リーガルエッセイ

公開 2020.10.02 更新 2021.08.13

違法薬物の入手先を明かしていない?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、違法薬物を所持していたということで逮捕された俳優のかたが、起訴されたと報じられました。
起訴後に行われた保釈請求も認められ、釈放されたとのこと。
これを報じるテレビ番組の中で、あるかたが「反省されている気持ちはよくわかるけど、入手経路を言わないということがひっかかる」という趣旨の発言をされたと報じられました。
実際に、被告人となった男性が違法薬物の入手経路を供述しているのか、それともこのコメントの前提となっているように入手経路を黙秘しているのか、ということはわかりませんが、少しこの件を離れて、違法薬物の入手経路についてお話ししてみたいと思います。

違法薬物の入手経路 「黙秘」はどのような意味を持つ?

違法薬物の入手経路を明らかにすることには意味があります。
たしかに、現にそこにあった違法薬物を所持していたことは明らかだし、本人も所持を争っていないのだから、さらにそれをどうやって入手したかなどというストーリーは関係ないじゃないか、本筋とは違うじゃないかという見方もあるかもしれません。
でも、所持の事実に関し、どこからどのように現状の占有状態に至ったのかということは重要な事実です。
実際、検察官が、違法薬物の入手経路について被疑者が黙秘しているということなどを理由に勾留延長請求し、これが認められることもあります。
また、違法薬物の入手経路を明らかにするということが、被疑者、被告人の反省の気持ち、更生の意欲の表れとして評価されるという意味もあります。
逆に、被疑者、被告人が、自分が違法薬物を入手していた先について黙秘するということは、入手先をかばう意図があるからで、本気で違法薬物を断絶する気持ちに欠けるのではないかという見方をされることがあります。
冒頭に紹介したコメントもそのような見方の表れなのではないかと思います。
さらに、違法薬物を所持の検挙はいわゆる末端の使用者の摘発に過ぎず、捜査機関としては、これをきっかけに、入手経路の全容を解明し、違法薬物をめぐる犯罪組織を壊滅させることを大きな目標に掲げ捜査しています。
入手先を明らかにするということは、その捜査に協力することにもつながるのであり、そのような姿勢が反省の気持ち、更生への意欲と評価されることもあるでしょう。

違法薬物の入手経路 「黙秘」には事情も

私は、検察官として薬物事件の捜査、公判を務めた経験も、弁護人を務めた経験もありますが、私の印象として、裁判の場や供述調書上で違法薬物の入手経路について全容を明らかにできるケースは極めて少ないのではないかなと思います。
もう少し正確に言うと、被疑者、被告人が、弁護人には真実の入手経路をきちんと供述しつつ、ただ、これを捜査機関には供述できない、裁判の場で明らかにできないと考えているケースは一定数あると思います。
また、検察官の取調べの中で、真実の入手経路について供述はしつつも、供述した内容を供述調書に書かないでほしいと希望したり、書かれた供述調書には署名できないと言って署名を拒否したりするというケースもあります。
ですので、一般的に、公開の法廷では違法薬物の入手経路が明らかになっていないからといって、被疑者、被告人が、違法薬物の入手経路について何も供述していないというケースばかりではないと思っています。
では、どうして、被疑者、被告人が、違法薬物の入手経路について書かれた供述調書に署名することに応じられないと思うことがあるのか、捜査機関には言えない、裁判では明らかにできないと考えるのか?
それぞれに個別の事情があるとは思います。
ただ、私自身の経験上は、「自分の罪は洗いざらいなんでも話す。でも、他人を巻き込むことはできない」という気持ち、また、「入手経路を供述してしまえば、違法薬物を取り扱う、自分もその姿を知らない犯罪組織から報復されるのではないか」という気持ちから、入手経路について明らかにすることをおそれることが多いのかなと思っています。
たしかに、「そんなにおそろしい組織が関わっているとおそれていたなら、そもそも違法薬物に手を出すな」という非難はあると思います。
もっともだと思います。
でも、いざ犯行が発覚して初めて自分のしたこと、違法薬物やそこに関わる犯罪組織というものを意識するということもあるでしょう。
恐怖心や他人を巻き込むことへのおそれから、法廷で明らかにしたり供述調書に書かれたりすることができないと思う気持ちは、必ずしも、被疑者、被告人が反省していないとか更生の意欲を持っていないということと結びつくとは思えません。
このような事情を抱えたかたの事件で、いかにして違法薬物との関係を完全に断ち切るか、物理的にも断絶できる環境を整えるか、そしてその意思を法廷で裁判官に見てもらうか、という点は弁護士として真摯に考えなければならないと思っています。

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