2024.04.09BusinessTopics

株主割当ての場合の新株予約権の発行方法は?手続きとスケジュールを弁護士が解説

会社法

新株予約権の発行には、主に「株主割当てによる方法」と「株主割当て以外の方法」の2つがあります。

では、株主割当てによる新株予約権の発行には、どのような手続きが必要なのでしょうか?

また、それぞれの手続きはどのようなスケジュールで行えばよいのでしょうか?
今回は、公開会社である取締役会設置会社が株主割当てにより新株予約権を発行する場合に必要となる手続きと、スケジュールの例について弁護士が詳しく解説します。

目次
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新株予約権とは

新株予約権とは、発行時にあらかじめ定められた所定の要件によって、発行会社の株式の取得ができる手続きです。

たとえば、A社の株式を1株100円で取得できる新株予約権を有している者(「新株予約権者」といいます)は、これを行使することで、その時点における実際のA社の市場での株価に関わらずA社株を1株100円で取得することができます。
行使時点でA社株が1株1,000円となっている場合でも、新株予約権者は1株100円で購入することができます。
そのため、新株予約権を行使することによって、新株予約権者は市場価格と行使価格との差額分の利益を得られます。

新株予約権の活用目的はさまざまですが、次の用途などで用いられることが多いでしょう。

  • 従業員や役員へのインセンティブとして:従業員や役員に対して無償で新株予約権を交付するものです。業績が向上して株価が上がるとそれだけ新株予約権者である従業員や役員が利益を得られるため、会社に貢献してもらいや少なる効果が期待できます
  • 資金調達の手段として:投資家や投資ファンドに新株予約権を交付し、資金の拠出を受けるものです。将来その会社の業績が向上すれば投資家等が利益を得やすいため、出資を受けやすくなる効果が期待できます
  • 買収防衛策として:新株予約権の内容を工夫することで、買収防衛策として活用する方法があります。たとえば、保有株式割合が一定以下である株主だけが新株予約権を行使できるとすることで買収を試みようとする者の株式保有割合を相対的に引き下げる効果が期待できます

このように、新株予約権はさまざまな用途で活用できます。
新株予約権の発行時には目的に合った設計が必要となるため、弁護士などの専門家にご相談ください。

新株予約権発行手続きの2パターン

新株予約権の発行には、株主割当てによるものと株主割当て以外のものの2つがあります。
ここでは、それぞれの概要について解説します。

株主割当て

株主割当てとは、既存の株主に対して募集新株予約権の割当てを行う手続きです。

株主割当てでは、どの時点の株主に対して新株予約権を割り当てるのかを明確にするため、「基準日」を定めることが多いといえます。
この基準日時点の株主に対して、基準日時点の保有株式数に応じて新株予約権を割り当てます。

しかし、新株予約権を取得するためには一定額の払い込みが必要となることが原則であるため、新株予約権の取得を希望しない株主もいるでしょう。
そのため、申込期日を定め、その申込期日までに申込みをした株主だけが新株予約権者となります。

株主割当て以外

株主割当て以外の新株予約権とは、文字どおり「株主割当て」以外の方法による新株予約権の発行です。
市場で広く申込者を募る場合もあるほか、所定の者との間で総数引受契約を締結することによって行う場合もあります。

株主割当ての場合における新株予約権の発行スケジュール例

株主割当てにより新株予約権を発行するには、どのような手続きをどのようなスケジュールで行えばよいのでしょうか?
ここでは、取締役会設置会社である公開会社が株主割当ての方法により新株予約権を発行する場合のスケジュールの例を紹介します。

日程 手続
9/27 取締役会決議(募集事項の決定、基準日の設定)
同日 有価証券届出書の提出(金融商品取引法上必要な場合)
同日 適時開示
同日 保振機構への通知
10/15 基準日公告
10/31 基準日
11/3 株主への通知
目論見書の交付(金融商品取引法上必要な場合)
申込みをしようとする者に対する通知
11/14 申込期間(申込み)
~11/19 申込期日
11/22 割当日(新株予約権発行日)
新株予約権原簿の作成
新株予約権証券の発行
12/3 変更の登記

なお、新株予約権の発行に必要となる手続きや適切なスケジュールは、会社が公開会社であるかどうかのほか、会社の定款の定めや新株予約権を発行する目的など状況によって異なる可能性があります。
そのため、実際に株主割当てにより新株予約権を発行しようとする際は、機関法務に詳しい弁護士へ相談のうえ、必要な手続きの洗い出しやスケジュールの設定を行うとよいでしょう。

募集事項の決定等

はじめに、新株予約権の募集事項の決定を行います。
募集事項の決定は、次の機関によって行います(会社法241条3項)。

  • 公開会社の場合:取締役会の決議
  • 公開会社以外の場合
    • 原則:株主総会の特別決議
    • 定款の別段の定めがある場合:取締役会決議または取締役の決定(取締役会非設置会社の場合)

