「普通なら、勝てない」を
覆し続ける
——紛争解決のプロフェッショナル、
川口真輝の三つの事例

川口真輝弁護士が手がけてきた事件は、ジャンルがまるで定まらない。
万引き事件の無罪判決、新型コロナをめぐる国内初(報道ベース 弊所調べ)とされる判決、そして十数億円規模のM&A紛争の早期解決——。一見、何のつながりもない難件を、川口は次々と解きほぐしてきた。
50名を超える弁護士を束ねる弁護士統括は、どんな局面でも、相手がもっとも嫌がる一手を冷静に見つけ出す。そのどれもが、「普通なら、勝てない」と言われた事件だった。三つの解決事例から、その流儀をひもとく。
01ほぼ「有罪」の万引き事件で、無罪を勝ち取る
日本での刑事裁判の有罪率は99.8%といわれ、無罪を勝ち取ることは、ほとんどないと言っていい。とりわけ万引き——窃盗事件は、難しい。商品を店の外へ持ち出してしまっている以上、客観的な状況は、限りなく黒に近いからだ。「会計を忘れただけ」という弁解は、本当の犯人もまた口にする常套句であり、容易には通らない。

川口弁護士
「本来の刑事裁判は無罪推定で、立証責任は全て検察官にあるのです。でも実際は、有罪推定と言ってもいい。『九分九厘こちらが正しい』と納得させられるくらいでないと、無罪は取れません」
刑事の犯罪の多くは、「わざとやった」という故意がなければ成立しない。だから、刑事裁判で、簡単に「わざとではなかった」という弁解をそのまま通していては、痴漢も万引きも、ほとんどが逃げ切れてしまう。有罪と無罪の、ぎりぎりのせめぎ合い。そこが、この種の事件の難しいところだ。
少額の万引きであれば、「認めてしまった方が早く終わる」と依頼者が判断することも少なくない。それでも川口は、依頼者の「やっていない」という訴えを信じ、無罪を争う道を選んだ。
事案は、こうだ。依頼者は、日常的に通っていたスーパーで、プロテインと飲み物を2本、手に取った。会計のために、レジに向かって歩きながら、肩から提げたトートバッグの中の財布を取り出す。そのとき、手に持っていた飲み物を、無意識のうちにトートバッグに入れたまま、そのことを忘れてしまった。その後、レジではプロテインの代金だけを支払う。バッグの飲み物のことはすっかり忘れたまま、店を出た——。そこを、万引きGメンに咎められ、現行犯逮捕されたのである。
依頼者は、仕事の多忙と高齢の母親の介護による不眠で注意力が落ちていた。盗む意図など、どこにもなかった。
当番弁護での初回の接見の際から、依頼者は、強く、わざと窃盗をしてはいないと否認していた。そして、逮捕される直前に、介護中の母にも電話していたということを話し、その発信履歴も残っていた。
川口は、その人物像と現場の不自然さを、丁寧に検証していく。依頼者は、そのスーパーでひと月に15回以上も買い物をする常連客で、これまで万引きの前科も前歴もない。「いきなり、こんなことをする人だろうか、犯人にしては不自然ではないか」。その問いを、客観的な事実で塗り固めていった。
裁判では、①依頼者の高齢の母が直近まで入院していて、介護の必要性が極めて高い時期であったこと、②依頼者は当時会社での業務も多忙で、疲弊していたとうかがわれること、③防犯カメラ映像からすれば、単に支払いを忘れていたという依頼者の主張と矛盾する点は無いこと、④依頼者は毎日のようにこのお店で買い物をしており、普段は買い物カゴを用いて相当な量の食料品などを買っているが、この日は直前の母への電話で、「必要なものは無い」と確認した直後だったので、自分の少量のドリンクのみを買い物カゴを使わずに急いで買い物を済まそうとしていたこと、⑤その急いでいる様子は防犯カメラ映像や逮捕したGメンの供述とも合致していること、などを主張立証し、依頼者の供述は、信用性が高いと判断された。
商品を持ち出してしまった以上、店からすれば迷惑なのは確かだ。「会計を忘れた」とは、本当の万引き犯も口にする。だからこそ、それを覆すには、徹底した検証と尋問の一瞬の勝負が要る。
裁判官も、人情味のある、たしかな経歴の裁判官で、しっかりと依頼者、弁護側の話に耳を傾けてくれた。
結果、検察の罰金30万円という求刑に対し、窃盗の故意を認めるには合理的な疑いが残るとして無罪判決が言い渡され、検察側からの控訴もされず、確定した。

