システム開発では、プログラムの著作物(知的財産権)に関してトラブルが生じることがあります。
そもそも、プログラムは著作権の保護対象なのでしょうか?
また、プログラムの著作物についてトラブルを避けるには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
今回は、プログラムの著作物に関するトラブルの概要や予防策などについて弁護士がくわしく解説します。
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著作権法の保護対象にプログラムは含まれる?
著作権とは、著作物を保護する権利です。
はじめに、プログラムが著作権法の保護対象となり得るか否かについて解説します。
著作権法による著作物の定義
著作権法では、著作権の保護対象となる「著作物」について、次のように定義しています(著作権法2条1項1号)。
- 「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」
著作物の範囲は非常に広く、いわゆる美術的価値のあるものに限られません。
「思想又は感情を創作的に表現したもの」である限り、次のものなども著作権の保護対象となり得ます。
- 企業のブログ記事
- 一般個人がスマートフォンで撮影してSNSに投稿した写真
- 幼児の描いた絵
- 小学生の作文
著作権法の保護を受けるために、原則として登録などを受ける必要はありません。
創作時点から、当然に著作権の保護対象となります。
プログラムの著作物も著作権の保護対象である
プログラムの著作物も、著作権の保護対象です。
著作権法には著作物を例示した規定があり、ここに「プログラムの著作物」と明記されています(同10条1項9号)。
プログラムとは「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」と定義されています(同2条1項10号の2)。
そのため、プログラムであることをもって、著作権の保護対象から外れるわけではありません。
ただし、プログラム言語や規約、解法自体は著作権法による保護の対象外です(同10条3項)。
なお、「プログラム」も著作権法による保護対象となり得る一方で、すべてのプログラムが著作権法の保護対象となるわけではないことにも注意が必要です。
プログラムであっても、ありふれた表現であるもの(つまり、「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではないもの)は、著作権の保護対象とはなりません。
とはいえ、システム開発におけるプログラムは相当程度の長さや独自性があることが多く、著作物性があると判断される可能性は高いといえます。
プログラムの著作権は誰に帰属する?
プログラムに著作性がある場合、そのプログラムの著作権は誰に帰属するのでしょうか?
ここでは、著作権の帰属者について解説します。
原則:創作した者
プログラムの著作権は原則として、創作した者に原始的に帰属します。
A社が対価を支払ってB氏にシステム開発を委託し、成果物であるシステムがA社に納品された場合であっても、そのシステムに係るプログラムの著作権は原則として創作者であるB氏に帰属します。
A社が著作権についても取得したい場合、B氏と交渉したうえで、著作権を譲渡する旨の契約を締結しなければなりません。
システム開発委託においてプログラムの著作権までを譲渡するケースはさほど多くないものの、譲渡する場合は、システム開発委託契約書内に著作権譲渡に関する規定を置くことが多いでしょう。
例外:職務著作の場合は法人等
システム開発を委託する場合、法人や事業者に依頼することが多いでしょう。
その場合、たとえばB社に開発を委託したとしても、実際に創作をするのはB社の従業員であるC氏やD氏などです。
このように、仕事としてシステム開発をした場合はC氏やD氏個人に著作権が帰属するのではなく、原則としてその雇用主であるB社に著作権が帰属します。
これを「職務著作」といいます。
職務著作の要件(雇用主であるB社に著作権が帰属する要件)は次のとおりです(同15条2項)。
- 法人等の発意に基づく創作であること
- 職務として作成したこと
- 契約や勤務規則などに別段の定めがないこと
なお、この要件からも読み取れるように、会社(B社)と従業員(C氏やD氏)との契約などで、従業員に著作権を帰属させる取り扱いもできます。
また、勤務時間外にC氏やD氏が独自に作成したプログラムの著作権までB社に帰属するわけではありません。
プログラムの著作物に関するトラブル例
トラブルを未然に防ぐには、プログラムの著作物に関して生じやすいトラブルを知っておくことが大切です。
ここでは、プログラムの著作物に関するトラブルの例を紹介します。
著作権の帰属に関するトラブル
1つ目は、著作権の帰属に関するトラブルです。
主なケースを3つ解説します。
多数の者が作業を分担した場合
多数の者がシステム開発を分担して行った場合、著作権が誰に帰属するかトラブルとなる可能性があります。
たとえば、A社が委託者であるシステムについて、B社とC社など複数社が協力して開発にあたる場合があります。
この場合、プログラムの著作物の著作権者がB社であるのかC社であるのか、もしくはB社とC社の共同著作物であるのかについて争いが生じることがあります。
共同著作物とは、「2人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」です(同2条1項12号)。
開発したプログラムが「B社による著作部分」と「C社による著作部分」とに分離して利用できる場合、それぞれ該当部分の著作権を有することになるでしょう。
このような分離ができない場合において、B社が創作しC社は下請けなどとして単に作業にあたっただけであれば、著作権はB社に帰属する可能性が高くなります。
また、B社とC社が共同して開発したと認められる場合は、共同著作物として両者が権利を持つことになります。
実際のケースでは、このうちどの場合にあたるのかが明確に判断できず、トラブルに発展する可能性があります。
職務著作の場合
職務著作が成立するか否かについて、トラブルとなる場合があります。
先ほど解説したように、職務著作とは一定の要件を満たした場合に、実際の開発者ではなく雇用主である法人等に権利が帰属するものです。
つまり、要件をすべて満たせばプログラムの著作権が法人等に帰属する一方で、要件から一つでも外れれば実際に開発に携わった従業員が著作権者となります。
そのため、「職務上」の作成か否かが曖昧である場合や、発意者が法人等であるか否かなど、職務著作の要件を満たすか否かについて疑義が生じトラブルとなることがあります。
譲渡の合意の有無が争われる場合
著作権の譲渡に関する合意があったか否かについて、トラブルが生じることがあります。
このトラブルは、システム開発の委託者と受託者(ベンダー)との間で起きることが多いでしょう。
契約書で譲渡する旨(または譲渡しない旨)が明記されていれば、これについて争いが生じる可能性は低いといえます。
一方で、著作権の譲渡に様式の決まりはなく、口頭であっても譲渡契約は成立します。
そのため、打ち合わせ中などの表現から委託者が著作権の譲渡を受けられるものと信じており、ベンダーがこれを否定した場合などにトラブルとなるおそれがあります。
そもそも、委託者が「対価を支払って開発を委託するのであるから、著作権も当然に自社に帰属する」と誤解しているケースは少なくありません。
このような誤解からトラブルに発展する事態を避けるため、著作権の帰属についてあらかじめ認識をすり合わせることをおすすめします。
複製や翻案に関するトラブル
2つ目は、システムの複製や翻案に関するトラブルです。
たとえば、納品されたシステムをもとに委託者が新たなシステムを開発し、販売する場合などがこれに該当します。
前提として、ベンダー側に著作権があるのであれば、委託者はこれを自由に複製することはできません。
また、納品されたシステムのプログラムに依拠して類似した製品を販売することも著作権侵害にあたります。
この場合、ベンダーはこれについて販売差止請求や損害賠償請求を検討することになります。
プログラムの複製等に関するトラブル解決の流れ
プログラムの複製等に関してトラブルが生じた場合、どのような視点から解決を図ればよいのでしょうか?