株主割当てによる新株予約権の募集では、次の事項などを決定します(同238条1項、241条1項)。
なお、実際にはこれらの決定に加え、どの時点における株主に対して新株予約権を割り当てる権利を与えるかを明確とするために、基準日も定めるのが一般的です。

  1. 募集新株予約権の内容と数
  2. 募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
  3. 「2」以外の場合には、募集新株予約権の払込金額(募集新株予約権1個と引換えに払い込む金銭の額)またはその算定方法
  4. 割当日(募集新株予約権を割り当てる日)
  5. 募集新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日
  6. 株主に対し、申込みをすることによって募集新株予約権の割当てを受ける権利を与える旨
  7. 募集新株予約権の引受けの申込みの期日

このような募集事項の決定をすることで、会社は株主の持ち株数に応じて募集新株予約権の割当てができるようになります。

ただし、その会社自身が有する株式(自己株式)については、新株予約権の割り当てはできません。
また、株主に対して割り当てる新株予約権の数に1に満たない端数が生じるときは、その端数は切り捨てると定められています(同241条2項)。

なお、会社が種類株式を発行している場合において、新株予約権の株主割当てがある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、新株予約権発行の効力を発生させるために、原則としてその種類株主総会の特別決議を経なければなりません(同322条1項)。
ただし、定款に種類株主総会の特別決議を不要とする旨を定めることができ、このような定めがある場合は、種類株主総会は不要となります(同2項、3項)。
また、定款にこのような定めがない場合であっても、議決権の行使ができる種類株主がいない場合も種類株主総会による特別決議は不要です。

有価証券報告書の提出等

新株予約権を引き受ける者の募集が金融商品取引法上の「有価証券の募集」にあたる場合、会社は原則として基準日の25日前までに、内閣総理大臣(財務局長等)に対して有価証券届出書を提出しなければなりません(金商法4条4項)。
併せて、上場会社である場合にはEDINET(金融証券取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)を通じて有価証券届出書を提出した場合を除き、有価証券届出書の写しを遅滞なく証券取引所に提出も必要となります。

また、有価証券届出書の提出が不要とされる場合であっても、一定の場合には、「有価証券通知書」の提出が必要です(同4条6項)。
金商法上の手続きは会社の状態や募集する新株予約権の内容などによって異なるため、個々のケースに応じて必要となる手続きについて弁護士にご相談ください。

適時開示

適時開示とは、有価証券の投資判断に重要な影響を与える会社の情報を、「有価証券上場規程」などの定めに従って公表することです。

上場会社である場合、取締役会において新株予約権の募集事項の決定等がされた後、直ちにその内容を開示しなければなりません(上場規程402条1号a)。
併せて、証券取引所に対して、所定の書類の提出も必要です。
また、会社が基準日を設定した場合は、これについても別途証券取引所に対して書類を提出しなければなりません。

なお、先ほど解説した有価証券届出書の提出が必要である場合、届出書の提出前に勧誘などの行為が禁止されます。
通常の適時開示は原則としてこの勧誘行為にはあたりませんが、その内容によっては勧誘行為にあたる可能性もゼロではありません。
無用なトラブルを避けるため、適時開示は、有価証券届出書の提出後に行うとよいでしょう。

保振機構への通知

振替株式を発行している会社が、新株予約権の株主割当てをするにあたって基準日を設定した場合、速やかに(かつ、基準日の2週間前までに)その内容を保振機構に通知しなければなりません。

基準日公告

基準日を設定した場合、基準日の2週間前までに基準日公告をしなければなりません(会社法124条3項)(定款に当該基準日及び当該事項について定めがあるときを除く)。
基準日公告では、次の事項を公告します。

  1. 基準日
  2. その基準日時点の株主に募集新株予約権を割り当てる旨

株主への通知

会社は、申込期日の2週間前までに、株主に対して次の事項を通知しなければなりません(同241条4項)。

  1. 募集事項
  2. その株主が割当てを受ける募集新株予約権の内容と数
  3. 申込期日

目論見書の交付

新株予約権の簿中にあたって有価証券届出書を提出する必要がある場合は、会社は目論見書を作成し、これを交付または電磁的方法での提供をしなければなりません(金商法15条2項)。
目論見書の交付等は、新株予約権を取得させる前または取得させるのと同時に行う必要があります。

申込みしようとする者への通知

会社は、募集に応じて新株予約権引受けの申込みをしようとする者に対して、次の事項を通知しなければなりません(会社法242条1項)。
ただし、目論見書を交付している場合は、この通知は不要です(同4項)。

  1. 株式会社の商号
  2. 募集事項
  3. 新株予約権の行使に際して金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
  4. その他法務省令で定める一定の事項

