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「土下座」を求めることについて
ある自治体で、情報公開請求の手続をめぐり、男性が、職員に土下座を求めたとして強要未遂の疑いで逮捕された、という報道がありました。
報道によれば、職員はその要求に応じなかったとのこと。
まだ捜査は始まったばかりだと思いますので、報道されているような事実があったのか否かについては全くわかりません。
ですので、この報道を少し離れ、カスタマーハラスメントについて取り上げてみたいと思います。
窓口で働く人にとって、怒鳴り声や威圧的な言葉を前にして、冷静に「できないことはできない」と伝えることは、決して簡単なことではありません。
土下座を強いる行為は、単なる「強い抗議」では済みません。
生命、身体、自由、名誉又は財産への害悪を告知して脅し、義務のないことをさせた場合には、刑法上の強要罪が成立し得ます。
法定刑は三年以下の拘禁刑で、未遂も処罰の対象です。
土下座は、相手の人格や尊厳を傷つける行為。
相手が公務員であっても、サービスを担う職員であっても、そして、仮にその対応に不満を抱かざるを得ないという経緯があったとしても、当然のことですが、これを求めてよい理由にはなりません。
「土下座に応じない」という対応は、その場に立たされたとき、意外に難しいものなのだと思います。
個人の勇気だけでなく、組織としての対応が日頃から共有されている必要もあると思います。
「理不尽な要求には応じない」「一人で抱え込ませない」「必要なら上司や警察につなぐ」。
こうした基本姿勢が徹底されていれば、現場の職員は孤立せず、自分自身の尊厳を守る判断をしやすくなるのだと思うからです。
カスタマーハラスメント、いわゆるカスハラへの対策は、2026年10月1日から新しい段階に入ります。
改正労働施策総合推進法により、事業主には、カスハラを防止するための雇用管理上の措置が義務付けられます。
具体的には、カスハラを許さず労働者を守るという方針の周知、相談窓口や相談体制の整備、事実関係の迅速な確認、被害を受けた人への配慮、再発防止などが求められます。
カスハラが起こりやすい場面の一つは、自治体の窓口かもしれません。
「税金を納めているのだから、公務員は自分のために力を尽くして当然だ」という思いが強くなりすぎると、正当な要望と相手を支配しようとする要求との境目を越えてしまいます。
たしかに、行政には、市民の声を丁寧に受け止める役割があります。
でも、職員は誰か一人のためだけに働く存在ではなく、限られた制度と人員の中で、すべての市民に公平なサービスを届ける役割を担っているわけです。
同じことは、病院でも起こり得ます。
診療を待つ不安や家族の心配は、時に強い言葉として表れてしまいます。
法律事務所でも、切実な悩みを抱えて相談に来られる方がいるからこそ、説明への不満や焦りが、担当者への攻撃に変わることがあり得ます。
法改正があるから対策をする、というだけでは十分ではないように思います。
カスハラを考える出発点は、窓口の向こう側にいる相手も、一人の人として尊重されるべき存在だという、ごく当たり前の点にあります。
要望は伝えてよい。
改善を求めてもよい。
しかし、怒りを理由に相手の尊厳を奪ってよいわけではありません。
また、個人的には、サービスを提供する立場においても考えるべきことがあるのだと思う。
困っている人の声を軽く扱わないことと、暴言や脅しを受け入れないことは、両立させなければなりません。
悪質なカスハラから組織や自身を守る意識を浸透させるとともに、日々の業務において、コミュニケーションの工夫、適切なタイミングにおける丁寧で納得感ある説明方法などもより磨いていく努力も尽くしていきたいなと思います。
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