2023.12.18BusinessTopics

インフレ手当の支給方法は?一時金・月額手当・賞与にするメリット・デメリットを解説

労務

物価の上昇が家計を圧迫する中、インフレ手当を支給する企業が増えています。
インフレ手当とは、インフレに対応するためそれぞれの企業が独自に支給する手当です。

では、インフレ手当はどのように支給すればよいのでしょうか?
今回は、インフレ手当の概要や支給方法などについて弁護士が詳しく解説します。

目次
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インフレ手当とは

インフレ手当とは、昨今の厳しい物価上昇(インフレ)に対応するため、各企業が独自に支給する手当のことです。
インフレ手当は法令で定められた用語ではなく、「物価手当」など別の名称で支給している企業もあります。

株式会社東京商工リサーチの調査によると、インフレを理由として2023年2月までに一時金等の支給や賃金引き上げを公表した上場企業は68社でした。

このうち、一時金としてのインフレ手当の支給をした企業は41社でした。
その中で支給金額が判明した25社の平均額は6万7,120円(中央値5万円)、10万円以上を支給する企業も8社あったとされています。

なお、インフレ手当を支給している68社を業種別に見ると、最多は製造業(17社・構成比25.0%)であり、次いで情報通信業(15社・構成比22.0%)でした。

インフレ手当を支給する企業のメリット

インフレ手当を支給すると、企業には経費がかかります。
それでもインフレ手当を支給することに関して、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?
企業がインフレ手当を支給する主なメリットは次のとおりです。

  • 社会の公器としての役割が果たせる
  • 従業員のモチベーションが向上する
  • 企業イメージが向上する
  • 従業員の離職を避けやすくなる

社会の公器としての役割が果たせる

「企業は社会の公器である」とは、パナソニックの創業者である松下幸之助氏が残した企業の社会的価値を示すことばです。
急激な物価上昇で家計が圧迫されている局面で、インフレ手当を支給して従業員やその家族の生活を守ることは、「社会の公器」である企業として担うべき役割を果たすことへとつながります。

従業員のモチベーションが向上する

物価上昇で生活が苦しい中、インフレ手当を支給することで、従業員は「会社に生活が守られている」との意識を持ちやすくなります。
その結果、従業員のモチベーションが向上し、業績アップにつながる効果を期待できます。

企業イメージが向上する

インフレ手当の支給は、企業にとって義務ではありません。
そうであるにも関わらず、率先してインフレ手当を支給することで、従業員を大切にする企業であるとの印象がつき、企業イメージが向上する効果を期待できます。
ひいては企業のファンが増える可能性があるほか、求人の際に有利となり得ます。

従業員の離職を避けやすくなる

インフレ手当を支給することで、従業員の企業へのエンゲージメントが向上につながる可能性があります。
その結果、離職者が減り人材が安定する効果を期待できます。

インフレ手当を支給する方法1:一時金での支給

インフレ手当を支給する方法には、主に一時金での支給と月額手当での支給、賞与での支給の3つが考えられます。
ここからは、支給方法ごとのメリットとデメリットを解説します。

まずは、インフレ手当を臨時の一時金で支給する主なメリットとデメリットは、次のとおりです。

メリット

インフレ手当を臨時の一時金で支給する主なメリットは、次のとおりです。

  • 任意のタイミングで支給できる
  • 継続的な給付が必要ない
  • 残業代計算の基礎に含まれない

任意のタイミングで支給できる

臨時の一時金でインフレ手当を支給する場合、賞与の支払い時期などに関わらず任意の時期に支給することが可能です。
そのため、一時金で支給したいものの、次回の賞与のタイミングを待つと時期を逸する恐れがある場合は、臨時の一時金での支給を検討することとなります。

継続的な給付が必要ない

月額手当での支給とは異なり、臨時の一時金であれば継続的な給付は必要ありません。
そのため、インフレ手当の支給に必要な資金を見積もりやすくなります。

残業代計算の基礎に含まれない

インフレ手当を臨時の一時金として支給する場合は、残業代計算の基礎には含まれません。
なぜなら、法令により「臨時に支払われた賃金」は割増賃金の基礎に含まれないとされているためです(労働基準法37条5項、労働基準法施行規則21条4号)。

臨時に支払われた賃金とは「臨時的・突発的事由にもとづいて支払われたもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、且つ非常の稀に発生するもの」(昭和22年9月13日発基17号)を指し、支給が一度きりの場合は、インフレ手当はこれに該当する可能性があります。

デメリット

インフレ手当を臨時の一時金で支給するデメリットとして、支給の手間が生じることが挙げられます。
インフレ手当を賞与とは異なる時期に臨時で支給する場合は、平常時とは異なる給与計算や支給の手間が増加します。

インフレ手当を支給する方法2:月額手当での支給

次に、インフレ手当を月々の給与に上乗せして支給する方法のメリットとデメリットは、それぞれ次のとおりです。

メリット

インフレ手当を月々の給与に上乗せして支給するメリットは、従業員の生活をより守りやすくなることです。
インフレはガソリン価格や食材など生活におけるあらゆる部分に広がっており、一時的な支給のみで対応できるものではありません。
継続的な支給とすることで、従業員がより安心して生活しやすくなります。