実務上、この通知は先ほど解説した「株主への通知」と同時に行われることが一般的です。

なお、通知した内容について通知後に変更が生じた際は、変更後直ちに申込者に対して通知しなければなりません(同5項)。

申込み

募集に応じて新株予約権の申込みをする者は、会社に対して次の事項を記載した書面等を交付しなければなりません(同242条2項)。

  1. 氏名または名称と、住所
  2. 引き受けようとする新株予約権の数

新株予約権の株主割当てでは、株主が基準日における保有株式数に応じて新株予約権の割当てを受ける権利を有するものの、申込期日までにこの申し込みをしない場合、新株予約権の割当てを受ける権利を喪失します(同243条4項)。

割当日

申込期日までに新株予約権の申込みをした株主は、あらかじめ定めた割当日の到来をもって、募集新株予約権の新株予約権者となります(同245条1項)。

新株予約権原簿の作成

割当日後遅滞なく、会社は新株予約権原簿を作成し、一定の事項を記載等しなければなりません(同249条)。

記載等をすべき事項は、新株予約権証券の発行の有無や、発行された新株予約権証券が記名式であるか無記名式であるかなどによって異なります。
新株予約権証券を発行しない場合の記載事項は、次の事項などです。

  • 新株予約権者の氏名または名称と、住所
  • その新株予約権者の有する新株予約権の内容と数
  • その新株予約権者が新株予約権を取得した日

作成した新株予約権原簿は、会社の本店に備え置かなければなりません(同252条1項)。
ただし、株主名簿管理人がいる場合は、株主名簿管理人の事務所に据え置くこととなります。

新株予約権証券の発行

会社が新株予約権の内容として定めることで、新株予約権証券を発行できます(同236条1項10号)。

ただし、振替新株予約権である原則として、新株予約権証券を発行できません。
新株予約権の内容に新株予約権証券を発行する旨の定めがある場合は、会社は割当日の後遅滞なく、新株予約権証券を発行しなければなりません(同288条1項)。
ただし、新株予約権者から請求があるときまで、新株予約権証券の発行をしないことも可能です(同2項)。

新株予約権証券には、次の事項を記載したうえで、会社の代表取締役が署名または記名押印をしなければなりません(同289条)。

  1. 会社の商号
  2. 新株予約権の内容と数
  3. 番号

なお、新株予約権証券には、新株予約権者の住所や氏名が記載される記名式のものと、これらの情報が記載されない無記名式のものがあります。
新株予約権者は、その新株予約権の内容として特に定めがない限り、記名式と無記名式の転換をいつでも請求できるとされています(同290条)。

変更登記

新株予約権に関する事項は登記事項であり、新たに新株予約権を発行する場合は変更登記をしなければなりません(同911条3項12条、915条1項)。

変更登記の期限は、新株予約権の発行から2週間以内です。
期限が短いため、あらかじめ司法書士に相談するなど登記の準備を進めておくとスムーズです。

新株予約権に関する登記事項は、次のものなどです。

  • 新株予約権の数
  • 当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)またはその数の算定方法
  • その新株予約権の行使に際して出資される財産の価額またはその算定方法
  • 金銭以外の財産を新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときはその旨と、その財産の内容及び価額
  • その新株予約権を行使することができる期間
  • 新株予約権の行使の条件を定めたときは、その条件
  • 一定事項が生じたことを条件に会社が新株予約権を取得できる「取得条項」を定めたときは、その旨やその事由など一定の事項
  • 登記申請時点までに払込金額が確定していないときは、払込金額の算定方法

まとめ

株主割当てによる新株予約権の発行について必要な手続きを紹介するとともに、手続きのスケジュール例を紹介しました。

株主割当てによる新株予約権の発行とは、既存の株主に対して、保有株式数に応じて募集新株予約権の割当てを行う手続きです。
基準日時点での株主は新株予約権の割当てを受ける権利を有し、実際に申込期日までに申込みをすることで、あらかじめ規定した割当日の到来をもって新株予約権者となります。

ただし、今回紹介した手続きやスケジュールは、取締役会設置会社である公開会社が新株予約権を発行する場合の一例です。
必要となる手続きや適切なスケジュールは、会社が公開会社であるか非公開会社であるかのほか、定款の定めや種類株主の存否、新株予約権を発行する目的などによって異なる可能性があります。

また、いったん発行した新株予約権の内容を変更するには新株予約権者全員の同意が必要であり、新株予約権者にとって不利益な内容への変更は現実的ではないことから、発行時点で内容を十分に検討しておくことが必要です。
そのため、実際に株主割当てによる新株予約権の発行を行おうとする際は、機関法務に詳しい弁護士のサポートを受けてスケジュールを組み立てるようにしてください。

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記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

松井 華恵

(第二東京弁護士会)

第二東京弁護士所属。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科修了。企業法務に注力し、不動産業界を中心とした顧問業務や企業の法務業務を中心に取り扱う。顧問先企業のビジネススキームやマーケットにも精通するとともに、些細なことでも気軽に相談できる弁護士としての在り方を目指している。

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