リーガルエッセイ

公開 2022.04.12 更新 2022.04.13

少年法の改正により19歳が実名報道された件について

少年法の改正により19歳が実名報道された件について
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「特定少年」の実名報道

先日、殺人等を犯したとして起訴された19歳男性について、検察庁が、その実名を報道機関に公表。
それを受け、新聞で実名が報道されました。
私が読んでいる日本経済新聞でも、実名が公表されていました。

「実名報道が問題になるのは今に始まったことではないのでは?」と思われるかたもいるかもしれません。

たしかに、これまでにも、たびたび「実名報道」の是非をめぐる議論は報じられてきました。

でも、今回がこれまでと違うのは、その実名を報道されたのが19歳の少年だったということ。

少年法では、家裁の審判に付された少年、少年の時に犯した罪で起訴された者について、氏名、年齢、職業、銃魚、容ぼうなどによってその者が事件の本人であることを推知することができるような記事や写真を新聞等に掲載してはならないというルールが定められています。

これによると、19歳の男性の氏名を新聞が報じることはルールに反するように見えますよね。

たしかに、これまでであれば、ルールに反した対応でした。
でも、この4月1日からは違うのです。
4月1日スタートの改正少年法では、この実名報道について、新しいルールが定められました。

18歳、19歳を「特定少年」とし、特定少年については、特定少年の時に犯した罪で起訴された場合、先ほどお話ししたルール(氏名等推知できるような報道を禁止するルール)が適用されないことになったのです。
つまり、特定少年が起訴される場合は、実名報道解禁となったということ。

それを受けての実名報道だったということです。

男性の弁護人は、事前に、実名公表をしないよう地検に申し入れていたようで、それが認められず遺憾であるとのコメントも報じられていました。

日本経済新聞には、「お断り」として少年法で特定少年について実名報道が解禁されたこと、改正の趣旨を踏まえ、事件の結果の重大性や社会的影響などを総合的に検討して今回は実名を掲載する旨のコメントを載せています。
この言葉を見る限り、新聞は、検察庁から実名公表があった事案についても、ひとつひとつ、実名報道すべきか否かを慎重に検討して対応するように読めますね。

ここでいう「改正の趣旨」というのは、選挙年齢や成年年齢が引き下げられたことと関係するといえるでしょう。
つまり、これらの場面では、責任ある主体として役割を果たすことが期待されているのだから、罪を犯した場合の責任のとりかたもまた、17歳以下の少年とは異なるべきだというもの。

実名報道、とても難しい問題だと思います。
考えるべきいろいろな要素があるからです。

18歳、19歳は責任ある主体として他の法律で扱われることになることとの均衡、国民の知る権利。

一方では、特定少年の更生の機会を奪うのではないかという懸念、特に一度はられたレッテルがSNSの普及により拡散しやすいという懸念、起訴されたという段階ではまだ無罪推定であるのに、その段階で実名を報じられることによるリスク。

私も、率直に言って、しっかりとした自分の意見を述べられる状態まで勉強が十分であるとはいえません。
今回の報道ひとつとっても、たとえば、報じられている内容を見ると、被害者側と被告人側との関係性が書かれていましたが、一定の関係性があるにもかかわらず、被告人側の名前を実名で報じてしまうことは、被害者のかたについても推知させることになるという懸念はないのか、国民の知る権利というものは、無罪推定が及んでいる状態の被告人の実名を公表されることによる被告人の不利益を考えてもなお保障されるべきものなのかなどと思うところもあります。

なにより、いろいろなケースがあるだろうし、そこにはいろいろな当事者が存在する。
かつて私自身が経験した事件を頭に思い浮かべると、なかなか、考えの軸が定まらないというのが率直なところです。
今後、このような特定少年の実名報道が報じられる都度、弁護士として、その是非をしっかり考えていきたいと思います。

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