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トイレの個室で起きる事件
先日、ある駅構内のトイレで、女性にわいせつな行為をしようとした疑いで、男性が逮捕されたと報じられました。
事件が起きたという時間帯は午後3時過ぎであったとのこと。
報道によれば、女性が、一人でトイレの個室内に入ろうとしたところ、突然、男性に、口をふさがれて個室に押し込まれそうになったものの、個室ドアが閉まらなかったために、女性が個室から脱出できたとのこと。
なお、男性は、わいせつな目的を否定し、「お金がほしかった」と供述しているとも報じられています。
事実は今後明らかになっていくのだと思われ、報道の限りでしか内容を把握しておりませんので、この事件の真相が何なのかについて語ることはできません。
ですので、この件を離れた一般的なお話をしてみたいと思います。
たとえば、女性がトイレの個室に入ろうとしているところ、男性が女性の口をふさいで個室に押し込んだという事実があったとする。
その事実だけを見たときに、果たして、その男性が何を目的としていたのかを知ることはなかなか難しいものだと思いませんか?
だれも、他人の心の中を客観的に知ることなどできないはずです。
そうなると、男性が、「私は、女性からお金を奪おうと思ってこのような行動をしました」と説明したら、捜査でも裁判でも、それがそのまま通ってしまうのか。
そうとは言えません。
男性は、この日、なぜその場にいたのか。
男性は、そこで何をしていたのか。
男性は、女性の口をふさいだとき、何か言葉を発していたか。
男性の当時の所持金はどうだったか。
差し迫って金を必要とする事情が客観的にありそうなのか。
その男性には、ほかに、より容易に金を手にする手段があり得たのか。
男性は当時どんな日常を過ごしていたのか。
男性には、同じような行動に出て、その後、わいせつ、または、金の強奪など目的を遂げた前科、前歴等があるのか。
その女性との面識があるのか。
いろいろな事実関係を照らし合わせ、客観的に認められるその他事実から、いったいその男性の目的はどこにあったと推認できるだろうかと評価することになります。
これって、刑事事件に特別なことではなくて、ふだん、日常生活で、なにげなくやっていることでもあります。
たとえば、Aさんを食事に誘ったところ、Aさんが、「すごく行きたかった。でも、今月は仕事が立て込んでいて、なかなか時間が取れないんだ」と言ったとする。
本来、Aさんが、その食事会に行きたいと思っているかどうかは、内心の問題で、外から見ることはできません。
とすると、私たちは、そのような場面に直面したとき、「ああ、Aさんは、本当は食事に行きたいと思ってくれているのに、時間がとれないんだな」と自動的に認識するか。
そんなことはないのでは?
たとえば、その後も、Aさんがほかの友人との食事や旅行の予定を入れている一方で、こちらからの連絡には返信せず、こちらからの誘いにだけは代わりの日程を示そうとせず、会う約束の話題を避け続けているという事実があったとする。
そうすると、「今月は仕事が立て込んでいる」というのは、文字どおり、時間が取れないという意味ではなく、「今はあなたと会う気分にはなれない」「少し距離を置きたい」という気持ちを、直接には言えずにいるのではないだろうかと考えることもあるように思うのです(これは、受け止める人によるのかも。あれこれ考えず、すべて相手の言うことを文字通り受け止める、または、受け止めるよう心掛ける、という人もいると思う)。
前後の言動やメッセージ、行動などを見ていくことで、一つの言葉だけを聞いたときとは違う、その人の内心を推測することは、日常的にもあるように思うのです。
場面も、推認の過程もかなり違うものかもしれないから、こうやって並べて比較するようなものではないかもしれないけど、内心の問題については、こうして、いろいろな要素を照らし合わせながら推測していくことになるのだと思っています。
ところで、「わいせつ目的で相手の口をふさいで個室に押し込んだ」のと、「金を奪う目的で相手の口をふさいで個室に押し込んだ」のとでは、犯罪の重さとして違いがあるのか?
不同意わいせつ目的の場合は、6月以上10年以下の拘禁刑。
強盗目的の場合は、5年以上20年以下の拘禁刑。
わいせつ目的だった方が法定刑は軽いといえます。
それを前提として考えると、「法定刑としては強盗目的だった場合の方が重いにも関わらず、わざわざ、「金を奪う」目的であったと言うのだから、それが事実なのではないか」という推論もありそう。
ただ、そこについては、そもそも、この2つの罪名の法定刑なんて、すべての人にとっての常識などではないわけで、これを前提として考えるのはちょっと現実的ではないのかも。
前にあげたさまざまな事実関係をもとに推認せざるを得ないところだとは思いますが、一般的に、「わいせつ目的とされるのは恥ずかしいから、せめて金目的と思われたい」という発想があり得るということは考慮しながら検討してもいいのかもしれません。
ただ、それもひとつの考え方に過ぎず、だれもがそういう価値観を根底にもっているなどという前提はないわけで。
人の内心というものを推認するということは、とても難しく、その推認過程に主観的な要素が働いていて誤った評価になっていないかということも慎重に検討する必要があるのだろうと思います。
ちょっと話がそれてしまいますが、外出先でトイレに入るということに犯罪被害に遭うリスクがあるなんて、多くの方がふだん考えていないことではないかなと思うのです。
そんなこと考えずに済む社会であったらいいなと思います。
でも、私も、かつて検察官だったころ、駅構内や商業施設内にあるトイレが犯行場所になったというケースを複数担当したことがあります。
トイレを利用する人それぞれが利用時に気を付ける、というのは、「いったい何をどう気を付けるのか?」と思えてしまう。
やはり、そのような場所を管理する立場の方々において、もちろん、利用する方のプライバシーが守られることは大前提として、犯行場所としての隙が生まれないための対策を講じる必要があるのだろうと思います。
そもそものトイレ設置場所の工夫、警備の方による見回り、危険を感じたときのブザー設置など、犯罪捜査を担う捜査機関の意見も取り入れながらの対策は不可欠ではないかと思います。
犯罪に遭うかもしれないなどと不安に思わずに済む場所が、少しでも増えていけばいいなと思います。
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