川口弁護士
「普通なら有罪になってもおかしくない事件だったと思います。しっかり依頼者と打ち合わせをして、細かい証拠を整理して、信用性の高い被告人の供述、最終弁論につなげることができました。
刑事裁判は裁判の本質がよくでていて、難しい反面、やりがいも大きい。今後も有罪になることも無罪になることも、うまくいくこともいかないこともあると思いますが、継続して取り組んでいきたいと思います。」
02コロナ禍で従業員が死亡した事案。報道ベースでは、国内初のコロナウイルス感染防止対策の不備を理由とした安全配慮義務違反を認めた判決を引き出す
そもそも「安全配慮義務違反」に基づく損害賠償請求は、法律家のあいだで、極めて難しい構成とされている。

川口弁護士
「安全配慮義務違反の考え方は、本来の責任とは違うんです。交通事故なら、ぶつけてきた相手に請求できる。でも安全配慮義務違反は、直接の加害者ではなく、その場を管理していた事業主に責任を負わせる構成なんです。」
たとえば、汚物などで駅の床で足を滑らせ、頭を打って怪我をしたとする。本来、悪いのはそこを汚した誰かのはずだ。だが、その人物には責任を問うことは難しい。だから、場所を管理し、営業していた側が、安全に配慮すべきでは無かったのかという理屈で、明確な根拠もないのに義務を負う——。それが、安全配慮義務だと川口は説明する。
ましてや、相手は新型コロナウイルスである。「本来であれば皆被害者ですよね。ウイルスを作った人に請求してください、という話にもなりかねない」。事業主に責任を問うには、いくつものハードルを越えねばならなかった。
事案の舞台は、ある飲食店。緊急事態宣言やまん延防止措置を無視するように、24時間営業と酒類の提供を続け、従業員の過重労働も重なっていた。そんな環境のなか、ひとりの従業員が新型コロナに感染し、亡くなった。遺族が、店側の感染対策の不備を理由に、損害賠償を求めたのである。
最大の壁は因果関係だった。「店で感染した」と100%証明することはできない。

川口弁護士
「100%の証明は裁判ではそもそも無理なんです。『相当高度の蓋然性』、つまり『ほぼ間違いない』と言える程度まで持っていくことをが大切です」
川口は、亡くなった従業員が住み込みで働き、店以外での他人との接触がほとんどなかったこと、同じ時期に他の従業員3名も感染していたことを積み上げ、「店での感染」が高度の蓋然性をもって認められると主張した。緊急事態宣言下等で、コロナウイルスの危険は誰もが認識している状況であったのだから、感染と死亡という結果は、予見が困難ではなかったとも訴えた。
東京地裁の3名の裁判官による合議は、店側の感染対策の怠慢と、従業員の死亡との因果関係を認め、約6800万円の損害賠償を命じた。複数のメディアに報道され、判例データベースにも掲載された、報道ベースでは国内初とされる判決である。この判決は、飲食店などの事業主にとって、感染対策が単なる行政指導への対応にとどまらず、従業員の命を守るための法的な義務なのだと示す、一つの先例となった。
遺族が求めていたのは金銭ではなかった。労災も認められ、生活に困っていたわけではない。ただ、店側が一度も謝ってくれなかった——その感情のもつれが、訴えの根にはあった。一言の詫びがあれば、裁判にすらならなかったかもしれない。川口は、その「気持ち」の側に立って、誰も勝てないと思った難事件に挑んだ。
03交渉だけで、半年。十数億円を取り戻したM&A紛争
交渉によって、十数億円もの被害を取り戻す。それが、どれほど例外的なことか。

