リーガルエッセイ
公開 2025.12.16

「〇〇するしかないんでしょうか?」について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「〇〇するしかないんでしょうか?」について

私が弁護士としてお客様とお話していると、よくお客様から言われる言葉があります。
それは、「ってことは、私は、〇〇するしかないってことでしょうか?」というもの。
たとえば、相手のした行為に関し、不法行為であるとして慰謝料の請求をしたいというご相談。
相手の行為によって傷つき、悲しい思いをした。
それは紛れもない事実。
でも、その相手の行為が法的に不法行為であると評価できるとまではいえなかったり、仮に不法行為であると評価し得る余地があったとしても、その行為があったことを証明すること自体が難しかったり、という事実関係があったとする。
そのような状況下ではあるものの、相手は、謝罪の気持ちとして一定の額の支払を申し出てきた。
ただ、その金額には到底納得できない。
「自分の思いどおりの金額を獲得するためにはどうしたらいいか」と思われるのはもっともなことだと思います。

そのようなとき、弁護士として「相手ともう少し話し合ってみて、それでも相手が金額の引き上げに応じず、その結論に納得ができなければ、裁判を起こして裁判所の判断を仰ぐという選択肢がある」と説明することになります。
同時に、「ただ、裁判では、こちら側の主張どおりに事実が認められ、こちら側の求める法的評価がされるとは限らず、さらには、仮に不法行為であると評価されたとしても、慰謝料の金額は今相手が提示している金額とあまり変わらないものとなる可能性がかなり高い。」などというリスクも説明します。
もちろん、事実関係、証拠関係に照らし、その可能性がどの程度のものかということも、できる限り見通しとして説明します。

そのような話をしたときに、「ってことは、私は、今の相手の提示額で泣き寝入りするしかないってことでしょうか?」などと質問されることがしばしばあります。
そのように、ご自身には選択肢がほかにないではないかと思われる気持ちももっともだと思いつつ、そのようなとき、私は、「いや、そうではない」と明確にお伝えするようにしています。

私は、あくまでも、選択肢はひとつではないということ、ご自身がいくつかある選択肢の中からご自身でいずれかを選び得る立場にあること、その選択は、何を大事にしたいかという価値観、優先順位に対する考え方に立ち戻ってご自身で責任をもってなす必要があることをきちんとお伝えせねばと思うからです。

もっとも経済合理性の高い選択をするという方針なのであれば、相手の提示額(または交渉の上少しでも上回る金額)に沿った金額を受け取ることする。
ただし、それは、「泣き寝入り」なのではなくて、「自分は、置かれた状況でできる限りのもっとも経済合理性の高い選択肢を採用したのだ」と捉える。
また、もっとも大事なのは経済合理性ではなく、後で振り返ったときに、「自分は、相手から受けた行為を考えたとき、相手が提示してきた金額では到底納得できない」という姿勢を最後まで表明し続けたという事実であり、仮に、裁判でその主張がそのとおり認められなかったとしても、自分が、できる限りの闘いを自分のためにし続けたことが自分の支えになるのであり、自分にとって大事なことであると考えるのであれば、相手の提示額での合意を拒絶し、裁判で最後まで闘う。
もちろん、裁判の過程で、状況を見て、方針の変更をする可能性もある。
実際は、こういう単純な二択ではなく、もっともっと細かい選択肢があり得ます。

ご自身はどうありたいか。
ご自身が後で今の出来事を振り返ったとき、今回の件をどう解決したら後悔がないのか。
ご自身が人生で大切にしたいと考えていることは?
その大切にしたいと考えているものに立ち戻ると、今回の選択はどうあるべきか。
そのようなことを徹底的に考えて、自分が主体的に選択する。
私は、たとえ、「相手の提示額に合意する」という結論が同じであったとしても、「泣き寝入りせざるを得なかった」と捉えてそこに至るのか、または、「自分の大切にしているあり方に立ち戻り、複数の選択肢の中から自分が主体的に選んだ」と捉えてそこに至るのかによって、後々、今回起きたことの意味付けが後々変わってくるように思うのです。

最後にその選択をするのはお客様自身。
お客様が、自信をもってその選択をするために、弁護士としていかにお客様の置かれた状況を正確に、わかりやすく説明するか、よりよいお気持ちの状態で選択できるようサポートさせていただくかということに精一杯努めていきたいと思います。

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