リーガルエッセイ

公開 2020.09.18 更新 2021.08.13

殺人罪で起訴された被告に「過剰防衛」成立

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、殺人罪で起訴された被告人の裁判で、懲役15年の求刑に対し、懲役8年の判決が言い渡されたと報じられました。
求刑をかなり下回り、殺人罪としては少し軽い印象がありますよね。
裁判所が「過剰防衛」の成立を認めたことが原因となっているようです。
今回は、「過剰防衛」についてとりあげてみたいと思います。

「過剰防衛」 正当防衛とは何が違う?

「正当防衛」という言葉は聞いたことがあるかたも多いのではないでしょうか?
正当防衛というのは、まさに今、自分等の生命等がだれかから攻撃を受けていたり、その危険がすぐそこに迫っていて、逃れることができないというときに、生命等を守るために必要相当といえる行為のことをいいます。
正当防衛が成立すると、刑事責任は問われません。
検察が、正当防衛が成立すると判断すれば起訴されませんし、検察は正当防衛が成立しないと判断して起訴したものの、裁判所が正当防衛の成立を認めたら、無罪になります。

過剰防衛というのは、この正当防衛が成立するための要件のうち、「危険から逃れるための相当な行為」という要件を欠くものをいいます。
たとえば、素手で殴りかかってきた相手に対し、相手の年齢や体格などからすれば、素手で対抗すれば危険を逃れられることは明らかなのに、金属バットを使って相手を殴る、というような行為などは、正当防衛でなく、過剰防衛が成立すると評価される可能性があるでしょう。
過剰防衛は、防衛行為が相当でない、やり過ぎたものと評価されるので、正当防衛のように「刑事責任に問われず」とはなりませんが、自分の身に迫った危険から身を守るためにやむを得ず行為に及んだという点で刑の減軽や免除がされる可能性があります。

冒頭で挙げた事件は、交通トラブルに端を発したものでした。
報道によれば、裁判所は、車を運転していた被告人が、赤信号で停車中に、被害男性と、車の割り込みをめぐって口論になったこと、そして、その後被害男性が被告人の車のドアミラーを蹴り、被告人の車の窓ガラスにしがみついたこと、被告人は、被害男性が窓ガラスにしがみついていることを認識しつつ車を急発進させ、1.2キロ走行させたことで、被害男性を転落させてタイヤでひいたことを事実として認めたとのこと。

そして、被害男性が、被告人の車のドアミラーを蹴ったり、窓ガラスにしがみついたりした行為は、被告人に停車を求める趣旨から逸脱した違法性の高いものだと認め、この時点では、被告人と被害男性の距離も近くなっており、被告人に危険が迫っていたと認められるとし、過剰防衛を成立させたようです。
つまり、被告人には危険が迫っていて、被告人が被害男性から身を守るために車を急発進させて走行させたということは認められるものの、それは身を守る行為として過剰だったという判断がされたのです。
過剰防衛が成立したがために、殺人罪としては比較的軽いといえる懲役8年という判決になったのだと思います。

正当防衛や過剰防衛が争点になる事件、私も検察官のときに複数担当したことがありますが、何よりも難しいのは、被害者のかたがお亡くなりになっているという件では、被告人側に、被告人が主張するような危険が迫っていたといえるかという点を判断することです。
たとえば、被告人が、「被害者が包丁を振り上げて、私に刺そうとしてきたんです。だから、やむを得ず、金属バットで殴ったんです」と供述したとき、被害者が本当に包丁を振り上げて被告人を刺そうとしてきたのかどうか判断することは、すでに被害者が被告人の行為により亡くなっていたら、被害者側の言い分を聞くことができず、判断が非常に難しくなります。
もともとの被告人と被害者との関係性、目撃情報、防犯カメラなどに映っている被告人、被害者の行動の記録などをもとに慎重に判断することになります。
今回の事件について、具体的な証拠関係がわかりませんが、犯行に至る経緯を認定するにあたっては同様の難しさがあったのではないかと想像します。

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