公開 2024.01.16 更新 2024.10.10Professional Voice

Authenseの男性として初、育児のための休業を取得
社会の障壁に向き合う野村 佳祐弁護士の使命

インタビュー

株式会社デジタルガレージへの常駐経験を活かし、企業内への顧問や法務機能外注といった案件に取り組む野村 佳祐弁護士。

2022年にはAuthense弁護士法人初となる、男性弁護士として育児のための休業を取得した。

育児をはじめ、個人の選択を実現する際に仕事や周囲の障壁を取り除く存在でありたいと語る。

休業取得に至った背景や現在の思いを聞いた。

目次
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1.

企業内への常駐で学んだ3つのこと

まずはこれまでのご経歴から伺えますか?

新卒で2017年12月に入所しました。大きく分けると5つの時期に分けることができます。

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新卒期
(2017年12月〜2018年10月)
新卒として入所し、事務所の取り扱う分野を一通り経験
常駐期
(2018年11月〜2021年3月)
株式会社デジタルガレージに常駐し、社内法務にフルコミット
事務所復帰期
(2021年4月〜2022年6月)
企業法務、顧問案件メイン、育児のための休業に向けた引継ぎ
育児のための休業期
(2022年6月〜2022年8月)
育児・家事に専念
休業から復帰
(2022年8月~現在)
企業法務、顧問案件メイン

それぞれの時期での思い出深い出来事なども伺えますか?

新卒時期は不動産案件、顧問・企業法務、一般民事、刑事など各分野について、先輩と一緒に案件を担当しました。OJTを通じて、弁護士としての基本的な心構えや考え方などを教えていただいた時期です。

インタビュー_野村 佳祐(第二東京弁護士会所属)

2年目はデジタルガレージに常駐されたのですね。

はい、それまでとは打って変わって、ほぼ完全に会社員と同様の動き方でした。顧問とは異なるインハウスならではの動き方を知ることができました。

具体的にどういう業務を担当されていましたか?

法務部に来る契約審査依頼やリーガル面の相談に主担当として対応していました。

また、法務部内の他の方が起案した案件についても部内のチェック担当として対応したり、法務部長からの相談に乗ったり、顧問弁護士の先生との窓口も担当したりしました。

事務所との違いも大きかったのではないでしょうか?

そうですね。常駐経験を通じて、大きく3つのことを学びました。

まずは責任感です。法務部長の確認を経た上でということではありますが、自分の示した見解が「法務部の見解」として社内に展開され、それをもとに事業部サイドや他部署において検討されていきます。

半年ほど前任の先輩のご指導をいただきながら対応を進めていたのですが、やがて先輩の手を離れて一人で対応するようになってから、自分の出した見解をベースに進められていく様子を見て、改めて「きちんとやらなければならないな・・・」と気持ちをより強く引き締めるきっかけとなりました。

次にスピード感です。当然、会社は毎日動いていて、案件も毎日何らか動いていて、かつ、同時並行的にいくつも担当することになります。

加えて、社内には様々なレイヤー・立場の方がいて、自分だけが確認すれば終わりではありません。関係各所の確認を経た上で進めることになるため、その確認プロセスを考慮に入れて逆算するとタイムリーな対応が必要です。

自分のところで長くボールを持ってしまうと、慌てて投げてもすぐに進められるわけではなく、結果的に確認者を急かすようなことにもなってしまいます。

元々手元にあまりタスクを残しておきたくない性分もありましたが、より一層、早く処理する方向で対応するようになりました。

3つ目は当事者意識です。会社として物事を進めるためには問題点だけ投げるのではなく、「じゃあどうするか」も含めなければなりません。

顧問弁護士の先生からコメントをいただいてから次に進める方法、進める上での問題点、解決方法、改善点にまで考えが及ぶようになったこと、当事者意識を持って対応にあたれた経験は大きいです。

これが今の仕事のやり方の原点になっています。

企業の中でのご経験をされると考え方も変化されていくのですね。特に印象的だった出来事はありますか?

一番印象的だったのは、電子契約の導入です。

コロナ禍にあって電子契約導入が早急に必要になったものの、他社を含めどこも手探りで、前例のない論点を含むものでした。そんな中で、顧問弁護士の先生と連携し、既存の捺印実務との整合性・親和性も持った形で新しい仕組みの設計に取り組んだプロジェクトです。

社内規程の整備、捺印フローの整備、電子締結用の契約雛形の整備などを行いました。導入後しばらくは問題点も出てくるので、その都度対応策を検討しマニュアルとして整備する等、定着に向けた支援もさせていただきました。

インタビュー_野村 佳祐(第二東京弁護士会所属)

2.

