リーガルエッセイ
公開 2025.11.11

同意のない録音、裁判で証拠として使えるのか?

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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秘密で録音すること

先日、ある記事を見つけました。
韓国のある小学校の特別支援学級で、教員が、授業中に、ある男子生徒に対し、「本当に行儀が悪い」「ああ嫌だ、死ぬほど嫌だ」「君が嫌い、君が本当に嫌い」などと告げたとして、その行為が情緒的に虐待したと評価できるとして起訴されたとのこと。
その教員の刑事責任を決める裁判で問題になったのが、録音。
その男子生徒の親が、子どもが学校での出来事をうまく説明できないだろうと考え、ポケットに録音機をもたせ、結果、そこに録音されたデータが証拠となって1審は教員に対し有罪判決が言い渡されたとのこと。
でも、2審の裁判官は、その録音行為を違法な盗聴であると評価して証拠としての能力を否定。無罪としたというのです。

これ、日本だったらどうなっていたかななどと考えてみました。
相手の同意を得ずに録音した場合のそのデータが、裁判で証拠として使えるのかという問題です。
裁判で証拠として使えるための資格があることについて、証拠能力があるという言い方をします。

この証拠能力の問題は、裁判で争点となることが比較的多いです。
そして、少し細かい話になりますが、その裁判が、刑事裁判なのか、民事裁判なのかにより、考え方が少し違ってくるのかなと思います。

まず民事裁判について。
少し昔の裁判例になりますが、その裁判では、民事訴訟法では、証拠能力に関しては、何ら規定していないとした上で、基本的には、その証拠能力は肯定されるものの、その証拠が、著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるときには、違法という評価を受け、証拠能力を否定されてもやむを得ないと述べられています。
その上で、話し手の同意なくしてなされた録音のテープは、通常話し手の人格権の侵害となり得るとしながら、証拠能力があるかどうかに関しては、その録音の手段方法が著しく反社会的と認められるかどうかを基準として評価すべきであると述べているのです。
何をもって、手段の反社会性を認めるかという点については、それぞれの事案の個別の事情をもとに検討すべきところ。
この基準をもとにこの報道事例のようなケースについて考えてみるとどうなるのだろう。
(この報道事例は、刑事責任に関する裁判のようですが、仮に慰謝料請求等民事裁判だったとして検討してみたいと思います)
子どもが特別支援級に通っている。
報道だけから詳しい状況はわかりませんが、もし、子どもには、発達の特性があり、自分が経験した出来事を自分の言葉で親に打ち明けることが難しい状況だったとしたら?
そのようなわが子が、これまで毎日通っていた学校に行き渋るようになってきたとしたら?
そして、その理由を尋ねても、ただただ苦しそうにしているだけで、うまく言葉にできなかったとしたら?
学校の先生に状況を確認しようとしても、学校の先生からは納得できる説明がなく、むしろ、その説明を聞いていたら、学校の先生の対応に問題があるのではないかという不安を抱かざるを得なかったとしたら?
子どもが、突然、「自分は嫌がられてるんだ。嫌われているんだ」などともし言ってきたとしたら?
なぜそう思うのか尋ねても、その理由を説明せず、ただただ学校に行くことが苦しそうな様子だったとしたら?
親の立場だったら、「もしかして、学校で何か問題が起きているのかもしれない」「他の生徒からいじめを受けているのかもしれない」「先生との間で問題が生じているのかもしれない」などと考え、なんとかしてその状況を明らかにしなければならないと考えるはず。
そして、わが子にとって、その説明をすることが難しい状況があるのだとしたら、わが子を守るために、やはりこっそりレコーダーをもたせ、自分が知ることのできない学校での時間に何があったのか、知ろうとするのではないかと思わざるを得ません。
何が起きているのか知ることができなければわが子を守ることはできない。
でも、起きていることを知るためには、そのようにして録音するよりほかに方法がないと思えるからです。
そう考えてくると、そのような形で録音して得たテープの証拠能力は否定されないといえそうです。

では、同じような立場にある保護者の方から、「こっそり録音させることは問題がありませんか?それを証拠として使えますか?」と聴かれたら、100%問題なしということはできないのだろうと思います。
「同じような立場」と言っても、状況はさまざま。
個別事情により、その行為が違法と評価されることもないとは言えないからです。

これが刑事裁判における話だったとしたら?
刑事裁判では、民事裁判におけるよりも、証拠能力が厳格に制限されています。
でも、被害者が、被告人の同意を得ずに録音したテープが、刑事裁判の証拠として採用された事例もあります。
こちらも、個別事情を総合考慮しての評価になっているはずなので、一律、どんな場合でも録音が証拠能力をもつと言い切ることはできないと思います。

こうして考えてくると、報道された事例がもし日本で問題となった場合は、具体的にどんな事情があったのかというところが、証拠として採用できるかどうかの評価をわけそうですね。

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