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書類送検について
「書類送検」という言葉が、ニュースの見出しになることがあります。
先日も、ある著名な方が家族に対する暴行の被疑事実で書類送検された、という報道に接しました。記事には、「捜査関係者によると、容疑を認めているという」「書類送検に際しては、検察側に厳しい処分を求めない『寛大処分』の意見を付けたという」といった一節が並んでいました。
その報道に対するインターネット上の反応を眺めていると、「やっぱりやってたのか」「書類送検されたということは、もうクロということだろう」というような声がちらほら目に入ってきました。
その感覚、わかります。
「送検」という響きには、なんとなく「もう確定した」というニュアンスが漂ってしまうのかもしれません。
ただ、その解釈は不正確。
書類送検は、「クロが確定した」という手続きではありません。
そもそも書類送検というのは、報道用語であって、法律上の正式名称ではありません。
刑事訴訟法246条本文は、司法警察員が犯罪の捜査をしたときは、書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない、と定めています。
この「書類送致」のうち、被疑者の身柄を伴わずに、書類と証拠物だけを送るものを、便宜的に「書類送検」と呼んでいるにすぎません。
つまり、書類送検とは、警察が「捜査の結果はこれです。あとは検察官の方で判断してください」とバトンを渡す手続きのこと。
そこから先、公判請求するのか、略式で済ませるのか、不起訴にするのかを判断するのは検察官の役割であって、書類送検の時点では、有罪・無罪はもちろん、どのような処分にするかなど全く決まっていないのです。
そして、警察が、「寛大処分」の意見を付けたというくだり。
警察官が検察官に引き継ぐ書類には、その表紙に「犯罪の事実及び情状等に関する意見」という欄があります。
そこに、「本件については〇〇という事情があり、厳重処分を求めます。」とか「本件については〇〇という事情があり、相当処分を求めます。」などと記載されています。
通常、厳重処分というのは、警察が、その事件を公判請求すべきだと考えているということを指し、相当処分というのは、警察としては、必ずしも公判請求されるべきとまでは考えていないよ、ということを指すものであると理解されていると思います。
このような意見は、犯罪捜査規範という法令に「事件を送致又は送付するに当たっては、犯罪の事実及び情状等に関する意見を付した送致書又は送付書を作成し、関係書類及び証拠物を添付するものとする。」とあることに基づき記載されています。
もっとも、この処分意見は、あくまでも警察の意見であって、検察官を法的に拘束するものではありません。
検察官は、送致された書類と証拠を自ら検討し、捜査した上で、その処分を独自に判断します。
検察官は、被疑者や関係者に直接接している警察の見立てがどうなっているのかということを示すものとして確認しますが、その記載に、処分が拘束されることは実務上もありません。
むしろ、私自身は、検察官の役割というものを考えたとき、警察が、厳重処分と書いてあるものについては、「本当に、刑事責任を負わせる大前提としての証拠の評価に誤りがないか」という視点で、相当処分と書いてあるものについては、「被疑者にとって有利に働き得る事実関係が本当に証拠上認められるといえるか、さらにその事実をどう評価すべきか」などという視点で事件を見直す必要性を感じていました。
あれこれお話ししてきましたが、このようなことをもとに考えてみると、報道で「書類送検された」「寛大処分の意見が付された」と聞いたときに、私たちが受け取るべき情報は、「クロが確定した」でも「軽い処分で済むことが確定した」でもなく、「事件が警察から検察官のもとに渡され、これから検察官が処分を判断する段階に入った」という、それだけのこと。
報道に触れるとき、見出しの強さに引っ張られ、つい結論が見えたような感想を抱いてしまいがちですが、手続きの意味を一度立ち止まって確認してみるだけで、見え方は少し変わってくるのかもしれません。
特に、報道で当事者の方のお名前などが特定されているケースでは、報道が、当事者の方々の日常に与える影響は大。
弁護士として、報じられている内容に関し、誤解がありそうなときには、それを丁寧にお伝えすることというのは、人の人権に関わる大切な仕事だと思っています。
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