ここでは、基本的な流れについて解説します。
- 相手方のソースコードを入手する
- 複製や翻案成否を検討する
なお、これらの検討を自社だけで行うことは容易ではありません。
そのため、システム開発紛争にくわしい弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
相手方のソースコードを入手する
著作権侵害であるか否かを判断するには、著作物であるプログラム(ソースコード)を比較する必要があります。
仮にシステムの挙動が類似しているとしても、表現自体はアイディアに過ぎず、著作権侵害を判断することはできないためです。
とはいえ、一般的なシステムにおいてソースコードは公開されておらず、相手方が販売するシステムを入手したからといってソースコードがわからないことも多いでしょう。
その場合は、証拠保全などの裁判手続を通してソースコードの入手を試みることになります。
複製や翻案成否を検討する
相手方のソースコードを入手したら、これが自社製品の複製や翻案によるものといえるか否かを検討します。
たとえば、次の視点などからの検討が必要です。
- 一致または類似する分量や割合はどの程度か
- 一致または類似する部分は創意工夫の余地があるかどうか
多少一致や類似する部分があったとしても、その割合が低い場合は著作権侵害を否定する要素となり得ます。
また、一致や類似する分量が多くても、その部分に創意工夫の余地が少ない(誰が創作しても同様の表現となりやすい)場合は、著作権侵害は否定されやすくなります。
プログラムの著作物に関する著作権侵害の判断には非常に高度な判断を要します。
そのため、対応経験が豊富な弁護士への相談をおすすめします。
プログラムの著作物に関するトラブルを避けるポイント
プログラムの著作物に関するトラブルを避けるには、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
最後に、プログラムの著作物に関するトラブルを避けるポイントを3つ解説します。
- 契約書を作り込む
- 双方の認識の齟齬をなくす工夫をする
- 弁護士のサポートを受ける
契約書を作り込む
1つ目は、契約書を作り込むことです。
プログラムの著作権の帰属について契約書に明記することで、権利の帰属に関するトラブルを避けやすくなります。
また、複製や翻案の禁止のほか、違反時の損害賠償予定額などを定めることで、違反の抑止力ともなるでしょう。
契約書は雛形をそのまま流用するのではなく、内容を理解したうえで、自社にとって有利な内容となるよう条項を検討してください。
双方の認識の齟齬をなくす工夫をする
2つ目は、双方の認識の齟齬をなくすことです。
プログラムの著作権に関するトラブルは、双方の認識の違いから生じることが少なくありません。
たとえば、委託者が「対価を払ったのだから、著作権も自社にある」「多少作り変えても、自社の取引先に売る程度なら問題ない」などと誤解している場合もあります。
そのため、可能な限り丁寧に認識のすり合わせを行い、あらかじめ齟齬をなくしておくことで、トラブルの発生を防ぎやすくなります。
弁護士のサポートを受ける
3つ目は、契約締結時点から弁護士のサポートを受けることです。
契約書に関して、日頃参照するのは納期や対価だけであり、その他の部分にさほど注意を払わない場合もあるようです。
確かに、契約が順調に進行しているうちは、他の条項を参照する機会は少ないかもしれません。
しかし、契約書がその真価を発揮するのは、契約に関してトラブルが生じたときです。
トラブルを未然に防ぐとともに、万が一トラブルが生じた際に自社にとって有利な解決をしやすくするため、契約書作成時点から弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
まとめ
プログラムの著作権に関するよくあるトラブルを紹介するとともに、解決の流れや予防策などを解説しました。
プログラムの著作物に関しては、知的財産権(著作権)の帰属や翻案、複製などについて、トラブルが生じることがあります。
トラブルの発生を避けるためには、システム開発に関する契約を締結する際に契約書を作り込み、双方による認識の齟齬をなくしておく工夫が必要です。
また、契約締結時点から弁護士のサポートを受けることで、トラブル発生時から逆算をした契約書を作成しやすくなります。
記事監修者
中冨 怜
(千葉県弁護士会)千葉県弁護士会所属。中央大学法部法律学科卒業、一橋大学法科大学院修了。不動産法務を中心に取り扱うほか、一般民事事件をはじめとする幅広い分野への意欲を持つ。
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