リーガルエッセイ
公開 2025.10.23

検察官が「贈り物」を受け取れない理由について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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贈り物

先日、検察官が、取調べを担当した参考人から飲食など計109万円を超える接待を受けたとして、停職10か月の懲戒処分となった旨報じられました。
検察官は国家公務員。
国家公務員に関しては、国家公務員倫理法という法律があり、これは「国民全体の奉仕者であってその職務は国民から負託された公務であることにかんがみ」「職務の執行の公正さに対する国民の疑惑や不信を招くような行為の防止を図り」「公務に対する国民の信頼を確保する」ことを目的としているとされています。
だから、国家公務員である検察官は、利害関係者から金銭、物品などを受けることを禁止されています。
ここで、「利害関係者」というのは、被疑者、被告人、その弁護人らに加え、その立場の人から金銭等を受け取っていたとしたら、検察官の職務執行が贈答によってゆがめられているのではないかと不信を招くような立場の人たちと解されることになるでしょう。
この点は、私自身も、検察官になってすぐ、一番最初に叩き込まれたところ。
捜査のために参考人がいる会社等に出向いて行った先で、もしお茶を出されたとき、そのお茶に口をつけてよいのか、そのような緊張感を常にもってあたるべし、と指導された記憶があります。
そういえば、そんな話を聴いた当時の私は、「職務は職務として完全に公正にやり遂げるのは当たり前。贈答によって判断が曲がることなんてあり得ないのに」と、なんだか自分たちのプロ意識をばかにされているかのようで腹を立てていたっけ。
検察官として事件捜査にあたっていると、しばしば、被害者の方々が、わざわざ会いに来てくださって、その際、御礼とおっしゃり、お菓子などをくださろうとする機会があるのです。
そのお気持ち自体はとてもうれしいもの。
でも、絶対にそれをいただくことはできません。
検察官は、公益の代表者としての立場で捜査に従事しているのであり、特定の個人クライアントのために仕事をしているものではありません。
保存がきかないお菓子を、たくさんお持ちいただいたときなどは、本当に本当に心苦しいのですが、大事なルールとして、丁寧に説明をさせていただいた上で受け取りをお断りせざるを得ないのです。

ちなみに、弁護士に関しても、贈り物をいただくことについて一定のルールがあります。
まず、国選弁護事件に関しては、国から報酬をもらうことになっており、名目を問わず被疑者、被告人その他から対価等をいただいてはならないことになっています。
案件の相手方からの受領も禁止です。
もし、自分の代理人が、自分とは対立関係にある相手方からお金をもらっていたら?
自分の代理人のはずなのに、自分ではなく、相手のために有利な活動をするかもしれないという不信感を抱かざるを得ず、信頼関係を築くことなどできないですよね。

物をいただくということ。
私は、常日頃、その重みをとてつもなく大きなものとして受け止めています。
当たり前のことではあるのですが、その物は、突然、ふと私の目の前に現れるのではありません。
その物を贈り物としてお持ちくださったかたが、大事な時間を使って、私のことを考えて物を選んでくださり、それを送る手配をしてくださったり、直接ご持参くださったりしたということ。
そんな過程を思い浮かべると、ときにはルールをまっすぐに適用することにためらいを感じてしまうかもしれない。
でも、プロとして仕事をする以上、絶対に曲げてはいけないルール。
今一度、このようなルールに関わる立場の人は、なぜそのようなルールがあるのかということをしっかりと身にしみ込ませる必要がありそうです。

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