リーガルエッセイ

公開 2020.10.01 更新 2021.08.13

子どもが被害者になるわいせつ事件

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、教員の立場を悪用し、13歳未満の少女にわいせつな行為をしたとして、小学校の教員だった男性に懲役6年の実刑判決が言い渡されました。
報道によれば、9か月間もの長期にわたり、複数回にわたって、13歳未満の少女に対し、わいせつ行為をしたり、動画撮影をしたりしたとの事実が認定されたようです。

私も、検察官だったとき、教員が学校の生徒に対しわいせつ行為に及んだ事件の主任検事を務めたことがあります。
児童がわいせつ行為の被害者になる事件はその捜査が容易ではありません。
そして、加害者が児童の通う学校の教員だった場合、より深刻な問題が生じます。

まず、児童は、年齢によって、教員のわいせつ行為を「わいせつ行為」として認識できないこともあるため、被害が発覚しにくいという面があります。
いつもそばにいて自分たちを守ってくれる存在であるはずの先生の言動について、疑いの目を持ちづらいのだと思います。
それでも、ふとした児童の言葉に違和感を抱いた親が被害に気付き、発覚したとしても、年齢によっては、児童が自分の身に起きたことをあったままに話すことはとても難しいことが多いんです。
犯罪を立証するときには、それがいつの出来事だったかということを特定する必要がありますが、年齢によっては必ずしも日付で記憶できるわけではないですし、また、ある出来事との前後関係もわからなくなってしまうこともよくあります。
毎日学校で顔を合わせる教員の行動ともなるとなおさらです。

聴き方を間違えると、児童が、取調官の言葉をもとに事実をねじまげて記憶してしまう危険もあるので、児童が自分の言葉で記憶を正確に話せるよう、取調官の技術も必要になります。
心の問題もあります。
正確に余すところなく被害を聴きださなくてはいけないという思いが先走り、何度も、いろいろな角度から被害について確認するとなると、児童にとって忘れたい記憶を何度も掘り起こさなければならなくなり、悲しい思いが胸に刻まれてしまう心配もあります。
学校という場で自分が唯一頼れる存在の先生から被害を受けていたのだという事実に直面し、ショックのあまり、なかなか話ができなくなったしまうこともあります。
当然です。
ですので、児童の心に寄り添いながら、心の傷がこれ以上大きくなることがないように細心の注意を払いながら、必要な聴取をすることは容易ではありません。
私自身も、被害の深刻さ、犯行の卑劣さから我を忘れそうになってしまうくらいの怒りでいっぱいになりながらも、感情的になってしまうことは、最終的に、被害者の声を救い上げ、正義を実現する障害になってしまうという思いから、このような犯罪の捜査をしている間は夜も眠れないことがよくありました。
なによりも、児童本人とそのお子さんを見守る親の立場よりもつらいものはないはずです。
加害者が教員だったということになると、さらに、被害の場になった学校に行けなくなるということもよくあります。
児童の気持ちを思うと当然です。
親の立場でも、そんな被害を止められなかった学校全体への不信も募り、学校になど行かせられないという思いにもなるでしょう。
ですから、児童が教員によるわいせつ事犯の被害者となった事件の報道を見聞きすると、懲役何年という判決となって表れた背景に、どんなかたのどんな思いがあるのだろうと想像し、胸が痛くなります。

「わいせつ教員」復帰は?

先日、閣議後記者会見で、文部科学大臣が「わいせつ教員は教壇に戻さない方向を目指して法改正していきたい」と述べたと報じられました。
そして、その一方で、当該教員の職業選択の自由との兼ね合いを考え、採用権者の判断と責任で採用できる選択肢を残すことも検討されているとのこと。
みなさんはどう思われますか?

今の法律のもとでは、教員が懲戒免職になった場合、教員免許が1回失効するものの、3年後に再交付申請をすることができます。
先日、「全国学校ハラスメント被害者連絡会」などが、子どもにわいせつ行為をして懲戒処分となった教員に、教員免許を再交付しないでほしいと求める約5万4000人分の署名を文部科学省に提出したと報じられました。
3年経てば再交付できるという仕組みについて、性犯罪は再犯率が高く、更生するための医療機関なども十分にないと訴えたとのこと。
子どもにわいせつ行為をして懲戒処分となった教員に教員免許を再交付するのか否か、するとしてどの程度の期間再交付ができないこととするのか、今、注目が集まっています。
私自身、まだまだ性犯罪の再犯率、小児性愛などについての勉強が十分でないので、今後、弁護士として意見を持てるように勉強しなければならないなと思っています。
また、弁護士として、冤罪の可能性も常に頭に置かなければならず、証拠を冷静に見る目を忘れてはならないと思っています。
あくまでも、証拠により事実が認められたらという前提にはなりますが、私は、やはり、子どもにわいせつ行為をした事実が認められて懲戒処分となった教員については、教員免許の再交付をしないという方向で法改正が進むことを願います。
教員である以上、教員が児童に対してわいせつ行為に及ぶことが児童の今後にどんな影響を及ぼすのかということをよくよくわかっているはずです。
でも、あえて規範を乗り越えたわけです。
普通の大人以上に乗り越えることにはハードルがあったはずの一線を越えた、その事実は非常に重いものだと思います。
たしかに、過ちから立ち直る機会は与えられるべきだという声はもっともだと思います。
でも、児童に対してわいせつ行為をした教員の立ち直りの場所は、学校以外の場所であるべきだと思います。
犯罪には法定刑の軽重がありますが、ひとつひとつの犯罪のかげに被害者が存在することを考えると、犯罪同士を比較してこちらがもっと重い、こっちは軽い、という考えを持つべきではないと私はいつも思います。
でも、この、児童に対するわいせつ行為については、児童に与える傷を考えたとき、取り得るすべての対策を講じて発生を防がなければならないもっとも重い犯罪のひとつだと思っています。
二度と被害者を作らないという目的のためには、わいせつ行為に及んだ教員の立ち直りの場所に関し、職業選択の自由が一定の制限を受けることもやむを得ないことだと考えます。
もちろん、教員の免許再交付を認めなかったら、こういった被害をなくせるかというとそうではない実態があります。
大人が、子どもが自分に寄せる信頼、お互いの関係を悪用して、わいせつ行為に及ぶことは、何も教員と児童との間で起きることではないからです。
でも、被害に遭う子ども、自分の宝物である子どもを傷つけられたことで深い傷を負う親の存在を考えたとき、まずは、教員免許の再交付に関し、厳しい法改正が早期に進むことを願わずにはいられません。

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