上場という出口を、
あえて選ばない
——飲食グループの大型M&Aが示した、
前向きなファンド活用

企業が成長の果てに迎える「出口」といえば、IPO(上場)か、売却か。
長らく、その二つが常識とされてきた。だが、Authense法律事務所の弁護士統括・西尾公伸が売り手側の法務を担った、ある国内大手飲食グループのM&Aは、その常識を軽やかに飛び越えていた。
「上場はできる。でも、今はしない」——。
より大きな未来のために、あえてファンドの力を借りる。前向きなファンド活用の、新しいロールモデルである。
01「上場できる、でもしない」という新しい選択
企業が成長の末に迎える「出口」といえば、長らく二つの道が常識とされてきた。株式を上場するIPOか、あるいは会社を売却するか。前者には、上場後の株式売却を制限するロックアップなどの制約があり、後者は、キャッシュを得てそこで一区切り——というのが、これまでの定石だった。
売却すれば、育ててきた会社の主導権を手放すことになりかねない。上場すれば、四半期ごとの数字に追われ、長期を見据えた大胆な投資はしづらくなる。どちらを選んでも、何かを諦めなければならない。それが、これまでの「出口」が抱える宿命だった。
ところが、Authense法律事務所の弁護士統括・西尾公伸が、売り手側の法務アドバイザーとして携わったある国内大手飲食グループのM&Aは、その定石を軽やかに飛び越えていた。

西尾弁護士
「上場もできる。するつもりもある。でも、今じゃない。そういう選択だったんです」
IPOが十分に視野に入っていた優良企業が、あえていったんPE(プライベートエクイティ)ファンドの力を借りる。さらなるバリューアップと、世界への展開を見据えてのことだった。市場環境やタイミングを冷静に見極めたうえでの、戦略的な「回り道」である。これは単なる資金調達ではない。日本で育った飲食ブランドが、世界の舞台へと打って出るための、力強い助走だった。
ファンドが登場するM&Aは、ともすればネガティブな文脈で語られがちだ。上場を維持するコストに耐えきれず、非上場化の受け皿としてファンドに頼る——そんなケースも、決して少なくない。業績が振るわず、やむなく身を委ねる。そこには、どこか後ろ向きな匂いがつきまといがちだ。だが、この案件はまるで逆だった。

西尾弁護士
「ファンドの力を『掛け算』で取り込む。時間軸を延ばして、改めてもっと大きなジャンプを作れるぞ、と。本当に美しいスキームだと思いました」
西尾弁護士がとりわけ惹かれたのは、この取引が、誰か一人の「勝利」では終わらない点だった。売り手も、買い手も、そして社員も——関わる全員が、同じ未来を分かち合える。

西尾弁護士
「関わる全員にとって良い形なんです。誰かが得をして、誰かが損をするのではない。みんなで、もっと大きなホップ・ステップ・ジャンプを描けるようになる」
西尾が「美しい」と評するのには、理由がある。この取引では、創業者や社員が売却によるリターンをいったん手にしながらも、引き続き経営に深く関与し、ストックオプションなどによる将来のインセンティブも維持する、という高度な設計が採られていた。
売って終わりでも、上場の制約に縛られるのでもない。関わる人すべてが報われ、なお大きな未来を目指せる。税務の面でも、法務の面でも、ステークホルダー全員にとって幸福な着地点だった。
立場の異なる関係者が、それぞれに利益を得ながら、なお同じ方向を向く。言葉にすれば簡単だが、現実の取引で全員が勝者になれる着地点を見つけ出すのは、決して容易ではない。

西尾弁護士
「普通なら、売却したらキャッシュを得て終わり。上場すれば、ロックアップで株もすぐには売れない。その『いいとこ取り』ができている。これは、新しいスタンダードになり得ると思います」
西尾のチームが担ったのは、この精緻なスキームを、契約という現実の形へと——法務ドキュメンテーションの面から具現化することだった。関係者が多く、利害が複雑に絡み合う大型のM&Aでは、ひとつの条項の文言が、後の数億円を左右することもある。税務と法務が緻密に絡み合うこのスキームを、西尾のチームは、一分の隙もない契約へと結晶させていった。
絵に描いた理想を、一字一句の揺るぎない合意へと落とし込む。日本発の飲食ブランドが世界へ羽ばたいていく、その歴史的なターニングポイントを、西尾は、法務の側から確かに支えた。
02スキームは、自分が考えたのではない
もっとも、西尾は、この案件の手柄を声高に誇ったりはしない。むしろ、意外なほど率直だった。