勇気を持って踏み出した事務所初となる育児のための休業取得

復帰後は企業法務、顧問案件を中心に担当されたのですね。

顧問や法務機能外注案件に注力しました。

法務機能外注サービスは、デジタルガレージ様での常駐案件の対応内容を土台の一つとして設計されています。

社内の人間としての顧問弁護士対応を含む常駐経験を活かして、スピード感と共に、受け取った側が対処に困らないような対応を心掛けました。

具体的な取り組み例を教えてください。

例えば、クラウドワークス様では、会社の事業成長に伴って増加する契約審査や法的問題に対応しました。今は法務の方も増えてきましたが、当時はリソースが足りていない状況でした。

週二回の定例MTGを行い、日常的に発生する法律相談について、社内視点・当事者意識を持って、対応方針などを一緒にディスカッションさせていただいています。

ご担当者様からも「社内に常駐しているインハウスローヤーを相手に相談するような感じで壁打ちしながら進められている」「論点がふわっとした懸念事項なども会話の中で整理できる」「ちょっとした疑問点などもカジュアルに相談に乗っていただけるので、弁護士への相談に対する心理的ハードルがかなり下がった」といったコメントをいただいています。

企業側にとっても価値のある取り組みですね!そのような中で育児のための休業に向けた準備を進められます。

休業を打診すること自体に、当初は「反発されるかな」「何を言われるかわからないな」というためらいがありました。

ただ、自分の人生の中で大切にしたいことを考えました。子供はずっと欲しかったですし、待望の第一子だったので妻と話し合って、背中を押してもらいました。

妻の友人で、夫が職場初の育休取得者となった、という話を聞いたことも、決断の後押しになりましたね。ちょうどタイムリーにドラマ「逃げ恥」でも育休を取り扱っていました(笑)。

実際、どのようにお話を進められたのですか?

元々、妻が妊娠した段階でAuthenseの上長にこまめに話はしていました。

といっても、サプライズは避けたいと思い、休業取得について前例の有無を聞いてみたところ、前例はなかったのですが上長が人事に話を回してくれました。

その後程なく、人事からヒアリングがあり、前向きに実現できる方法を具体的に詰める方向で話を進めてくれました。

素晴らしいですね!

急転という感覚です。事務所全体として最大限サポートするという頼もしいコメントをいただきました。

インタビュー_野村 佳祐(第二東京弁護士会所属)

進めるにあたって難しかった点はありませんでしたか?

出産予定日はあくまで予定日でしかないという点で、開始日の設定が思いのほか難しかったです。出産にはどうしても立ち会いたかったので、元々事務所の制度として用意されていた出産休暇とリフレッシュ休暇を組み合わせて事実上産前の入院日から休業に入りました。

一番のハードルである業務調整は、休業開始予定日から逆算してスケジューリングしました。

初の試みだったので2、3か月かけて担当者選定や引継ぎを行い、主要なお客様には同時期に頭出しをしました。

後から振り返った感覚としては、2か月あればある程度余裕を持って引継ぎ可能だと思います。

温かいなと思ったのは、お客様の声です。

もちろんフォロー案をセットでお話しはしましたが、第一声で「ぜひ休業を取ってください、いつも助けていただいているので」と言っていただいたのは妻ともども感動しました。

3.

壮絶な日々を乗り越えて得たかけがえのない思い

休業期間中はいかがでしたか?

仕事とはまた別の大変さがありますね。「休業」というワードがミスリーディングだなと思うほどに壮絶な毎日です。

業務は停止しますが「休み」という言葉から連想されるような、決してバカンスを楽しんでリフレッシュするような「休み」ではありません。生活リズムができ始めて慣れてくるのに1か月〜1か月半くらいはかかりました。

かなり積極的に育児をされている様子が伺えます。

妻は出産直後で身体が弱っています。産院では「足腰が砕けるような痛み」と言われました。

そんな中で、授乳にも非常に母体の体力を消耗するので、妻には可能な限り身体を休めてもらうことにして、私は母乳をあげる以外のことはすべてやるようにしました。家事を含め大人も生活していかないといけないですから。

特に新生児期のお世話は猛烈に大変です。3時間おきの授乳といいますが、リズムも不規則ですし、3時間休憩できるわけではありません。

「魔の三週目」と言われる時期は泣きそうでした(笑)。お昼過ぎと、日付変更直前くらいの時間帯に、何をしても泣き止まない無限ループに突入してしまい、1時間くらいおむつ替えと抱っこを繰り返していました。

ちょうどその時、妻は授乳してすぐの時間帯だったので身体を休めてもらうようにして、私一人で対応したのですが、その一時だけですらも相当しんどかったので、ワンオペで育児をされている方の苦労が計り知れません。

育児を経験されて良かったと思うことはありますか?

