リーガルエッセイ
公開 2026.05.20

反省と後悔について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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反省と後悔

先日、ある報道で、凶悪な犯行に及んだとされている少年が、事件について、後悔や反省を供述している旨報じられていました。
これを見たとき、私は、ふと、検察官時代に担当したある取調べでの被疑者とのやりとりを思い出しました。

非常に凶悪な犯罪を犯したとして逮捕、勾留された被疑者。
彼が、取調べで、「心から反省しています」と語ったのです。
その言葉をきっかけに、概要、以下のようなやりとりをしました。
私「反省。そこをもう少し聞かせてください」
被疑者「うーん、反省は反省。やんなきゃよかった、みたいな」
私「やんなきゃよかった。そこをもう少し聞きたいです」
被疑者「やって損したっていうか。やっても何の意味もなかったし。結局捕まったし。終わったし。」
私「ほかには?」
被疑者「それだけ。やんなきゃよかった。なんでやっちゃったのか、みたいな」
私「なんでやっちゃったのか。そこ考えてみたいです。なんでやっちゃったのか、と自分に問うたとき、何か思い浮かぶことはありますか?」
被疑者「・・・」
私「今の話の中に、被害者のかたの存在はうかがえなかったように思いますが、どうなんでしょうね」
被疑者「まあ、申し訳なかったですよ」
私「申し訳ないとは・・・」
とまあ、こうして延々と続くわけなのです。

最終的には、「またもう一度話を聴きたいので、それまでに改めて今日のやり取りを踏まえて~などの点を考えてきてみてください」などと伝えて取調べは終了。
取調べ終了後、取調べに立ち会う検察事務官からは、「あの、被疑者は、また次もちゃんとした話はできないように思いませんか?そもそも表現が苦手な人なのではないかとも思うのですよね」と、「あんな質問しても意味ないじゃん」ということをやんわり言われてしまう。
たしかにな、とも思うのです。
言葉遊びをしているかのような感覚になってしまっては無意味だと思います。
でも、「反省しています」という言葉で片付けていいとも思えず。
反省というのは、本来、自分の言動を顧みて、その善悪などを改めて考えること。
ただ、犯罪に関わった人にとって本来必要な反省とは、辞書的な反省にとどまらないのだと思う。
第一に、自分の行為が他者にとって何を意味したかを想像する。
第二に、想像した他者の苦しみを、自分が引き起こしたものとして引き受ける。
第三に、取り返しのつかなさに直面する。
第四に、そういう行為をしてしまった自分というものを把握して、新たな自分を構築する。
この過程を経て初めて、人は、「もう二度と同じ過ちを繰り返してはいけない」と決意することができるわけで、検察官として、犯罪を犯した被疑者がそのような状態に至ることを目指すべきなのではないかと思っていました。
これが目指すべき反省なのではないかと。
この反省というものは、後悔とは異なるものであるはず。
私の思うところの後悔というのは、その矢印が徹底的に、過去に、自分に向いているような気がする。
逮捕、勾留、将来を喪失したかのような思い。
うまくいかなかった。
人生が変わってしまった。
そういう痛みが後悔の核心にあるような。
もちろん、後悔の中に、「被害者に苦しみを与えてしまい、取り返しのつかないことをしてしまった」という後悔もあるはず。
でもやっぱり、そうだったとしても後悔は、自分が感じる痛みを言語化したもので、自分の内側で完結してしまっているというか。
後悔の上で、「そんなとんでもないことをしてしまったのはどうしてだったのか」「相手の人生にどのような影響を与えてしまったのだろうか」「じゃあ、自分は今後どうしていけばいいのだろうか」そういったことを考え、後悔を反省に高めていく必要があるように思うのです。
だからこそ、私は、「反省しています」という一言で「ああ、そうですか。それなら大丈夫ですね」とは思えない。
向き合いたくないかもしれないことと嫌というほど向き合うことができるように、しつこく、丁寧に取調べに臨む必要があるのだと思うし、これは、検察官だけの話ではなく、弁護士として刑事手続きに関わるにあたっても、立場は違えど同じ話なのだと思っています。

そして、それに際して「言語化」というものは避けては通れない話なのだと思っています。
取調べに立ち会ってくれた検察事務官が言うように、人によっては、言語化というものがあまり得意ではないという人もいると思います。
でも、「言語化は苦手」で終わらせてはいけないように思うのです。
別に、日本語としてきれいな言葉であるとか、説得力をもつ表現であるとかいう必要は全くなくて。
自分の中の不安、怒り、後悔、絶望、いろいろな感情を理解し、その上で、その感情をもたらした可能性のある他者に言葉として投げかけたり、話し合って解決策を探したり、周りの人に相談したり、そういった道を選択していくために、言語化というものは欠かせないのだと思うのです。
「なんかイラつく」「なんかむかつく」「なんか攻撃してやりたい」「もう限界」そんな感情が生まれたときに、立ち止まって、自分の内側を見たり、その上で他者と関わったりすることができず、ただ感情の赴くままに動いてしまっては、同じことの繰り返しになってしまう可能性があるのではないかと思うのです。
だから、うっとおしくて仕方ない存在になろうとも、私は、目の前の人が、まずは、自分が関わった事件に関して、しっかり言語化して向き合うことができるように、話をしていく必要があるのだろうと思っていたし、今もそう思っています。

もちろん、これは唯一の正解などではなく、反省や後悔の定義についても、自分がしてしまったことへの向き合い方としてもいろいろな考え方があるのだと思います。
私は私の考え方で、真摯に、目の前のひとりひとりと関わっていきたいと思います。

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