川口弁護士
「正直、これぐらいの金額が交渉で返ってくる確率は、低いと思います。ほとんどの弁護士が『普通は戻ってこないよね』と思うはずです。だからこそ、よく戻ってきたな、と」
投資をめぐるトラブルは後を絶たない。「上場間近で、必ず値上がりします」と謳う未公開株や、仮想通貨。その手口は、振り込め詐欺と大きくは変わらない。飛びつきやすい話ほど危ういのだ。
依頼者は、地方で小売店チェーンを営んでいた経営者だった。十数億円規模で、自社の株式を某企業グループに売却する。ところが、その後が問題だった。買い手側の経営陣から、「これからもグループと関わり続けてほしい」と持ちかけられ、売却で得たはずの代金のうち、およそ10数億円を、さらに匿名組合への出資や貸付に充てさせられていた。
匿名組合出資は分配のルールが曖昧で、返還の期限もない。グレーな手法として、トラブルの絶えない仕組みでもある。
川口はすぐに動いた。弁護士5名と、Authense税理士法人の税理士とで、専門家チームを組む。正面に立ったのは、川口だけではない。若手の弁護士たちも、相手方との交渉の矢面に立った。そして、相手方の「弱み」を、冷静に見抜いた。買い手側は、さらなる大手企業による買収を控えていた。いま、この紛争が表沙汰になることを、もっとも嫌うタイミングだった。
チームは法的な根拠に基づいて、あらゆる方向から圧力をかけていった。株主総会への出席、計算書類の開示請求、出資者名簿の閲覧請求、さらには監査の実施要求まで。目的を達成するために必要な手を、一つずつ、徹底的に。まさに、外堀を埋める交渉だった。
スピードも命だった。詐欺的な被害の回収は、先に動いた者が強い。遅れれば遅れるほど、資金は他へと流れ、回収は難しくなる。
介入から、わずか半年あまり。チームは、約12億円の返還を勝ち取り、依頼者の損害をほぼ完全に回復させた。

川口弁護士
「早期の10数億円の回収ということで、振り返れば奇跡のような案件でした。15年近くの弁護士生活でも、心に残るような、うまくいった案件ですね。今後も、こういう依頼者にとって価値の大きい案件を、チーム力も借りて、事務所全体で増やしていきたい。一人で抱え込むより、ずっといい仕事ができますから」
川口にはもうひとつ、温めている思いがある。事務所には、外の弁護士が羨むような事例が、まだいくつも埋もれている。みな謙虚で、自分から「すごい仕事をした」とは、なかなか言わない。だからこそ、それらの事例をすくい上げ、世に送り出す仕組みをつくりたい——。

川口弁護士
「いい仕事を、人知れずのままにしてはいけない。うちの弁護士だけでなく、外の弁護士にとっても参考になる事例が、たくさんあるはずなんです」
多彩な難件を解きほぐしてきた川口の言葉は、最後に、弁護士統括としての矜持に行き着く。価値ある仕事を埋もれさせず、すくい上げ、人を育て、世に送り出していく。総合法律事務所であるAuthense法律事務所の総合力と、グループの専門家との連携。そして、どんなに不利な事件でも、最後まで諦めない精神。それこそが、Authense法律事務所の強さの源泉なのだ。
担当弁護士Attorney-at-law

川口 真輝Masaki Kawaguchi
弁護士 / 企業法務
中央大学法学部法律学科卒業、中央大学法科大学院修了。主な裁判経験として、MBOに関する取締役の責任を追及し、初めて東京高裁の見解が示された事案や、複数メディアによって報道された裁判員裁判事件などを有している。ベンチャー企業の上場前の資金調達や法務支援も多数経験。顧問先経営者からは、法務のみならず経営全般のアドバイスを求められることも多い。