リーガルエッセイ
公開 2026.04.21

軽率では済まされないSNS投稿

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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投稿のその前に

先日、この4月に入社した新入社員が、いかに仕事にやりがいがあり、楽しいかなどという内容の文章に添えて、自身の入館証や業務で使用する社内資料の写真を投稿したという報道を見ました。
そして、その出来事との関係性はわかりませんが、警視庁サイバーセキュリティ対策本部は、SNS上で、「新入社員の皆さんへ『フォロワー限定だから大丈夫』は危険です」という警告をするとともに、「投稿内容がスクショや転送によって拡散するリスクがあります。社内資料やPC画面の写真1枚が、会社の信用失墜や法的責任に直結することも。投稿の前に、一度立ち止まって考えましょう」と呼び掛けています。

この報道に対しては、「こんなことも投稿してしまうのか」と、その軽率な行動に驚き、呆れるコメントであふれていたように思います。
たしかに、軽率であることは間違いないし、もっというと、結果の重大性を考えると、軽率などという言葉で片付けていい問題ではないことも事実。
でも、自分が社会人1年生だったときのことを思い出したとき、いろいろ思うところはありました。

私の社会人1年目は検察庁。
周りがすでに就職し、お金を稼いでいる姿を横目に「私は、果たしてこの受験生活を抜け出すことができるのだろうか」と焦りながら猛勉強してやっと獲得した資格。
毎日、終電まで、取調べ、公判期日、翌日の準備などに追われながらも、「ついに社会人として働きだした自分」「社会正義実現のために身を粉にして働きまくる自分」に興奮し、常に高揚感に包まれていたように思います。
家族に電話して、何も聞かれていないのに、「立場上何も言えないのだけど、ちょっといろいろ大変な仕事していてさ、毎日忙しいけどやりがいがあるよ」なんて言ってみたりして。
やりたかった仕事に就いたという誇らしさや、慣れない生活でなかなかしんどいこともある中「これこそ自分がやりたかったことだから大変なことも含めて幸せなんだ!」と言うことで自分を盛り立てようとする必死さ・・・いろいろな感情で忙しかったような気がします。
高揚感や、とはいえ日々蓄積する心身の疲労感で、自分の感情を整理したり、日常生活で的確な判断をしたりといったことができなくなっていた時期もあったような気がするのです。
そんな中で、私が、「今日も朝から否認している被疑者の取調べ!がんばるぞ!~執務室のびっしり埋まったスケジュール表の写真を添えて~」「やった!自白ゲット!~取調室でガッツポーズする私の写真を添えて~」「連日終電逃して記録の山に埋もれる日々・・・でも正義のために私はやる!~事件記録の山の写真を添えて~」なんていう発信をしなかったのは、私にその判断をするだけの賢明さがあったからではなくて、単に、当時の私にとってSNS投稿という発信手段が存在しなかったからなのかもしれません。
当時の私にとって、SNS投稿という発信手段が身近なものであったとしても、私は、果たしてそんな投稿をしなかったか?
とても「しなかった」と自信をもって言うことができません。
とても他人事とは思えないのです。

だから、私は、今回報じられたケースが、その人限りの特別なものだとは到底思えません。
むしろ、ここに至るまでにたくさんの苦労があって、やっとたどり着いた夢のスタート地点に立ったという思いがあるからこそ、リスクへの感度が鈍ってしまったり、判断を誤ってしまったりということは、意外と身近にあるのではないかとも思うのです。

とはいっても、「だから、多少羽目を外しても仕方ない」というわけではありません。
そのような行為が会社で定めるルールに反していると評価されて懲戒処分を受ける可能性もある。
そのような行為によって会社に損害が生じれば、その請求をされることもある。
不正競争防止法などに違反したとして、刑事責任を追及される可能性もある。
発信するにあたっては、一度立ち止まって、その発信がどのような意味をもつのか、受け手にどのように受け止められるのか、しっかり考える必要があります。

「私は、投稿を公開設定していないから大丈夫。信頼している限定した友達に限って閲覧できるようにしているから」と考える人もいるでしょう。
でも、それは、あまりにも想像力に欠けた発想。
その「信頼できる友達」のことを果たしてどれくらい知っているのか?
自分は、何でも話し合える友達と思っている相手。でも、その相手にとって、自分は果たしてどのような存在なのか?
その友達が、発信のもつ意味を正しく理解せず、軽率にも、悪意なく投稿を拡散してしまうリスクはゼロなのだろうか?
友達がスマホを落とし、それを拾っただれかが、スマホ内の情報を悪用するリスクはゼロなのだろうか?
サイバー攻撃により、意図せず、非公開の発信が外に漏れるリスクもあるのでは?
自分が信頼している友達に限定して閲覧できるように設定して投稿したものが、思いがけず拡散、不特定多数に公表されてしまう可能性は、具体的にいくらでもあり得るのです。
もっといえば、仮に、その発信が限られた友達の間にだけ共有されていたのだとしても、そもそも、会社のルールやその他法令に反し、業務に関係のない第三者に会社の情報を漏らすこと自体が問題。

これは新入社員に限った問題ではありません。
自戒の意味も込めて。
発信しようというときは、その発信は、不特定多数の人たちが目にすることになる可能性が高いということを前提に、発信内容に不適切なものは含まれていないか、それを見た人たちはどう感じるか一歩立ち止まって考え、必要に応じて、周囲の意見も聴きながら慎重に。

そして、この春に踏み出した一歩をだれよりも一番よく見てきているのは紛れもなく自分自身。
発信してもしなくても、ここまで積み重ねてきた時間も、選び取ってきた道も、そこから得た誇りや自信もちゃんと自分の中に残っているはずだし、そのたしかな手ごたえは、必ずこれからの新生活で力になってくれるはず。
気候も不安定で、心身の疲れも少し出てきやすい時期かもしれません。
私も、フレッシュな新入社員のみなさんとともに、一歩一歩積み重ねていきたいなと思います。

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