特に生後1か月間は、親子ともども初心者で試行錯誤なので、二人で集中して取り組めて本当によかったです。

子どもがお母さんのお腹から出てきたら突然親になるわけではなくて、少しずつ必死にやり方や心持ちを身に付けていくものだと思います。

育児は苦労話になりがちですが、それ以上に、子どもを見守れる期間はとっても幸せで楽しいものでした。その時しかない時期をそばで見守れる場所にいる特権があります。この期間を通じて、他に代わりはいない、夫・父親としての自覚が強く出来ました。

インタビュー_野村 佳祐(第二東京弁護士会所属)

育児休業を考えている、もしくはためらわれている方に向けたコメントもいただけますか?

業務上の代わりの人材を見つけるのはもちろん大変ですが、急な事故や病気で休むのではなく、出産は前もっておよその時期が分かり計画が立てられるものです。きちんと期間を取って前向きに検討を進めればどうにかなると思います。

社内に育休取得に対して肯定的な雰囲気がないことで諦めている方もいるかもしれませんが、一度しかない自分の人生、我が子のほんのわずかしかない赤ちゃんの時期は、特に大事にした方が良いと思います。

踏み出してみると、思っていたよりも、関係者の皆さんも快く受け入れてくれるかもしれません。

4.

希望の前に立ち塞がる障壁を取り除きたい

復帰後はどのようなスケジュールでお仕事をされていますか?

朝は保育園への送り、日中は業務、夕方は入浴着替え等々で仕事は中抜け、夜に残った業務に取り組むというスケジュールでフレキシブルに対応しています。

以前は夜遅くまで仕事をしていましたが、朝は子供が早く起きるので、体力のことも考えて夜更けまでやるようなことはしなくなりました。

その分、より効率的に素早くやるようにし、分担すべきことは分担するようにしています。その感覚は、目まぐるしい毎日の繰り返しだった休業期間中に得られたものだと思います。

職場の雰囲気として、思っていたよりも、子どもの事情を理解いただけていると感じています。

最後に今後のビジョンについて伺えますか。

人生で何に重きを置くか、価値観は人それぞれです。

個人的には、仕事と同じかそれ以上に、家族との時間を大切にしたい気持ちが強いです。もちろん仕事上の責任を全うすることは当然必要不可欠で、だからこそ、限られた時間の中でしっかりこなすという発想になりました。

出産や育児について、仕事が大変だからと諦めてしまう方の気持ちもよくわかるし、自分自身も当初はそのように考えていました。

一方で、出産の立会いや産まれてきた我が子のお世話を一生懸命やって親になっていくプロセスやその大変さ・喜びは何にも代え難いものです。そういう希望・選択を実現するのに仕事や周りが障壁となるようではいけません。

同僚としては応援・サポートを惜しまない立場でありたいですね。

ご支援をさせていただく企業様の中でも、出産や育児に関わる障壁を取り除く立場でありたいと思います。法的制度をつっけんどんに突きつけるだけではなく会社側・取得者側双方の事情を汲めるアドバイザーとして取り組んでいきたいです。

インタビュー_野村 佳祐(第二東京弁護士会所属)

Professional Voice

Authense法律事務所
弁護士

野村 佳祐

(第二東京弁護士会)

一橋大学法学部卒業、一橋大学法科大学院修了。約2年半にわたり上場企業にて法務業務を常駐して遂行し、契約書の作成・レビュー(投資関連案件ほか)から、社内規程や株主総会・取締役会関連書類の整備、新規プロジェクト関連や社内フロー構築のサポートに至るまで、法務面で日々生じる多種多様な課題に取り組み、都度改善・解決へ貢献した経験・実績を有する。当該経験を活かした現場目線で有用なアドバイスを心掛け、主に予防法務に取り組む。

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