西尾弁護士
「スキームそのものを考えたのは僕じゃないんです。組まれたスキームに乗って、ドキュメントを作って形にしていく。立ち位置としては、そこなんです」
だが、その「形にする」という仕事こそが難しい。どれほど巧みに設計された取引も、契約という揺るぎない言葉に落とし込み、関係者全員の合意として成立させなければ、絵に描いた餅で終わってしまう。スキームを現実のディールへと変える——地味でいて、決定的な役割だ。自らの領分を誇張しない率直さは、確かな実力の裏返しでもある。そして、これほどの取引は、一人では動かない。西尾のもとには所内の弁護士が集ったチームがあり、それぞれが役割を担いながら、巨大なディールを前へと進めていった。
これほどの大型案件を、西尾はどうやって手にしたのか。答えは、華やかな営業戦略ではなく、地道な「人との縁」だった。

西尾弁護士
「もともとは、ある銀行の支店長が紹介してくれた会社なんです。3、4年前のことでした。そこからは、ただの飲み友達みたいな関係で。先方のCFOが何度も『一緒に仕事をしたい』と、ずっと言ってくださっていて、今回声をかけてもらったんです」
大きなディールが、一杯の酒を酌み交わす関係の延長線上に、ふと舞い込んでくる。

西尾弁護士
「やっぱり、付き合いって大事ですよね」
派手な売り込みではない。目の前の一人と、誠実に向き合い続ける。その積み重ねが、いつか大きな仕事になって返ってくる。西尾の歩みは、そう静かに語りかけてくる。
高度な専門性と、人を惹きつける人間力。その両輪があってはじめて、こうした案件は生まれる。西尾は、それを地で行く弁護士だ。
76名のメンバーをマネジメントする立場でもある西尾は、この経験を事務所全体の成長へとつなげようとしている。

西尾弁護士
「うちも、こういう案件をやれるようになってきたんですよ(笑)。少しずつ、確実に、成長しているんです。こういう案件を、これからもっと増やしていきたいですね」
その言葉の裏には、弁護士統括として積み重ねてきた、組織づくりの確かな経験がある。独立性の高い専門家を、強い指揮命令ではなく「ビジョン」で束ねる。西尾は、Authense法律事務所のミッション・ビジョン・バリューを核に据えた人事・評価制度をゼロから設計し、需要の波が激しい法律事務所に、柔軟さと高い品質を両立させる組織の形をつくり上げてきた。
事業家としての顔もある。企業の内部に弁護士が入り込み、法務部の一員として動く——そんな新しい発想の法務機能外注サービス「法務クラウド」を企画から立ち上げ、上場企業を中心に、130社を超える企業に活用されるサービスへと育ててきた。「弁護士は、あくまでも外部から関与するアドバイザー」という業界の常識すら塗り替えてきた。
組織を設計し、新しいサービスを世に問い、大型のディールをまとめ上げる。一見ばらばらに見えるこれらの仕事は、西尾のなかで、一本の線につながっている。専門性を磨き、その先で人と社会に新しい価値を届ける。それが、弁護士という仕事のもうひとつの可能性なのだろう。
今回のファンド案件もまた、Authense法律事務所が、大型M&Aの領域でも着実に存在感を増しつつあることの、確かな証だった。高度な専門性と、人間力。その両方で、顧客の「真のビジネスパートナー」であろうとする——それこそが、西尾の、そしてAuthense法律事務所の流儀なのである。
担当弁護士Attorney-at-law

西尾 公伸Akinobu Nishio
弁護士 / 企業法務
中央大学法学部法律学科卒業、大阪市立大学法科大学院修了。法律事務所オーセンス入所から、ベンチャー法務を担当し、現在では、HRTech(HRテック)ベンチャー法務、芸能・エンタメ・インフルエンサー法務、スポーツ団体法務等を中心に担当。上場企業をはじめとした日本国内外に成長を求める企業のM&A支援にも積極的に取り組む。