リーガルエッセイ
公開 2026.07.03

「法教育」について思うこと

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「法教育」という言葉から始まる、少しだけ肩の力を抜いた話

「法教育」こうして文字にすると、なんとも硬くて、少しとっつきにくい言葉だと感じます。
思い返せば、私が子どものころ、「法教育」などという言葉を耳にした記憶はまったくなかった。
社会の授業で、法律に関する話がどこかであったはずだけど、当時の私はまるで関心がなく、正直、何を習ったのか一切覚えていないのです。
中学でも高校でも、法律をしっかり学んだ記憶はありません。
学生時代に私が持っていた「法にまつわる知識」といえば、国民の三大義務や三権分立といった、教科書の太字で書かれていた用語くらいのもの。
ですから、子どもたちに向かって「さあ、法律を勉強しましょう」と呼びかけたところで、多くの子はきっと、まるで自分に関係のない遠い世界の話だと感じてしまうように思います。
法律が、どうにも「自分事」にならないから。
それも無理はないはず。
子どもたちの頭の中は、もっと切実な目の前の問題でいっぱいだから。
来週の定期試験でどう良い点を取るか。どこの学校へ進むか。
部活で次の試合の選抜メンバーに選ばれるか。
さっき、クラスの友達がいつもよりよそよそしかった気がするけれど、自分は何かしてしまっただろうか。
隣のクラスの気になるあの人と、今日はまだ廊下ですれ違っていないけれど、もしかして体調を崩して休んでいるのだろうか。
少なくとも私は、そんな思いで、頭はいっぱいいっぱいだった気がする。
自分に関係のない「法律」などというものを、じっくり考える余裕は、なかなかありません。
けれども、少しだけ立ち止まって考えてみてほしいのです。
実は、その目の前の悩みの多くは、法と決して無関係ではありません。
たとえば、試験でいい点を取りたいと願うあまり、友達の答案をのぞいたりカンニングに手を染めたりすれば、それは公正なルールを破る行為になりますし、逆に自分の答案やノートを勝手に写されたなら、努力の成果をどう守るかという問題にもなります。
進学先を選ぶ場面でも、入学案内の説明と実際の中身が食い違っていたら、それは「約束」をめぐる話。
部活の選抜にしても、明らかに不公平な基準や、暴言・体罰のようなことがあれば、それはもう「指導」の範囲を超えた話になるのか。
友達がよそよそしいと感じたときも、その裏に無視や仲間外れ、悪口の拡散があれば、いじめとして人の尊厳に関わる問題になりますし、気になるあの人のことも、思いが行き過ぎてしつこく付きまとえば、相手を傷つけ、ときに法に触れる行為にもなり得る。
そういえば、小学生のとき、クラスの男子たちが、勝手に私作成名義のラブレター的なものを書いて、それを、私が当時好きだった子のお道具箱の中に入れるとともに、その子作成名義のラブレター的なものも作成し、それを、私のお道具箱の中に入れておいて、双方の反応を見て楽しむという、なんとも悪趣味極まりなく、その行動の目的がまったくもって謎な犯行に及んだことがありました。
当時は、その子から手紙をもらえたものと勘違いしてぬか喜びさせられたことへの怒りと、男子たちがへたくそな文字で私の名を騙って手紙を書いたことで、相手に、私は本当は字が上手なのに、こんなにへたくそな字を書くやつなんだと思われたらどうしようという不安とでいっぱいいっぱいだったけど、私があの事案について、「これは文書偽造だ!」と訴えるなど毅然とした対応をせず「もう!男子は!」などと甘い対応をしてしまったがために、彼らはその後も同種犯行をエスカレートさせてしまった可能性もあるのではないか。
ラブレター偽造事件はともかく、こうして少し違う角度から眺めてみると、頭をいっぱいにしていたはずの悩みが、実は法と地続きだったと気づきます。
そして気づいた瞬間に、今まで思いつきもしなかった解決の糸口が見えてくることがあります。
一人で抱え込むしかないと思っていた問題に、「こういう考え方や相談先がある」と分かるだけで、心はずいぶん軽くなるものです。
さらに数年先、子どもたちは、アルバイトの労働条件、SNSでの発信、契約やお金にまつわる誘い、その他思いがけないトラブルなど、法と隣り合わせの場面に必ず出会います。そのとき、法やその趣旨に関する知識が、まさに自分自身を助けてくれることがあるのです。
私が果たしたい役割は、子どもたちにとって一見遠く思える法律との接点を示し、「法的に考える」という方法を紹介すること。
そして、その学びが、自分自身や周りの大切な人を守るために、とても大切なものだと伝えることです。
もし望むなら、将来、法の知識や考え方を知らなかったために被害を受けた人、トラブルに巻き込まれた人を助ける仕事に就くこともできる、そんな可能性があることも、あわせて伝えたいと思っています。
そういう大切なことを届ける場が、まさに法教育の授業だと考えています。
子どものころ、法律などまるで関心がなく、目の前のことでいっぱいいっぱいだった私だからこそ、法を「道具」として使いこなして働く面白さを、等身大で伝えられる気がしています。
そういえば先日、わが子からこんな質問を投げかけられました。酒気帯び運転で逮捕された人が「ノンアルコール飲料を飲んだ」と供述している、というニュースを見て、「これはどういうこと?」と尋ねてきたのです。
こうした身近なニュースを入り口に、お子さんの法的な知識や考える力を家庭で育てていく方法を、保護者の皆さまにお伝えすることもできればと思っています。
子どもたちが、法を少しだけ身近に感じ、自分や大切な人を守る力を手にする。
そのお手伝いができればと願っています。
皆さまとお会いできる日を、心より楽しみにしております。

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