リーガルエッセイ
公開 2026.07.10

託されたお金に宿る、誰かの願い

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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託されたお金のこと

大阪のグループホームで、利用者の方々から預かった2,355万円が横領されていた疑いがあるというニュースを読みました。
7年もの間、46人もの方から、少しずつ。
数字にすると一行で済んでしまうけれど、私は読み流すということができませんでした。

はじめに、グループホームという仕組みについて少しだけ触れておきたいと思います。
正式にはいわゆる障害者総合支援法上の「共同生活援助」と呼ばれるもので、障害のある方が地域の住まいで、世話人などの支援を受けながら暮らすための仕組みです。
食事や入浴、金銭の管理といった日常生活の場面で、必要な手助けを受けられる。厚生労働省などの公的機関でもこの制度は紹介されていますので、詳しくはそうした公式の説明にあたっていただくのが確かですが、要は「一人では不安のある部分を、信頼して誰かに委ねる」ことで成り立っている場所だ、と私は理解しています。
その「委ねる」の中には、しばしばお金の管理も含まれます。今回横領されたのは、まさにそのお金でした。

法律の話を、できるだけ短くします。

他人から預かって管理しているお金を、自分のもののように使い込んでしまえば、業務上横領罪が成立し得ます。
仕事として預かっている財産に手をつける行為だからこそ、通常の横領より重く扱われる。
難しい要件を並べるまでもなく、「人から預かったものを、勝手に自分のために使ってはいけない」という、子どもでも分かる約束を破った、というだけの話なのだと思います。

ただ、私がここで本当に書きたいのは、条文の解説ではありません。
そのお金は、どういうお金だったのだろう、とずっと考えています。
利用者の方がご自身で働いて、少しずつ貯めたものかもしれない。
あるいは、ご両親のような、その方を心から大切に思う誰かが、懸命に工面したお金だったのかもしれません。自分がいなくなった後も、この子が困ることのないように。そう願いながら、施設に託したお金だった可能性があるわけです。
だとしたら、横領された2,355万円は、単なる金額ではありません。
誰かの働いた時間であり、入所者の方の幸せを心から願う祈りのようなものです。
それを裏切る行為を、私はどうしても許せない。
感情的すぎると言われるかもしれませんが、ここは冷静に構える場面ではないと思っています。
施設というものを祈るような気持ちで信じた人たちが、その信頼を逆手に取られたという事実があったのであれば、どうしても許せない。

では、怒りだけで終わってよいかというと、そうではないのだろうとも思います。大事なのは、二度と裏切られることのない仕組みをつくること。
入所している方とそのご家族が、安心してお金を、そして暮らしを委ねられるように。

思いつくのは、たとえば次のようなことです。
一つは、お金の出入りを一人に任せきりにしない、複数の目でのチェックの仕組み。今回も、別の職員が帳簿を確認して初めて発覚したと報じられています。裏を返せば、日常的に複数でチェックできていれば、7年も見過ごされることはなかったのかもしれません。後で知ったことですが、実はこの「複数の目」という発想は、単なる私の思いつきではなく、預り金を管理する際の要件として、印鑑と通帳を別々に保管すること、複数の者が常に確認できる体制で出納を行うことといった形で、すでに国の通知に書き込まれているようです。それでもなお、通帳と印鑑を同じ職員が握り、長い間チェックが働かないまま事件が起きてしまう。問題は、仕組みがないことよりも、あるはずの仕組みが守られないことの側にあるのかもしれません。
もう一つは、その組織が本当に「委ねるに値する組織」なのかを、定期的に確かめる仕組み。
そして三つ目は、身内だけでなく、定期的に外部の機関の目を入れることです。調べてみると、お金の管理そのものは、決して制度の外で行われているわけではないようです。共同生活援助における「日常生活上の援助」の一つとして位置づけられ、本人の同意(保管依頼書)や運営規程、個人別の出納台帳、預り証、定期的な報告といった枠組みが、法令や通知のレベルで求められているのだと認識しています。ですから、規程や書類の整備という意味でのチェックは、少なくとも形の上では用意されているように見えます。ただ、それらの多くは事業者の内部での整備と報告を中心としたもので、「外部の目」による定期的な牽制が、制度としてどこまで行き渡っているのかは、なお心もとないように思われます。内部に確認体制を求めるだけでは、それが形だけのものになっていないかを、内部の人間が自ら見抜くのは容易ではありません。だからこそ、外からの定期的な目が要る。そう強く思うのです。

正直に申し上げると、こうした仕組みが今どの程度整えられているのか、私はまだ十分に把握できていません。すでに立派な制度があるのかもしれませんし、現場では足りていないのかもしれません。だからこそ、まずは実態を正確に知りたい。そのうえで、弁護士として、何かできることをせずにはいられない、というのが、この記事を読み終えたいまの正直な気持ちです。
託されたお金には、託した人の思いが宿っています。その思いを裏切らない仕組みを、きちんと形にしていきたいと思います。

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