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養子縁組届
先日、ある報道が目にとまりました。
ある男性が、ある女性を自分と妻の養子にしようとして、養子縁組届を役所に出したというのです。
そして、この男性は、妻の署名を勝手に書いてしまったと疑われているとのこと。
この点が犯罪として評価され、男性は在宅起訴されたというのです。
報道からは、報じられた内容が事実か否かはわかりませんので、ここでは、一般論として、養子縁組の手続きが、一方の養親の知らないところで勝手になされた場合に生じ得る問題について考えてみたいと思います。
夫婦で、ある人物を二人の養子としようとする場合には、夫だけでなく、妻もまた養親という当事者になります。
そうであるからこそ、届書には、妻自身の縁組をする意思が、妻の署名という形で示されることが予定されています。
にもかかわらず、「妻の意思」を、夫が勝手に作り出してしまうことは法的に許されることではありません。
他人の署名を無断で書いて権利義務に関する文書を作り出す行為は、有印私文書偽造にあたり得ます。
養子縁組届は、まさに親子という身分関係を左右する文書ですから、そこに妻の名を勝手に書き込むことは、この偽造にあたると評価されることが考えられます。
そして、その偽造した届書を、真正なものとして役所の窓口に提出すれば、今度は偽造私文書行使という別の評価が加わります。
さらに視野を広げると、虚偽の内容の届出によって戸籍という公の記録に事実と異なる記載をさせた点も、問題になり得ます。
戸籍は、人の身分関係を公に証明する、いわば社会の土台となる記録。
そこに事実と異なる親子関係が書き込まれてしまうことの重みは、決して小さくないと考えられます。
では、仮に男性が有罪となったとして、その養子縁組は、いったいどうなるのか。
とりわけ、妻の側から見て、この縁組の効力を否定するために、いったい何ができるのか。
まず、押さえておきたいのは、妻の位置づけ。
養親になろうとしていたのは男性であって、妻は養親という当事者ではなかったとしたら?
養子縁組が有効に成立するためには、当事者の間に、真に親子関係を結ぼうとする意思があることが必要です。
養母とされた妻に、そもそも縁組をする意思がまったくなかったのだとしたら、当事者の一方の意思が端から存在しないのですから、この縁組は、取り消すまでもなく、はじめから無効であるといえます。
では、妻がこの縁組の無効を主張することにしたとして、戸籍に記載された親子関係は、放っておけば自然に消えてくれるのか。
残念ながら、そう単純ではありません。
いったん戸籍に記載された事項は、たとえ実体が伴わないものであっても、正式な手続を経てはじめて訂正されるのが原則。
妻が採るべき道筋は、まず、家庭裁判所に対し、養子縁組が無効であることの確認を求めることになります。
そして、その無効を認める裁判が確定すれば、戸籍上も、縁組の効力が否定されていることが明確になります。
そのうえで、確定した裁判に基づいて戸籍訂正を申請し、戸籍に記載された養親子関係の記載を正してもらう、という流れ。
無効を確認する裁判という「確定した結論」があってこそ、戸籍という公の記録に手を入れることが許される、という関係になっているわけです。
養子縁組の手続きや本来あるべき手続きを逸脱したケースの取扱いに関しては、あまり知られていないように思いますが、さらっと知識を身に着けておくことは、もしかしたら、いつか、ご自身や周りのかたを守る道具になり得るのではないかと思っています。
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