リーガルエッセイ

公開 2021.07.02 更新 2021.07.18

小学生の列にトラック、どうしたら痛ましい事件をなくすことできるか?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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八街市 下校中の小学生の列にトラック

本当にいたましい事件です。
まだ事実関係はわかりませんが、トラック運転手の呼気からは基準値を超えるアルコールが検出されていると報じられています。
トラック運転手の呼気からアルコールの検出と聞くと、「会社を出るときに呼気検査をしなかったのか?」と思うかたもいるかもしれません。
でも、運転前の体調チェックや呼気検査はすべての会社で実施されることが義務付けられているわけではありません。
これが義務付けられているのは、いわゆる緑ナンバーのトラック。
お客さんや貨物を運送することで対価をもらうことを目的とした車両です。
今回事件を起こしたトラックは、テレビ画面を見る限り、いわゆる白ナンバー。
法的に、運転前の呼気検査が義務付けられていたわけではないのです。
でも、思いませんか?
トラックは、普通の大きさの車やバイク以上に、人に衝突したときの衝撃は大きくて、運転の仕方によっては人の命を奪う凶器になる。
そして、そのことは、緑ナンバーだろうと白ナンバーだろうと変わりない。
そのようなトラックを走らせる以上、運転に際して飲酒チェックをしなければならないのではないか?
たしかに、仮に、事前に飲酒チェックをしたとしても、その後、飲酒しながら車の運転をされてしまえば、チェックを潜り抜けてしまうから、やはり、チェックの主目的は、運転前に運転者がすでに抜けたと思っているアルコールが残っていないか確認することになるのかもしれない。
報道によると、今回の件で、運転手は、昼に飲酒したと供述していると報じられており、これが事実であるなら、仮に出発時にチェックしても意味がなかったという見方があるかもしれません。
それでも、そのようなチェック体制をとることが運転者の意識を多少でも変える可能性があるかもしれないし、帰社後にもチェックするという体制にすればなおさら、一定程度の歯止めにはなるのかもしれない。

ただ、いくら「飲酒運転はやめましょう」と言ってみても、飲酒運転をする人には届かないし、会社が飲酒の有無をチェックする体制を作っても、チェックを潜り抜ける手段もあるだろうから、運転手の自覚や会社によるチェック任せになんてできないという前提で、飲酒運転をするような人間が存在することを想定し、どうしたら、痛ましい事件をなくすことができるかということも考えなければならないといつも思います。
飲酒運転について厳しく処罰し、これによる抑止効果を目指すことはもちろん大事。
でも、「飲酒運転でこのような痛ましい事件を引き起こしたら、厳罰に処せられる」と示し、将来の事件を抑止することは一定程度できても、今回犠牲になった大事な命を救うことができないんです。
飲酒運転の厳重処罰と合わせて、交通ルールを無視して危険な運転をする人間が存在することを想定し、危険を回避するためのできる限りの方策を講じておかなければならないと思います。
すべての危険を排除することは難しいですよね。
でも、報道によると、同じ小学校の学区内で、集団登校中の小学生の列にトラックがつっこんだ過去があるとのこと。
それを踏まえ、教育委員会も交通安全について注意を促すなどの取り組みをしていたとのことです。
具体的にどんな取り組みがなされていたかは報道だけからはわかりません。
また、現場付近の農道の様子もわかりませんので、軽率なことはいえません。
でも、子どもたちに交通ルールを指導したり、集団で登下校させたり、大人が見守りをしたりすることで、今回のような事件を果たして回避できるのか?と疑問に思います。
通学場所については拡張して車道との間にガードレールを設置するとか、それでも事故のリスクをぬぐい切れないなら、スクールバスを導入するとか。
もちろん、そのような検討もされていたのかもしれません。
現実的にできないこともあるのかもしれません。
でも、こうしているうちにも毎日登下校する小学生が存在することを考えると、二度と痛ましい事件を起こしてはいけないという思いを形にするには、改めて、ルールを無視した運転をする人間の存在を前提にした対応の検討が今すぐに必要だと思います。

逮捕の被疑事実は過失運転致傷罪でしたが、検察庁に引き継がれる時点では、法定刑の重い危険運転致死傷罪の被疑事実とされたと報じられています。
今後の捜査では、運転手がいつ、どのような状態で、どの程度の量の酒を飲んだのか、その酒は、運転にどのような影響を及ぼしていたのかという点が重要になるはず。
危険運転致死傷罪での起訴となるのか、今後の捜査に注目します。

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