デメリット

インフレ手当を給与に上乗せして月額手当で支給する主なデメリットは次のとおりです。

  • 就業規則の改訂が必要となる
  • 残業代計算の基礎となる

就業規則の改訂が必要となる

インフレ手当を月額手当として支給するには、原則として就業規則を改訂しなければなりません。
賃金に関する事項は、就業規則の「絶対的記載事項」とされているためです(労働基準法89条2号)。
また、改訂後には所轄の労働基準監督署長への届出も必要となります(労働基準法89条、労働基準法施行規則49条1項)。

残業代計算の基礎となる

インフレ手当を月額手当とする場合は、これも残業代計算の基礎に含まれることとなります。
残業代計算の基礎には含まれない手当は法令で限定列挙されており、月額払いのインフレ手当はここに挙げられているものに該当しないためです(労働基準法37条5項、労働基準法施行規則21条)。

インフレ手当を支給する方法3:賞与での支給

インフレ手当を支給する3つ目の方法は、賞与に上乗せして支給する方法です。
この方法のメリットとデメリットはそれぞれ次のとおりです。

メリット

インフレ手当を賞与に上乗せして支給することの主なメリットは、次のとおりです。

  • 就業規則の改訂が不要である
  • 賞与のタイミングごとに支給の有無を決められる
  • 残業代計算の基礎に含まれない

就業規則の改訂が不要である

支給している賞与に上乗せしてインフレ手当を支給する場合、原則として就業規則の改訂は必要ありません。
ただし、就業規則に賞与の算定方法を厳密に定めている場合などは、例外的に改訂が必要となる可能性があります。

賞与のタイミングごとに支給の有無を決められる

賞与に上乗せをしてインフレ手当を支給する場合は、インフレ手当を支給するかどうかについて、賞与を支給するタイミングで都度フレキシブルに検討することが可能です。

残業代計算の基礎に含まれない

原則として、賞与は残業代計算の基礎に含まれません。
賞与は、残業代計算の基礎にならないものとして挙げられている「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当するためです(労働基準法37条5項、労働基準法施行規則21条5号)。
そのため、賞与に上乗せして支給したインフレ手当も、残業代計算の基礎には含まれません。

デメリット

インフレ手当の支給を賞与として行う場合、賞与規定がなければ、就業規則の改訂が必要になるでしょう。

インフレ手当に関するよくある疑問

最後に、インフレ手当に関するよくある質問とその回答を紹介します。

インフレ手当を支給するために就業規則の改訂は必要?

インフレ手当を支給するために就業規則の改訂が必要であるかどうかは、ケースバイケースです。

月額手当でインフレ手当を支給する場合は原則として就業規則の改訂が必要となる一方で、臨時的な一時金で支給する場合や賞与への上乗せで支給する場合は就業規則の改訂は必要ないことが多いといえます。

ただし、実際には就業規則の内容やインフレ手当の支給内容などによって異なるため、あらかじめ労働法務に強い弁護士や社会保険労務士へご相談ください。

正社員にのみインフレ手当を支給してもよい?

正社員のほかにパート従業員やアルバイト従業員などを雇用している場合、正社員のみにインフレ手当を支給することは「同一労働同一賃金の原則」に違反する可能性が高く、問題となる可能性があります。

同一労働同一賃金とは、同一企業における、いわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の解消を目指す考え方であり、パートタイム・有期雇用労働法が根拠となっています。
そのため、業務内容に相違がないにもかかわらず、インフレ手当を正社員のみに支給することは避けた方がよいでしょう。

何らかの事情により、正社員など一定の従業員に限定して支給したい場合は、労働法務に強い弁護士などへご相談ください。

インフレ手当は継続しなくてもよい?

インフレ手当を継続的に支給すべきであるかどうかは、就業規則の規定などによります。
特に月額手当で支給する場合はベースアップであると捉えられる可能性が高く、就業規則の定め方には注意しなければなりません。

インフレ手当は社会保険料の算定対象となる?

インフレ手当はその支給方法によらず、原則として社会保険料の算定対象となると考えられます。
また、月額手当として支給する場合は固定的賃金の変動に該当し、インフレ手当の支給を開始した時点において随時改定(月額変更届)の対象になります。

まとめ

インフレ手当とは、従業員やその家族が物価上昇(インフレ)に対応できるようにするため、企業が任意に支給する手当です。
インフレ手当を支給することで従業員のエンゲージメントが高まるほか、企業イメージが向上する効果が期待できます。

ただし、インフレ手当は支給方法によっては就業規則の改訂が必要となる可能性があるほか、残業代計算の基礎となる可能性もあります。
そのため、インフレ手当を支給する際は、労働法務に詳しい弁護士や社会保険労務士へ相談のうえ、支給方法を検討してください。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

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