リーガルエッセイ

公開 2020.07.03 更新 2021.08.13

覚せい剤を隠し持っていたのに無罪?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、スーツケースに覚せい剤を隠して輸入した罪などで起訴された外国籍の男性に無罪判決が言い渡されたと報じられました。
無罪になった理由は、税関の検査に重大な違法があったと認められたことでした。
報道によれば、税関は、この男性のスーツケースをカッターなどで解体し、これにより覚せい剤を見つけたそうなのですが、裁判所は、スーツケースを解体することについて税関が男性本人の承諾を得ていなかったと判断しました。
そして、そのような検査方法には重大な違法があるとした上で、そのような違法な手続きによって見つけた覚せい剤は、証拠として使うことができないとして無罪を言い渡したというのです。

このニュースに対しては、ネット上で、「実際覚せい剤が見つかったんでしょ?それなのに無罪になるの?」「こんな話がまかりとおるなら、検査を拒否してしまえばみんな無罪になるじゃないか」などという投稿が多く寄せられていました。
みなさんは、どう思いますか?
具体的な事実関係や男性の供述状況などがわからないので、果たして、その男性がそこに覚せい剤が隠されていることについてどう認識していたと供述しているか、などは分かりません。
ですので、この報道を離れて考えてみますが、たしかに、ある人が、自分の手荷物に違法薬物を隠し持って輸入したというケースで、その人が違法薬物を輸入したということは紛れもない事実なのに、その検査手続きに違法があったからという理由で無罪になるということに違和感を感じるかたもいるかもしれません。
その違和感には、物は、それを収集するための手続に違法があってもなくても、その物としての価値に何も変わりはないはずなのに、手続きに違法があったからといってその物を証拠として使えずに無罪となるなんておかしいじゃないかという考えが大元にあるのだと思います。

違法に収集された証拠は証拠として使えないルール

でも、これが刑事裁判のルールなのです。
つまり、違法に収集された証拠は、裁判で証拠として使えないということです。
どの程度までいったら違法なのか、という点はもちろん裁判で争われることになりますが、スーツケースの持ち主が明確に検査を拒否しているのに、同意なくしてスーツケースをカッターなどで解体してしまったら、それは、勝手に人の物を壊したことになり、それ自体が犯罪になり得る重大な違法行為と言われても致し方ないと思います。
では、検査を拒否されたら、税関としては手も足もでないのか?違法薬物を隠し持っているだろうと疑われるのに、そのまま見逃さなければならないのか?というと、それもおかしいですよね。
そのような場合は、裁判所に令状請求して、令状を取得した上で証拠を収集すればよかったのです。
にもかかわらず、令状もとらず、本人の承諾も得ずにスーツケースを解体してしまったら、それは重大な違法があったとして、そのような手続きを経て収集した覚せい剤は証拠として使えないことになってしまいます。
なぜこのようなルールになっているかというと、違法な捜査を抑止するためです。
適正な手続きで収集していれば有罪になるべき人について、違法捜査をしたことで処罰できなくなるとしたら、それは社会正義を実現するという観点からもあってはならないことですよね。
ですので、捜査機関は、そのようなあってはならない事態を招かないように、適正な手続きをとろうと細心の注意を払うのです。
税関の検査は、犯罪捜査自体ではありませんが、捜査につながる手続きとして同じように適正手続きの要請が働きます。
私も薬物事件の捜査経験が多数ありますが、通常、税関も警察も、所持品検査の際、本人の承諾があるかを慎重に確認し、これが疑われるような場合は令状請求の手続きをしていますし、検察官も、担当する事件で証拠収集の手続に違法がないかはまず第一にチェックする重要なポイントだと認識しています。

そして、弁護人には、その慎重になされるはずの手続に本当に違法がないかをさらに確認する任務があります。
普段仕事をする上でも、「ちゃんとそれぞれがやるべき仕事をしているはずだ」という考えでいると思いがけないミスが発生することってありますよね。
違法薬物に関わる事件に限らず、弁護人として、捜査の過程のどこかに違法があるのではないか、という疑いの姿勢を忘れずに任務にあたらなくてはいけないと改めて気を引き締めています。

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