項を踏まえて株式譲渡契約書のたたき台を作成します。
個別事情に即した契約書の作成をご希望の際は、Authense法律事務所まで個別にご相談ください。
双方が署名押印する
株式譲渡契約書のたたき台を双方が確認し内容に問題がなければ、当事者双方が契約書に署名押印をします。
なお、署名ではなく記名(印字やスタンプ印など)であっても構いません。
株式譲渡契約書は2通作成したうえで、譲渡人と譲受人が各1通保管します。
株式譲渡契約書の主な記載事項と注意点
株式譲渡契約書には、どのような事項を記載する必要があるのでしょうか?
ここでは、主な記載事項と各項目の注意点について解説します。
- 譲渡する株式を特定する情報
- 譲渡対価と支払方法
- 株主名簿の書き換えに関する事項
- 譲渡実行前提条件
- 表明保証
- 契約の解除に関する事項
譲渡する株式を特定する情報
株式譲渡契約書には、譲渡する株式を特定するために必要な情報を記載します。
主に記載すべき事項は次のとおりです。
- 発行会社名:一般的には会社名で特定する。ただし、社名のみで特定が難しい可能性がある場合は本店所在地などを併せて記載することもある
- 株式の種類:通常は「普通株式」。ただし、譲渡対象が種類株式である場合は、その種類株式の内容
- 譲渡する株式数:「100株」など、明確に記載する
ここは、譲渡対象がどの会社が発行するどの株式であり何株なのか、第三者が見ても明確に判別できるように記載することがポイントです。
譲渡対価と支払方法
株式譲渡契約書には、譲渡対価とその支払期限、支払方法を明記します。
支払期限は、株主名簿の書き換えと同時とするのが基本です。
なお、株式の対価を授受したり譲渡人から譲受人に株式の名義を変えたりする株式譲渡取引を実行する手続きを「クロージング」といい、このクロージングは株式譲渡契約後数週間から1か月程度先の日付とすることが一般的です。
株主名簿の書き換えに関する事項
先ほど解説したように、株式の譲渡を発行会社その他の第三者に対して対抗(主張)するには、株主名簿の書き換えが必要です。
株式譲渡契約の中で譲渡人にとってもっとも重要なポイントは、譲渡対価を約束どおり受け取ることでしょう。
一方、譲受人にとってもっとも重視すべき点は、株主名簿を自身の名義に書き換えることです。
そのため、株式譲渡契約書には、譲渡人が株主名簿の書き換えに協力すべき義務を定めることが一般的です。
譲渡実行前提条件
株式譲渡契約書には、譲渡を実行する前提条件を記載することがよく行われています。
株式は物とは異なり、目に見えるものではありません。
そのため、特に株式の譲受人の立場としては譲渡契約の前提となっている重要な事項が揺らいだ場合、株式の取得を見送りたいと考えることでしょう。
また、そもそも前提条件を充足していなければ、株式の譲渡が実現できないこともあります。
譲渡に合意した前提となっている事項を株式譲渡契約書に定め、この事項が揺らいだ場合には契約を履行する義務を負わない旨を定めます。
譲渡実行の前提条件として記載すべき事項は、譲渡契約の目的状況によって大きく異なるものの、たとえば次の事項などが考えられます。
- 譲渡対象の株式に譲渡制限が付されている場合、発行会社において譲渡の承認がなされること
- 株式の譲渡が発行会社の保有する許認可に影響する場合において、各許認可で定められている手続きを踏んでいること
- 重要な書類が引き渡されること
株式の譲渡において、株式の譲渡を実行するにあたっての前提条件の設定は非常に重要なポイントとなります。
その株式の売買をする自社にとっての目的を踏まえ、どのような内容を前提条件として定めるかをさまざまな角度から慎重に検討する必要があります。
表明保証
「表明保証」は、株式譲渡契約書に特有である項目です。
表明保証とは、譲渡対象である株式自体や発行会社について、一定の事項が真実かつ正確であることを譲渡人が保証することを指します。
どのような内容を表明保証の対象とするかは、デューデリジェンスの結果を踏まえて決めることが一般的です。
譲渡対象となる株式の発行会社が譲渡人である企業の子会社などである場合、譲渡人と譲受人の間で発行会社に関する情報が偏在しています。
そのため、譲渡人に表明保証をさせることで、デューデリジェンスの結果、譲受人が知り得なかった事態が後に判明した際に、譲渡人に責任を負わせることが可能となります。
表明保証の対象とすべき主な項目は、次のとおりです。
- 発行会社の財務状態
- 譲渡対象株式の状態と内容
- 発行会社が保有する知的財産に関する事項
譲渡人の立場では、表明保証の対象となる項目をできるだけ少なくした方がリスクを低減できます。
一方、譲受人の立場では、表明保障の項目をできるだけ多くすることを目指すことが基本です。
契約の解除に関する事項
契約締結後、クロージング日までの間に一定の事態が生じた場合に備え、株式譲渡契約書では契約の解除に関する事項を定めることが一般的です。
たとえば、次の場合などに契約を解除できる旨の規定を入れることが考えられます。
- 相手の契約違反があった場合
- 譲渡実行前提条件が充足できなかった場合
- 対象会社に重大な事情変更があった場合
- 天変地異などの不可抗力が生じた場合
それぞれ自社の希望や立場を踏まえつつ、解除できる項目を検討する必要があります。
株式譲渡契約書に収入印紙は必要?
印紙税とは、契約書や領収証などの文書に課される税金です。
契約書が印紙税の課税対象である場合、契約書に税額分の収入印紙を貼付しなければなりません。
では、株式譲渡契約書に収入印紙の貼付は必要なのでしょうか?
結論としては、株式譲渡契約書には原則として収入印紙の貼付は必要ありません。
なぜなら、収入印紙は所定の課税対象文書に対してのみ貼付する必要があるところ、株式譲渡契約書は課税対象文書として挙げられていないためです。
ただし、その契約書が売買代金の受取書としての役割を兼ねている場合は印紙税法上の17号文書(売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書)に該当し、受取金額に応じて収入印紙の貼付が必要となります。
契約書の作成をご希望の際は、Authense法律事務所まで個別にご相談ください。
まとめ
株式譲渡契約書とは、株式の譲渡にあたって譲渡人と譲受人との間で取り交わす契約です。
この記事では、子会社など他社の株式を譲渡する全体で解説したものの、実際に株式を譲渡する場面はさまざまです。
株式を譲渡する事情や状況、譲渡人と譲受人との間の関係性などによって記載すべき項目や注意点は異なります。
そのため、実際に株式を譲渡する際はその状況に合った注意点を踏まえ、契約書を作成するようにしてください。
とはいえ、自社で一から株式譲渡契約書を作成することには多大な労力がかかるため、雛形がほしいと考える場合も多いでしょう。
個々の事情に即した契約書の作成をご希望の際は、Authense法律事務所までご相談ください。
記事監修者
Authese Professional Group記事監修チーム
Authense Professional Groupに所属している有資格者が監修し、ビジネスにまつわる諸問題や事例についてわかりやすく解説しています。 Authense Professional Groupは、「すべての依頼者に最良のサービスを」をミッションとして、ご依頼者の期待を超えるリーガルサービスを追求いたします。どうぞお気軽にご相談ください。
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