リーガルエッセイ

2021.04.20

暴行罪と傷害罪の違いとは?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。

暴行罪で現行犯逮捕

先日、歌手の女性が暴行の被害に遭い、その暴行の被疑者として特定された男性が暴行罪で現行犯逮捕されたと報じられました。
報道によれば、女性がタクシーに乗っていたところ、30分くらい、そのタクシーを追尾してくるタクシーがいたとのこと。
そのことに気づいた女性が、タクシーを止めて降り、後続のタクシーに乗車していた男性を問い詰めたところ、その男性から、肩を押されたり腕をつかまれたりしたとのこと。
男性は「否認」していると報じられています。
報道だけからは、女性の訴える被害に関しどのような証拠があるのか、また、男性がいったいどのような供述をしているのかはわかりません。
肩を押したり腕をつかんだりなどしていないと供述しているのかもしれません。
また、報道によると、女性が、「私から捕まえた」と供述しているかのような記載もあるため、男性は、「突然捕まえられそうになったから、自分の身を守ろうとしただけ」などと供述し、自分の行為は責められるようなものではないと供述しているのかもしれない。
いずれにせよ、事実関係は今後の捜査により明らかになるはずですので、この件を少し離れて一般的な話をしたいと思います。

暴行罪という犯罪は、殴ったり、蹴ったりというわかりやすい暴力だけでなく、人に対して胸倉をつかんだり、体を押したりしても成立しますし、人のいる狭い室内で日本刀を振り回した行為が暴行罪にあたるとした裁判例もあります。

暴行罪のほかに傷害罪という犯罪があります。
ときどき、暴行罪と傷害罪とを正確に区別していないと見受けられる報道を見ることがあります。
暴行罪は、上にあげたような暴行に及ぶものの人にけがを負わせていない(正確に言うと、人がけがをしているけれども、被疑者による暴行との因果関係が証明できていないケースもあります)。
でも、傷害罪は、人にけがなどを負わせるという結果を生じさせたときに成立する犯罪です。
だから、暴行罪は、傷害罪に比べて法定刑は軽い。
暴行罪の法定刑は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。
刑罰だけを見ると、比較的軽い犯罪であると言われています。

今回の報道を見たとき、「肩を押したり腕をつかんだりしただけで逮捕されちゃうの?」と思ったかたもいるかもしれません。
もちろん、今回のケースの事実関係はまだ捜査が始まったばかりでわかりませんが、一般的に、自分が、面識のない人から肩を押されたり腕をつかまれたりすることを少し想像してみると、そして、自分が女性で、相手は男性だということを想像してみると、そう簡単に、「それくらいで」なんて言えないとは思うのです。
結果的に傷害を負わなかったとしても、その時点ではその場に押し倒されてしまうんじゃないか、大けがをさせられるんじゃないかという恐怖感だってあるはず。
とても「それくらい」なんて言えません。
ただ、結果として暴行罪の成立にとどまるとしたら、たしかに、法定刑としては比較的軽微な犯罪といえ、その事実があったとしても、必ずしも逮捕されるとは限りません。
むしろ、身柄拘束はされないままで捜査が進むことも多いように思います。
それでは、今回の件ではなぜ逮捕されたのか?

事実関係はこれからの捜査で明らかになることだと思うのですが、一般的に考えると、男性が否認していることが大きく影響しているのだと考えます。
現行犯逮捕ですから、現場の状況や女性の訴えから、警察が、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」という現行犯逮捕が認められるための要件を満たすと判断したはず。
その上で、犯行を否認するということは一般的に、証拠を隠滅するおそれが高く、事実解明に支障が出ると評価される傾向があるため、そのような評価のもと、逮捕されたのではないかと思います。
とはいえ、一般的に、暴行罪で逮捕されたケースでは、今後の捜査状況、被疑者の弁護人と被害者側の弁護士との話し合いの状況などによっては早い段階で釈放される可能性もあります。
今後の捜査に注目していきます。

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